決勝ゴールを導き、無失点勝利にも貢献した岩清水。ベスト4進出を果たし笑顔を見せた。(C) Getty Images

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「勝ちたい気持ちが強いチームが勝つ」。ベスト4進出を懸けたオーストラリア戦を前に宮間あやはこう話していた。
 
 その言葉どおり、岩渕真奈が決めた決勝点は、勝利への執念から生まれたゴールだった。

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 日本は高いポゼッション率で試合を支配するも、得点を奪えずにジリジリした時間を過ごした。しかし迎えた87分、CKの流れから、途中出場の岩渕がこぼれ球を押し込みゴール。ゲームを通じて美しいパスワークを披露しながら、最後は泥臭く奪った1点を守り切り、準決勝に駒を進めた。
 
 岩渕がネットを揺らす前に、相手DFと競り合い、粘り強くボールをつないだのが岩清水梓だった。その意味では30度近い灼熱のピッチで、最終ラインから貪欲にゴールを狙い続けた岩清水の執念が実ったゴールとも言えた。
   
 ミックスゾーンに現われた岩清水は、「相当、しんどかったです」と試合を振り返る。照りつける陽射しは、容赦なく選手たちの体力を奪った。会場となったエドモントンのコモンウェルススタジアムの人工芝には黒いチップが埋め込まれており、照り返しによって、スパイクを履いていても足の裏が熱くなるほどだったという。ピッチに立って感じた暑さと消耗度合いは、想像を絶するものだったに違いない。
 
 ゴールの場面について岩清水は「一度シュートを止められて、『どうにかなれ! とにかくプレーが続け!』と思って、こぼれたボールを蹴りました。逆(サイド)にブッチー(岩渕)がいてくれてラッキーだった」と話す。
 
 岩清水のここぞという場面でゴールに絡む勝負強さは、昨年5月のアジアカップですでに実証済みだ。準決勝と決勝では試合を決めるゴールを奪い、日本の初優勝に貢献。今大会ではベレーザでのチームメイトである有吉佐織と阪口夢穂がゴールをマークしており、周囲からは「次はイワシ(岩清水)でしょ!」と言われていた。
 
 しかし本人は「ゴールはオマケ。まずは無失点に貢献します」と話し、オーストラリア戦ではその言葉どおり、今大会3試合目となる無失点勝利に貢献。前半、相手FWのサイモンが突破を図った際には、懸命なスライディングでこの試合最大のピンチを防いでおり、攻守両面で貴重な仕事をやってのけた。
 28歳にして、国際Aマッチ出場数は100を超え、国内でも数多くのタイトルを獲得してきた。澤穂希、安藤梢、大野忍ら主力メンバーとは9年以上も代表でともにプレーし、指揮官の信頼も厚い。
 
 4年前のドイツ・ワールドカップ決勝のアメリカ戦では、延長アディショナルタイムに決定的なピンチを身体を張って防ぎ、人生初のレッドカードを提示されて退場した。優勝の瞬間をピッチで迎えられなかったが、あの場面で相手を止めずに失点していたらゲームには敗れていた可能性が高い。試合後、チームメイトは口々に岩清水へ感謝の気持ちを口にしたという。
 
 ワールドカップ優勝後は海外でプレーする選手が増えたが、岩清水は一貫して国内リーグで自らを磨き続けた。20歳から代表で積み上げてきた実績は、海外組に劣らない。2007年以降の国際大会は、ターンオーバーを取り入れた試合や退場処分を除き、ほぼフル出場。身長は162センチと決して高くはないが、自分より10センチ以上も背の高い海外のFWにもことごとく競り勝った。
 
 読みの鋭さとポジショニングは、世界でもトップクラスだろう。世界中のFWと渡り合って来たその経験はチームにとって不可欠な武器だ。
 
 この4年間、日本は王者として研究され、結果が出ずに苦しんだ時期があった。そうしたなかで、岩清水は世界の女子サッカーのレベルアップを独自の視点でしっかりと分析していた。
 
「欧米の選手が1対1で逆を取ったり、私たちがやろうとしたことを逆にやられてしまうことがあるんです。今まで取れていたボールが取れなくなると、走る距離も長くなり、体力も使う。でも、自分たちはそれでも諦めずにやるのが良さだと思います」
 
 進化した世界各国との戦いに加え、暑さや慣れない人工芝、厳しい日程など、今大会では多くのハードルが立ちはだかっている。しかし岩清水は「なでしこは逆境に強い。燃えますね」と話す。
 
 準決勝の相手はイングランド。日本は今大会の7得点をすべて違う選手が挙げ、新たなヒロインが現われることで、チームは勢いを増している。勝負強い岩清水が、攻守一体となったなでしこのサッカーに、ゴールという華を添えるのも時間の問題かもしれない。
 
取材・文:松原 渓(スポーツライター)