『AV男優しみけん 光り輝くクズでありたい』(扶桑社)

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 いま、"AV男優"がメディアで注目を浴びている。書店をのぞけば、水野スミレ『「AV男優」という職業 セックスサイボーグたちの真実』(角川書店)、鈴木おさむ『AV男優の流儀』(扶桑社)といった本が書棚に並んでいる。

 映画では、昨年劇場公開された、カンパニー松尾監督作品『劇場版 テレクラキャノンボール2013』(こちらの主役は"男優"もこなすハメ撮りAV監督たち)が、AVファンのみならず、シネフィルの間でも話題となった。さらに、テレビでも『白熱ライブ ビビット』(TBS系)で女性向けAVが特集され話題となったのは記憶に新しい。

 昔から、加藤鷹やチョコボール向井など、一般的知名度をもったAV男優も皆無ではなかったが、最近のAV男優ブームはこれまでにない規模である。

 それには、"女性向けAV"が、一部の好事家向け商品ではなくなり、一般のユーザーにも受け入れられつつあるのが背景にある。

 特に、女性向けAVメーカー『SILK LABO』は、鈴木一徹を輩出し大人気に。彼を含む月野帯人、ムーミンの3人は「エロメン3銃士」と呼ばれ、女性からアイドルのような支持を得ている。

 そんななか、嵐山みちる監督が立ち上げた女性向けAVシリーズが『GOSSIP BOYS』だ。しみけん、森林原人、黒田悠斗、ぽこっしー、藍井優太の5人のAV男優によるグループ、GOSSIP BOYSの活躍は映画化され、『GOSSIP BOYS 2014 THE MOVIE』として劇場公開も実現。

 黒田悠斗が身体づくりのためランニングする姿、森林原人が性感染症予防に関する啓蒙活動の講演のため自費で関西へ向かう姿、イケメン男優として人気を博す藍井優太が秘められた女性恐怖の感情を告白する姿といった、普段AVのなかでは見ることのない様子は女性ファンを大いにうっとりとさせていた。

 そんな"AV男優"だが、実は想像以上に大変な仕事らしい。先のGOSSIP BOYSのメンバーで、「週刊プレイボーイ」(集英社)など多数の雑誌連載をもち、テレビ番組にも定期的に出演している、いま最も有名なAV男優・しみけんが『AV男優しみけん 光り輝くクズでありたい』(扶桑社)を出版。その知られざる実態を明かしている。

 まず、その苛酷さを物語るのが人数。毎月4000本近くのAVがリリースされているアダルトビデオ大国の我が国だが、実は、1万人ほどいると言われている女優に対し、男優はわずか70人ほどしかいない。慢性的な人手不足状態なのだ。

 憧れて業界入りする男性は「年間300人くらい」と多いのだが、「1年後に残っているのはおそらく3人くらい」だという。

 その理由として、しみけんはSNSの影響をあげている。インターネットの普及により、AV業界への窓口は広がっているのだが、その分、「親バレ」「恋人バレ」の危険性も増加。周囲にバレてしまったことで業界を去る男優が多いらしい。若者だけではなく、最近では〈65歳のおじいちゃん男優が「孫にバレたから辞めるんじゃ」と孫バレで業界を去って〉いったという。

 また、AV男優志望者の前に立ちはだかるのが、厳しいヒエラルキーだ。AV男優になろうとしても、すぐに70人の中に入れるわけではない。

 最初は大抵、ぶっかけものでお馴染みの精子を出すだけの「汁男優」をやらねばならない。しかも、この「汁男優」の中にもヒエラルキーがあり、〈勃ち待ち、出し待ちがなく、いつでも発射可能か〉〈画面映えする良質なザーメンが、大量に射精できるか〉〈女優さんの顔に上手くザーメンを乗せられるか〉で、「上汁」「中汁」「下汁」に区分されるという。
その「上汁」の中でも頭角をあらわすと「汁エース」と呼ばれるそうだ。

 ちなみにギャラは7千円から、〈汁エースでも月収25万円に届けばいいほう〉で、専業でやっていける汁男優は珍しいという。

 その汁男優から這い上がっても、まだ絡みはできない。次は、フェラのみの「フェラ男優」。ただ、月収は20万〜50万にあがるそう。さらに出世し、絡みの撮影もする世間が"AV男優"と認知するような仕事ができるようになると、月収は40万〜80万に。

 以前、3万円以上の領収書に印紙を貼らなければならなかったことからその名がついた「印紙男優」は、その名の通り1現場3万円以上で、月収60〜150万円。この辺りで〈30人程度の狭き門〉だ。そして、わずか数名ほどの「トップ男優」になると、1現場5万円以上で月収200万円以上を稼ぎだす者もいる。

 そんな高収入を叩き出すAV男優のひとりが、しみけんなのだが、それだけ稼ぐために、彼はいったいどれだけの仕事をこなしているのだろうか?

 彼の典型的な1日のタイムスケジュールは以下の通り。

8時半 起床
10時 1つ目の現場
14時半 終了
16時 ジム
18時 2つ目の現場
23時 終了
23時半 夕食
1時 帰宅(原稿執筆、録画テレビの鑑賞、読書)
3時 就寝

 現場の合間にジムに行くストイックさもさることながら、1日に2現場ハシゴしていたとは......。これだけ忙しくなった背景には、時代の流れと、意外なことに、彼の局部が小さいことが関係しているそうだ。

 リーマンショック以降AV業界にも不況が到来。制作費が削減されてしまったことで、これまでだったら2日撮りしていた撮影が1日撮りになってしまった。そうすると、必然的に女優さんの1日にこなすセックスの数も増加。かなりの「鉄マン」(鉄のように丈夫なマンコ)の持ち主であっても、1日に3回近く撮影用のセックスをこなせば、身体が悲鳴をあげる。そこで、女の子に優しい小さなチンポ、が求められるようになったらしい。

 その優しくて小さなチンポの持ち主・しみけんはそれを「エコチンポ」と呼び、こう宣言するのだ。

「デカチンポの男優ではなく、"エコチンポ"男優が重宝される! というふうに、「風が吹けば桶屋が儲かる」方式で、"エコチンポ"にバブルがやってきたのです!」

 アソコが小さいというのは、普通の男性も気になるものだが、AV男優としてはなおさらコンプレックスになりそうなもの。AV男優にはこれくらいの開き直りとポジティブさが必要ということだろう。

 他にも、同書にはAV男優としての気遣い、努力、苦労が随所に出てくる。たとえば、必ず準備しておかなければならないアイテム。

 たとえば、女優の大事なところを傷つけないように、爪ヤスリは必須だ。彼自身は、ベネチアンガラスの爪ヤスリを愛用しているそうだが、なかには、スワロフスキーが散りばめられたヤスリを持っているオシャレな男優もいるそう。

 そして、2つめは、ボディソープ。男優は1日に何度もシャワーを浴びることから、飽きないようニオイを定期的に変えるそうで、彼のお気に入りは、ジェラートピケやラッシュのボディソープとのこと。

 3つめは、パンツ。業界用語では"男パン"と呼ぶそうだが、AV男優にとって、パンツは唯一の正装。

 なので、男優たちは、あまり知られていなくて、なおかつオシャレなパンツを探し求める。大きく分けると、"グレイブボールド"派、"TOOT"派、"ブラウンバニー"派と、3つの流派に分かれるそうだが、男優たちは現場で男優仲間に「それいいね、どこのブランド?」と聞かれることを目指して日夜オシャレなパンツを探し求めているそうな。

 AVの大変さは台本からもうかがえる。AVの現場といえど、もちろん台本は存在する。「しみけんさんテイストで」といった具合にあまり書き込まれていないパターンもあれば、「キス→耳舐め→おっぱい揉み」など事細かに絡みの内容を指示されるパターンもあるそうだが、どちらのタイプの台本にも必ず存在するのが、どこに射精するかの発射位置の指定だという。

 ちなみに精子の乗せ方には各々名前がついていて、女優さんの顎から眉間にかけて、目に精液が入らないように、顔の中心線に発射する「キカイダー」、女優さんの顔の眉間を中心に斜めに発射する「ハーロック」、お好み焼きの上にかかった格子状のマヨネーズのように、シャーシャーと発射する「お好み焼き」などというらしい。やはり、何はなくとも、射精をコントロールするスキルが求められるということだろう。

 しかも、この精液に関しても、驚いたことに、男優の体質によって違いがあり、AVに向き不向きがあるというのだ。

「精液には、かけられた女優さんの肌がヒリヒリするタイプと、そうでないタイプがあります。男優の体質によるものですが、僕の精液はヒリヒリしない低刺激系で無味なタイプなので、この体質を親に感謝しています。男優のなかには、ヒリヒリする精液であることが知れ渡り、女優さんに「あの人の精液は肌に合わない」などと言われる人もいます。なんだか化粧品みたい!?」

 まさに、現場にいる人しか知り得ないエピソードの数々。日本のアダルトビデオは、中国をはじめ、世界中で斬新な企画と高いクオリティが評価されてきたが、その裏には"AV男優"のこうした努力や苦労があったというわけだ。

 ただ、そのAV男優業界は、これまで述べてきたような理由で、なかなか若手が育っていない。平均年齢が30〜40代と高止まりし、高齢化の危機に瀕しているといってもいい。しみけんは同書の中で、この状況に対する危機感を語っている。

「僕は若手にどんどん出てきてほしいです。今のようにどのAVを観ても同じような男優ばかり出ていれば、「またこの男優か」とAV全体が飽きられてしまいかねません」

 また、前述の映画『GOSSIP BOYS 2014 THE MOVIE』でも、しみけんが「自分がAV以外のテレビや雑誌連載の仕事をこなすのは、アダルトビデオの世界を抜け出そうと思っているからではなく、自分が"AV男優"という仕事を世間に広めることで、若い人たちのために少しでも業界に入る窓口を広げていきたいから」と発言をするシーンがでてくる。

 女性向けAVの本格普及、そしてしみけんのようなAV男優の活躍で、もしかすると、業界はこれから大きく変わるかもしれない。
(羽屋川ふみ)