■盛りあげよう!東京パラリンピック2020(29)

陸上・高桑早生インタビュー Vol.1

 2012年のロンドンパラリンピックに初出場し、陸上女子100m、200m(T44/片下腿切断などのクラス)で7位入賞を果たした、高桑早生。現在23歳の彼女は、今年の春から社会人になり学生時代とは違う環境になった。2016年のリオパラリンピックでの活躍はもちろん、その先の2020年東京パラリンピックでの活躍にも期待がかかる高桑選手に、陸上競技との出会いから、現在の練習環境まで、さまざまな話をうかがった。

伊藤数子氏(以下、伊藤)今年の春からエイベックスに就職されて数カ月が経ちましたが、五月病みたいに落ち込むことなどありましたか? 

高桑早生選手(以下、高桑)うーん。あまりなってないですね。同期と一緒に研修を受けましたが、仕事自体は同期と同じペースでやっているわけではないので、もしかしたら遅れてくるのかもしれないですね。4月5月気分がまだ抜けなくて(インタビューを行なったのは6月上旬)。

伊藤:やっぱりそれは、勤務している時間の長さによるのでしょうか?

高桑:そうですね。私の場合は勤務時間を考慮していただいて、競技に専念できる環境を作ってもらっているので、おそらく同期が1日で覚えることを、私は3日も4日もかけてやっている感じです。なので、早く部署の力になれるように毎日必死です。

伊藤:焦ったりはしませんか?

高桑:自分は自分のペースでやろうとは思っているんですが、そろそろ焦りを感じたほうがいいのかなとも思ってます(笑)。

伊藤:入社したばかりの頃に、「終業時間になっても仕事しちゃうんですよね」っておっしゃっていましたが、今もそうですか?

高桑:今もそんな感じで、仕事の区切りが見えたら会社を出るようにしています。

伊藤:終業時間に「練習に行っていいよ」って言われたら、そこでぴったり上がりたいのかと思っていましたが、意外と......。

高桑:意外と。早くいろいろ覚えなきゃっていうふうに感じているからだと思います。

伊藤:なるほど。じゃあ、やっぱり本当にアスリートとしての自分と、社会人としての自分と、両方バッチリやりたいんですね。

高桑:そうですね。両方同じウエイトでっていうのはなかなか難しいので、だからこそできる限りのところでしっかりやらなきゃいけないなって思っています。

伊藤:限られた時間の中で仕事を覚えるのは大変かと思いますが、夕方からはしっかりと練習ができる環境ということですか?

高桑:はい、そうですね。

伊藤:では、今や生活の一部になっている"陸上"を始めるまでをお聞きしていきたいのですが、初めて走ったときのことって覚えていますか?

高桑:はい。骨肉腫が見つかって、中学1年生のときに左ひざ下を切断したのですが、そのあと最初に走ったのは、体育の授業の時だったと思います。その時はスポーツ義足もつけず、一般の生活をするような義足でした。体育が大好きなのに体育の授業に出られないのがとにかく悔しくて。日常生活をやっているうちに、ちょっと動けそうな気になってきちゃったんですね。階段が上れるようになって、速いスピードで歩けるようになって、じゃあ次は走れるんじゃないかなってちょっとどこかで勘違いをしてしまって、体育の体力テストってあるじゃないですか。あの50メートル走で、先生に「どうしても走りたい」ってお願いして走ったのが最初でした。

伊藤:それまで体育は見学してたんですか?

高桑:見学でしたね。つまらなかったです。初めて走った時も、"思ったより動けるんだな"っていうのと、でもどこか自分の体が思い通りに動かせないもどかしさみたいな両方を感じて、不思議な気持ちでした。

伊藤:タイムは覚えていますか?

高桑 50メートルを、確か20秒はかからなかったはずです。具体的には覚えてないですけど、思ったより走れたっていうのが印象としては残っていますね。

伊藤:それがすぐに、陸上をやりたい!っていう気持ちにつながっていったわけではなくて。

高桑:はい。それよりも、スポーツに対してより前向きになれたというか。自分はずっと硬式テニスをやっていて、走れたことで中学で入部したソフトテニス部にももうちょっとで復帰できるかなって思いました。

伊藤:テニス部に復帰したときは、日常の義足でプレイしたんですか?

高桑:はい。

伊藤:実際にテニスをやってみてどうでしたか?

高桑:走ったときよりも、テニスをやったときのほうが、より自分の体が思い通りに動かないなって思いました。テニスは、前に一直線に進むだけでなく、横の動きもあるので。それで、一時期テニスが楽しくなくなっちゃったんですよね。もしかしたら、その楽しくないなってちょっと思ったのが、高校に入った時に違うことを始めてみようかなっていう決断につながったのかもしれません。

伊藤:高校に入って陸上を選んだきっかけって何だったんですか?

高桑:入学前から陸上部にしようって決めてたわけではないのですが、たまたま義肢装具師の方が陸上に携わっていたりして、陸上が選択肢のひとつとして頭の中にありました。それで高校進学したら、高校の陸上競技部がそんなに強くないようだったので、これならなんとかできるんじゃないかな?って思って入部したという感じです。そこからですね、陸上競技と真剣に向き合い始めたのは。

伊藤:入る時は、例えばコーチとか監督、先生はどんな感じでしたか?

高桑:かなりオープンで、「いいよいいよ、やればいいじゃん」みたいな感じの先生でした。

伊藤:素晴らしい。そういう意味でも恵まれていますよね。

高桑:そうですね。結構運が良かったかもしれないですね。

(つづく)

文●スポルティーバ text by Sportiva