■福田正博フォーメーション進化論

 日本代表のヴァヒド・ハリルホジッチ監督は、「ボールの奪い合いでの球際の強さ」と「少ないタッチで素早く縦を突く攻撃」を重視し、就任してから短期間でチームを大きく変化させてきた。

"ハリル流"は、センターバック(CB)の選手起用にも見てとれる。日本代表のCBは、W杯ブラジル大会に出場した吉田麻也と森重真人が、ザッケローニ、アギーレ両監督のもとで守備陣の中心にいた。しかし、イラクとの親善試合(6月11日/4−0)、シンガポールとのW杯予選(6月16日/0−0)で、CBで起用されたのは吉田と槙野智章だった。

 槙野は過去、日本代表に招集された時に、サイドバックとして起用されたことはあったが、ハリルホジッチ体制では初めてCBとして起用された。これは槙野が備える "これまでの日本人CBが持っていなかった特長"が、ハリルホジッチ監督の目指すサッカーにマッチするためだ。

 現代サッカーにおいてCBに求められる能力のひとつは「スピード」だ。だが、歴代の日本代表を振り返ると、スピードに特長のあるCBはほとんどいなかった。そのため、緻密なポジショニングやライン・コントロールなどの連係によって、相手FWと駆け引きできるDFを守備の中心に据えてきた。

 槙野はこれまでのCBと異なるタイプで、優れたスピードがある。ここで言うスピードは、FWに裏のスペースを取られた時に対応できるスピード、インターセプトするために相手の前に出るスピード、ボールを前線に運ぶためのスピードだ。

 ほとんどの日本人CBは、守備時に抜かれないことを前提にしてボールホルダーとの間合いを取る。CBが抜かれると即シュートにつながるため、足を出してボールを奪うチャレンジも少ない。相手の攻撃を遅らせて味方のサポートを待ち、数的優位を作って守ることが多いが、見方を変えれば、これは相手のミス待ちの消極的な守備でもある。

 槙野の守備スタイルはこれとは異なる。槙野は、持ち前のスピードと身体能力の高さを生かして積極的にボールを奪いに行く。相手FWに入るパスのインターセプトを狙い、果敢に足を出す。そして、ひとたびボールを奪うと、そのスピードを生かして攻撃に勢いを生み出す。これこそが、ハリルホジッチ監督が槙野をCBで起用する理由だろう。

 槙野のようにボール奪取して縦に攻撃に転じるのと、奪ってから一度自陣にパスを下げるのでは大きな違いがある。だからこそ、縦に速いサッカーを掲げるハリルホジッチ監督は、縦への推進力を生みだせる槙野を起用したのだ。

 ただし、選手として際立った特長がある槙野には、不安材料もある。それは4バックのCBとしての経験値の低さだ。槙野は2006年にJリーグデビューしてから現在に至るまでほとんどの時間を、3バックを基本布陣にするペトロビッチ監督(2012−浦和/2006-2011広島)のもとでプレーしてきた。そのため4バックの中央で守備をする経験が圧倒的に足りない。

 経験が少ないことで懸念されるのがポジショニングだ。浦和では3バックの左ストッパーの槙野は、中央にCBが残っているので後方のカバーが常にいる。そのため、いいポジショニングを取ることよりも、高い身体能力を武器にアグレッシブな守備を優先してきた。しかし、4バックでは2人のCBが密に連係を取りながら、「カバー」と「チャレンジ」をして相手を押さえなくてはならない。そうした点での槙野の経験不足は否めない。

 こうした経験を所属クラブで積むことができればいいのだが、浦和が3バックを採用しているため、槙野が4バックの経験を積める場が日本代表にしかない。これは、ハリルホジッチ監督にとって悩みの種なのではないだろうか。

 どんな選手でも必ずミスをする。その「トライアル&エラー」から学んだことを次に生かすことで成長につながるものだが、CBの試合経験の場が代表戦しかない槙野にとっては、その機会が限られてしまい、しかも、代表でのミスは日本の敗戦に直結し、大きな批判に晒されることになる。そのプレッシャーを受けた槙野が、消極的になって堅実さを優先するようになると、アグレッシブな守備という彼の持ち味が発揮されにくくなる可能性もある。

 もうひとつ、槙野の国際舞台の経験が乏しいことも気がかりな点だ。28歳の槙野は、2018年のW杯ロシア大会を31歳で迎える。これまでW杯に出場した代表選手で、初出場が30代の選手は、GK以外のポジションでは遠藤保仁などごく少数だ。そして、初出場したときのW杯の感想を選手に聞くと、「緊張した」「最初の45分はいつも通りできなかった」と誰もが口をそろえる。そうした独特の空気がある大舞台で、槙野が本領を発揮する難しさもあるだろう。

 たとえば、20代でブラジルW杯を経験している吉田や森重であれば、その経験を、円熟味が増す30代で迎えるロシアW杯につなげることができる。また、CBには現在22歳前後の植田直通、昌子源や岩波拓也といった将来を嘱望されている若手もいる。大舞台の経験値という点も含めて次のW杯を見据えると、CBの競争は激しくなってきているといえる。

 しかし、私はCBとしての経験を積んでいければ、槙野は日本代表にとって大きな力になると期待している。スピードでチームに躍動感を与え、スピードがあることでDFラインを高く保持できる。さらに、セットプレーでも攻守に強い。

 ハリルホジッチ監督のサッカーを具現化するキーマンになる可能性を大いに秘める槙野が、今後どのように成長を遂げるのか注目していきたい。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro
津金一郎●構成 text by Tsugane Ichiro