グループステージの鬱憤を晴らすかのような攻撃力を見せ、ワールドカップ初出場のオランダを下し、なでしこジャパンがベスト8進出を決めた。

 ようやく一歩前進。スタメンが試合ごとに入れ替わり、なかなか互いの距離感を掴めずにグループリーグ3戦を戦ってきた。決して満足いくとは言えない内容ながら、勝ち星を重ねて掴んだ首位通過で得たのは、6日間のインターバル。この6日間がなでしこたちに変化をもたらした。

 取り組んだのはワンタッチ、ツータッチパスでの組み立てだ。人工芝の影響でミドルパスの精度が上がらないことを受けての対策だった。と言っても、いきなり調子が上がるわけではなく、ようやく自分たちのスタイル確立へのヒントを見出したのは試合前日。選手たちの表情が初めて緩んだ。

 その成果のひとつがキックオフ後すぐに現れる。3分、川澄奈穂美(INAC神戸)から大儀見優季(ヴォルフスブルク)とつなぎ、最後に中まで走り込んできたのは右サイドバックの有吉佐織(日テレ・ベレーザ)だった。これまでよりも積極的な攻撃を見せると、その有吉が10分に先制点をマークした。

 大野忍(INAC神戸)からのパスが宮間あや(湯郷ベル)に通ると、そこから宮間がクロスを上げて、大儀見が頭で合わせるもバーを直撃。しかし、そのこぼれ球のクリアミスを有吉が豪快にゴールに突き刺した。サイドバックである彼女がこぼれ出てくるエリアに走り込んでのゴール。

「(ゴールが決まって)ちょっとパニックになった」と本人も照れ笑い。ロンドンオリンピックでは決してピッチに立つことはないバックアップメンバーとして帯同し、仲間の雄姿をスタンドで見つめていた。

「あの悔しさがあったから今がある」(有吉)

 その翌年から有吉はコンスタントに代表に名を連ね、昨年5月のアジアカップ、10月のカナダ遠征でついに主力組に追いつく成長を見せた。今大会に入ってからも、大野とのコンビネーションでこれまで停滞していた右サイドを活性化すると、決勝トーナメントでいきなりのゴール。唯一、左右両サイドをこなす有吉が、この大舞台でブレイクの兆しを見せている。

 オランダが日本の攻撃を封じるために引くわけでもなく、トップに当ててのサイド攻撃に終始した上、DFラインも日本の連動の前に足すら出せなくなっていたため、日本はさほどプレッシャーを感じることなく、攻撃を組み立てることができた。

 CBの岩清水梓(日テレ・ベレーザ)は高い位置で最終ラインをキープし、自らハーフウェーラインを越えて運んでいく。起点を高く持つことで、攻撃陣は一気にスペースへ走り込むことができた。さらにワンタッチ、ツータッチを織り交ぜたコンビネーションプレーだけでなく、鮫島彩(INAC神戸)、有吉ら左右サイドバックも積極的に攻撃参加。

 最後まで、エクアドル戦のような閉塞感はなかった。互いを知り尽くした大儀見と大野の2トップは細かい動き直しと、互いの距離感の長短で独特のリズムを生み、宮間、川澄の両サイドハーフもポジションを微妙に変えながら、時には中央にまでスライドして展開に絡む。

 貴重な追加点となった78分の阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)のゴールは練習のイメージ通り。大儀見のヒールパスを宮間が大きくマイナスへ、待ち構える岩渕真奈(バイエルン・ミュンヘン)が蹴りだす瞬間、聞こえた「スルー!」の声。その主である阪口は「置きに行きました」と力まずに振り抜いた。強烈なミドルシュートの力を持ちながら、代表では思うように決まらなかった阪口の鮮やかなゴールは、この6日間の連係のたまものだった。

 川澄からのクロスに大儀見と宮間が交差しながら走り込んできたり、鮫島と大野とのコンビネーションがあったりと、攻撃のアイデアが湧き出していた前半。何より、ひとつ、ふたつ止まりだったボールへの反応に、三つめの動きが頻繁に出てきたことは収穫だ。

 そしてこの攻撃を支えたのが全員の守備意識だった。この日のボランチは阪口と宇津木瑠美(モンペリエ)。3月のアルガルベカップでハマったコンビだ。相手の中盤3枚をボランチと両サイドハーフのプレスで徹底的にケアしていく。宇津木、阪口の個の強さに加え、やはり2トップの献身的なプレスは効き目抜群。また、両サイドバックやセンターバックがビルドアップする際には、カウンターを警戒するリスクマネージメントにも気を配る。その結果、オランダのシュートを2本に抑えた。

 しかし、後半に攻め込まれる時間帯を切ることができない課題は依然として残ったまま。70分過ぎには自陣から抜け出せなくなった。初戦から陥っているパターンにやはりこの日もハマってしまう。76分には海堀あゆみ(INAC神戸)のファインセーブで難を逃れるが、立て続けに攻め込まれる。たまらず指揮官は80分に澤穂希(INAC神戸)を投入し、今大会初めて宇津木をアンカーに据える4−1−4−1システムを導入した。

 澤の摘み取り嗅覚はこの形でも光り、「セカンドボールを拾えていたところもあったし、澤さんのところでフリーで受けれた部分もあったので、時間帯によっては上手く使っていければ、押されてる時間を自分たちが打開できるかもしれない」と大儀見は手応えを口にした。

 オランダが日本を封じようとせず、自分たちのスタイルで勝負する道を選んだからこそ、主導権を握れた面もあり、終了間際の失点を含めて、必ずしも完勝とは言えない。それでも今、なでしこたちは確かに自分たちの新たなスタイルを掴みかけている。

 次なる相手は強豪・ブラジルを撃破し、乗りに乗っているオーストラリア。互いに知り尽くしたもの同士、30℃にもなるエドモントンのデーゲームで、いかにして戦うか。この試合こそが、なでしこジャパンの真価が問われる一戦となりそうだ。

早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko