打倒なでしこを目指すイングランド …一体感を生み出す“それぞれの物語”

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 ワールドカップ連覇を目指すなでしこジャパンの前に、準決勝で立ちはだかるのがイングランド代表だ。ワールドカップでの4強入りは女子史上初。男子を含めても1990年イタリア大会以来の快挙。マンチェスター・シティー・レディースに所属する主将のステフ・ホートンはこの試合を「イングランド女子サッカー史上最大のゲーム」と位置づけ、並々ならぬ決意をのぞかせている。

 堅守速攻を基礎に、カウンターやセットプレーに活路を見出すスタイルは古き良きイングランド流。16強のノルウェー戦、準々決勝カナダ戦はいずれも相手にボールを支配されながら、全選手が“フォア・ザ・チーム”の精神を持ってハードワークを続け、勝利を手繰り寄せた。

 英国メディアが伝える躍進の要因は、チームの一体感だ。マーク・サンプソン監督は大会前、「お互いに個人的な話を明かそう」と選手たちに呼びかけた。それぞれの境遇や大会にかける思いを知ることで、苦境に陥っても互いを刺激し合い、グループを団結させることができると考えたからだ。その中で明かされたいくつかのストーリーが、『BBC SPORT』などで紹介されている。

 男女通じて同国史上最多の146キャップを持つリヴァプール・レディースのMFファラ・ウィリアムズは元「ホームレス」。家族関係が崩壊したことから家を出て、10代後半からおよそ7年間も安ホテルを渡り歩く生活をし、それをずっと隠しながらプレーを続けていた。家族と和解した現在では、かつての自分と似た境遇の女性たちを支援するチャリティー活動を行なっている。

 チェルシー・レディースに所属する33歳のMFケイティ・チャップマンは三児の母。彼女は以前、“ママプレーヤー”へのサポート不足を訴えて代表から干されてしまった過去がある。だが、サンプソン監督の下で復帰し、今大会は子供たちに優勝メダルをプレゼントすべく戦っている。

 MFジェイド・ムーアは17歳の頃、心臓に2つの穴が空いていることが発覚。医師からは「このままプレーを続ければ40歳で死ぬかもしれない」と告げられ、若くして引退の危機を迎えたが、無事に手術を成功させて今も元気にプレーを続けている。

 チームで2番目に若いFWフラン・カービーは、初戦でフランスに敗れた後、第2戦でメキシコ相手に先制点を決めてチームを勢いづけた。彼女は14歳で愛する母を脳内出血で亡くしている。その失意から鬱病にかかって17歳でサッカーを辞めてしまったが、サッカーを楽しむ娘の姿を楽しみにしていた「母のために」立ち直った。

 大儀見優季の元チームメートであるチェルシー・レディースのFWエニオラ・アルコは、若い頃から女子サッカーの将来に不安を覚え、必死に勉学にも励んだ。見事に弁護士となってサッカー選手と“二足のわらじ”を履き、ハードな練習の前後に弁護士事務所でデスクに向かい、あのワン・ダイレクションがレコードレーベルと交渉する際の手伝いもしたという。現在はサッカーに集中しているが、引退後は再び法律の世界に戻り、女性アスリートの契約交渉を手伝うことで女子スポーツ界に貢献したいと話す。

 他にも、なでしこの救世主となった岩渕真奈と似た状況にあったのが、準々決勝カナダ戦で先発に抜擢されてゴールを決めたFWジョディ・テイラー。試合後のインタビューで歓喜の涙を見せた彼女は、わずか2カ月前に膝の手術を受け、大会出場すら危ぶまれていた。涙の意味は、ゴールだけでなく最後までチームのために「死ぬほど走った」ことへの喜びだったと語っている。

 選手の数だけドラマがある。自分のために、仲間のために。それぞれの決意を胸に、一丸となってぶつかってくるイングランド代表は、なでしこにとって難敵になりそうだ。

(記事/Footmedia)