企業が海外展開を成功させるには──「エンジニア・ドリヴン」な組織が生み出すイノヴェイション(1)

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国内で成功し、グローバル進出を狙う企業は多い。だが、エンジニア発のイノヴェイションでそれを成し遂げようとしている企業はまだ少数だ。世界で通用するサーヴィスを実現するには、もっと「エンジニア・ドリヴン」な組織に変わるべきではないだろうか。エンジニアの力を活かして海外展開に取り組む、ある日本企業の開発現場の実態を探る。

塚越啓介|Keisuke Tsukagoshi
1983年生まれ。新卒で入社した大手インターネットポータル企業では、iOSアプリなどの開発を担当。14年11月にリクルートライフスタイルに入社。店舗用POSアプリ「Airレジ」の海外版の開発をリードしている。

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エンジニアがイノヴェイションを主導する組織へ

2014年11月に大手インターネットポータル企業から、リクルートライフスタイルに転職した塚越啓介は、まず開発チームのまとめ役をまかされた。

そのころ同社は、店舗用POSアプリ「Airレジ」のサーヴィス拡充に向け、すさまじい勢いでエンジニアを増やしており、現場はまだ混乱していた。急激に増えるエンジニアたちをどのようにしてまとめるか。塚越は前職で得たコーチングの経験を活かして、早速その手腕を発揮した。

「1カ月に10〜20人といったスピードでエンジニアの数が増えていきました。この勢いで人数が増えると、開発はまともに進みません。そこでまずわたしに求められたのは、開発プロセスを正常化するためのリード役でした」と、塚越は入社当初を振り返る。

塚越は現場での開発状況を整理し、エンジニアが成長できる環境を整えつつ、スクラムで迅速な開発ができるよう支援した。

Google、Facebook、Dropbox、いま世界中の誰もが使うサーヴィスの多くは、エンジニア主導によるイノヴェイションから生まれている。そして、これまでは営業に強いイメージがあったリクルートも、いま実は「エンジニア・ドリヴン」な企業に生まれ変わろうとしている。

エンジニアならではの視点で、一人ひとりが自分で考えて手を動かすチーム体制をつくることで、世界に通用するサーヴィスを生み出す。リクルートライフスタイルの開発現場では、塚越らの活躍によって、その準備体制が整ってきているようだ。

「不確実性」に耐えうるアプリ設計

チームづくりが一段落したいま、塚越は「Airレジ」の海外向けアプリの開発に従事している。海外に向けたサーヴィスの展開は、彼にとって初のチャレンジである。しかし、その心にあるのは不安よりも新たな挑戦に対する高揚感だ。

「例えば、日本だと円は整数ですが、海外だと小数点が出てくる場合もあります。税金も海外では、0.47といったように桁数が増えていきます。そうした瑣末に思える差異だけでなく、レジ業務のオペレーションやレシートの表示方法など、国によってまったく違ってきます。それらのさまざまな変化に耐えうるサーヴィスに仕上げることが重要だと感じています。未知の領域なので何が起こるかわかりませんし、変更が必要となった場合に余計なコストがかかったり不具合が出たりしてはいけませんから」

海外では、すでにSquareやShopKeepといった企業がAirレジと同様のサーヴィスを提供している。それでも塚越は「参考になるサーヴィスの存在はありがたいですね」と前向きだ。「先行事例があると、いい面は取り入れられますし、十分に普及していない場合はその原因を調べることもできますから」と、開発への前向きな姿勢を崩さない。

塚越は、エンジニア・ドリヴンに生まれ変わろうとする職場環境を活かして、わずか数ヶ月で海外版の開発チームのリーダーに就任した。最初はひとりで開発していたが、チームメンバーはすでに5人にまで増えたという。

「ここではまだスタイルが固まりきっていないので、新しいことにチャレンジしやすい環境があります。チャレンジが好きな開発者も集まっていますしね」と塚越は語る。そして、その“チャレンジ好きな”もうひとりの開発者が取り組んでいるのは、海外へ打って出るためのバックエンドづくりだ。



伊藤健介 | Kensuke Ito
1980年生まれ。5年間勤めた前職の大手ECサイト運営会社で、エンジニアリーダーとしてアジアのEC事業の海外サイトの立ち上げなどを行った後、11年にリクルートに入社。グループ会社の米Indeedに出向した経験を持つ。現在はシニアエンジニアとしてリクルートライフスタイルのエンジニアをリードし、主にAirシリーズのアーキテクトとして、共通ライブラリの作成や導入サポートなどを担当している。

「監視の自動化」で海外アクセスに備える

前職の大手ECサイト運営会社で、エンジニアリーダーとしてアジアのECサイト立ち上げに携わった経験をもち、リクルートに転職後は、世界No.1の求人検索エンジン「Indeed」を開発するアメリカのグループ会社に出向していた伊藤健介は、塚越とは異なるアプローチでグローバル進出の準備を進めている。

前述した塚越のチームがアプリのフロントエンドの開発を手掛ける一方で、世界中からのアクセスに対応できるグローバル・サーヴィスをつくるには、システムを支えるバックエンドの開発にも工夫が必要となる。伊藤は、Airシリーズのインフラの開発を担当し、ソースコードのレヴューからサーヴァー管理、アクセスの効率化など、世界を目指すサーヴィスを支えるために、日々奮闘している。

「グローバルに通用するインフラを構築するには、まずサーヴィス監視の仕組みを自動化することが重要です。各サーヴィスを単体で監視することはもちろん、それぞれのつながりも監視しておくと、障害が起こったときにも原因が突き止めやすくなります。グローバル展開する際には、1カ所のデータセンターですべてが完結することはありません。外部とのつながりが必ず発生するため、一定のサーヴィスレヴェルを担保するには自動化が必要なのです。こうすることで管理が効率化でき、障害発生時のインパクトも最小限にとどめることができます」

新たなチャレンジを促す「自由な開発環境」

伊藤がリクルートライフスタイルへの転職を決めたのは、開発の自由度を求めていたことがきっかけだったという。

以前勤めていた企業では、自ら意見が言える範囲や責任の範囲が限られていた。特に日本国内向けのサーヴィスでその傾向が強かったが、海外でのサイト立ち上げを担当したときには若干の自由度があり、自分の考えた手法をサイトに取り入れることもできた。そのときに味わった感覚が、伊藤をリクルートライフスタイルに導いたのかもしれない。

転職後の自由な職場環境に、伊藤は満足そうな表情を見せる。ただし、「自由に伴い責任も大きくなるため、細かい気配りが必要ですけれど」と笑う。

職場で自由を得た伊藤は、自ら責任をもってより良い開発環境の実現とサーヴィスの向上を目指している。そしてそのとき、「いつ、どのように声を上げるか」「何が問題でどう解決すべきか」は、開発の現場だからこそわかることがある。

彼らエンジニアが周りの同僚や部下たちも自由に発言や提案が行えるような環境づくりを意識し、自らが得た自由を職場全体に行き渡らせようとしている姿勢こそが、世界を目指すための「効率化」された仕組みづくりには必要なのだ。

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