人形レスラーもインタビュー プロレスマスコミの底力【鈴木健.txtインタビュー】
「一流のレスラーはホウキとも試合ができる」という言葉がある。この喩えをまさか本当に実現したのは、飯伏幸太選手。5年前、“人形レスラー”ヨシヒコと試合をした。その試合の動画が世界中に広まり、日本が世界に誇る名勝負となった。

⇒【YouTube】KO-D無差別級王座決定戦「飯伏幸太VSヨシヒコ」 http://www.youtube.com/watch?v=_LApVz53Spw

 なぜ飯伏選手が人形と闘うことができたのか。人々の心を打ったのか。それは、それが「プロレスの真髄」だからである。自分が勝つことが全てではない。試合相手をどう魅せるかがプロレスの面白さ、プロレスラーの凄さだ。飯伏選手はヨシヒコに息を吹き込んだ。そしてもう一人、この試合に欠かせない人がいた。解説を担当した、プロレス記者の鈴木健.txt氏だ。

「ヨシヒコ選手は容易に動かないですよ」

「体を反らせているじゃないですか。これが飯伏選手にとってキツいんですよね」

「この試合でポイントになるのは、ヨシヒコ選手の増量です」

「基本的なヘッドロックから入っての一点集中攻撃……ヨシヒコ選手には、トラディショナルなレスリングが脈々と流れているわけですね」

 思わず耳を疑ってしまうこの解説。もしここで「人形と闘うなんてバカげてますね」「飯伏選手も大変ですね」などと言ったとしたら、視聴者は一気に冷めてしまう。鈴木氏がこの試合を通常のプロレスと遜色なく解説したからこそ、視聴者も入り込めたのだ。

◆「ヨシヒコ選手はインタビューされたいはず」

 今年3月、5年ぶりに飯伏VSヨシヒコのタイトルマッチが行われた。「5年ぶりのタイトルマッチですよ。ヨシヒコ選手はインタビューされたかったと思うんです」と鈴木氏は言う。このときインタビューはなかったが、以前に鈴木氏はヨシヒコをインタビューしている。適当に作り上げたことを言っているのではないか? 単に想像力が豊かなだけでは? そう思ったが、どうやら違った。

⇒【写真】はコチラ http://joshi-spa.jp/?attachment_id=293893

「押さえるべきところがあるんです。まず、『ヨシヒコは一人のプロレスラーであること』が絶対条件です。そして、プロレスとしてきちんと成り立っているということ。そこに、ヨシヒコ選手がレスラーになった背景、どんな試合をしてきたか、5年ぶりのタイトルマッチ、という事実が加わる。それらを押さえると、ヨシヒコ選手の感情が自然と浮かび上がってくるんです」

 大切なのは、ヨシヒコ選手の世界観を崩さないことだと言う。「あの試合を成立させているのは、対戦相手である飯伏選手。そしてお客さんです。飯伏選手とのタイトルマッチも、その場にいたお客さんはみな彼を通常のプロレスラーとして見て、応援し、勝敗の行方を追っていた。10年間、DDTで闘い続けてきた結果、誰もイロモノとして見ていなかった。あれはヨシヒコ本人にとって本当に嬉しかったはずです。僕はそういったものをすくい上げているだけです」

◆KUSHIDA選手のタイトルマッチまでの道のり

 ヨシヒコの試合を初めて観る人にも、その人なりの“ヨシヒコ像”がある。しかし、ヨシヒコのバックグラウンドを知ること、さらに飯伏選手はなぜヨシヒコと闘うのか考えること。それによって得られる深みは大きい。先日、ベスト・オブ・ザ・スーパージュニアで優勝したKUSHIDA選手について、鈴木氏はブログ「KEN筆.txt」(http://ameblo.jp/kensuzukitxt/)でこう綴った。

「開幕前、KUSHIDAは少年の頃に見たジュニアへの思い入れを熱く語っていた。前身であるトップ・オブ・ザ・スーパージュニアには、外国人選手が多数エントリーされ、中でもペガサス・キッド(クリス・ベノワ)、エディ・ゲレロ、ネグロ・カサス、デーブ・フィンレーらが一堂に会した第2回大会(1991年)の印象が強烈で、その優勝戦がおこなわれた会場であることから、スーパージュニアを両国国技館に戻したいと言い続けてきた」(一部抜粋)

 KUSHIDA選手にとって、ただ“リーグ戦で優勝したい”だけではなかったことが読み取れる。加えて、客席から熱狂的な声援を送る少年ファンに焦点を当て、KUSHIDA選手が同じ境遇からそこまでたどり着いたドラマを描くことで、よりドラマティックに伝えていた。この優勝戦を観たとき、わたしはKUSHIDA選手の道のりも、ベスト・オブ・ザ・スーパージュニアへの思いも知らなかった。それでも楽しめたが、鈴木氏の記事を読んでみると何倍もグッときたのだ。

◆点ではなく、線で見るから面白い

「いまの若者は、興味を持ったものを遡ろうとせず、目の前にあるもので満足する傾向にあると聞いたことがあります。音楽でも映画でも、あらゆる表現ジャンルは、アーティストの過去や時代背景を遡るから面白い。それをしないのは、勿体ないですよね」

「プロレスは、点ではなく線で見るから面白い」とよく言われる。その“点を線にする”サポート役が、鈴木氏を含む、プロレスマスコミだ。2000年を前後にプロレスは総合格闘技に押され、長い期間、低迷していた。鈴木氏は振り返る。「その間、プロレスから離れた人たちもいました。それでも離れなかったのは、プロレスの素晴らしさを一人でも多くの人に伝えたいと、思っていたからです。ブームになってから飛びつくのではなく、あの時代を乗り越えて今もプロレスを追い続けているマスコミの方々は、みなそうだと思っています」

 プロレスはV字回復し、いま女性の間でもプロレスがブームだ。プロレス低迷期を知らない若者や女性たちが、いまのプロレス界を支えているという見方もある。「我々プロレスマスコミは、まだまだプロレスを見ていない人に向けて伝えていかなければならない。そのためなら書くことだけでなく解説も実況も、番組のMCもやれることはなんでもやっています。今はファンに楽しんでもらうマニアックなことと、入り口に立つきっかけになるようなことの両方を心がけて発信しています。勝負はこれからです」と話す鈴木氏。

 26年もの間、プロレス報道の第一線で活躍してきた人の「勝負はこれから」という言葉に、伝える立場の在り方を考えさせられた。

<取材・文/尾崎ムギ子>

【鈴木健.txt】
1966年9月3日、東京都葛飾区亀有出身。1988年より『週刊プロレス』編集部に在籍し、編集次長及び週プロモバイル編集長を務める。2009年よりフリー編集ライターとなりプロレス、音楽、演劇等表現ジャンルの執筆とともにプロレス実況、解説、トークイベント司会、番組MC等幅広く活動。サムライTV『DDTプロレスリング中継』解説を10年以上続け、ニコニコ生放送『ニコニコプロレスチャンネル』ではプロレスラー生インタビュー聞き手、試合中継実況及び解説、トーク番組MC等で週に4〜6回出演中。7月17日(金)〜18日(土)には同放送にて30時間MCや実況を続ける「30時間ニコプロ」にチャレンジする(http://ch.nicovideo.jp/nicopro)。「プロレステーマ曲グランプリ」「G1クライマックス全公式戦勝敗予想会」等の企画あり。@yaroutxt