【6月特集】
ブラジルW杯から1年
〜日本代表と世界はどう変わったのか?〜(6)

 シンガポール代表を相手に、よもやのスコアレスドローで終わったW杯予選の初戦を振り返り、「ショックに似た感覚を持っている」と語ったヴァヒド・ハリルホジッチ日本代表監督。思わぬ結果に冷静さを失ったのか、語気を強めてしゃべり続ける指揮官の様子を見ていて、強い既視感を覚えた。正確に言えば、既"聞"感ということになるのだろうか。

 今年3月に就任した日本代表監督の話を聞いていると、10数年前に日本代表を率いたフィリップ・トルシエ元監督(1998年〜2002年)とダブって仕方がないのだ。

 それはただ単に、ふたりともフランス語で激しくまくしたてるから、ということが理由ではない。

 記者会見中に、何度も何度も「100%決まるだろうという決定的なチャンスを19回も作った」と負け惜しみを口にし、記者からの質問とは無関係に自らの主張を繰り返す。

「私のことを非難するのは構わないが、選手のことはプロテクトしたい」と言っておきながら、「中央から攻めすぎているので斜めの逆サイドへのパスを要求したが、実現しなかった」と、自分の指示を選手が実行できていなかったことを指摘する。

 そんな様子が、2002年ワールドカップ日韓大会で日本代表を指揮したフランス人監督と重なるのである。ときに選手を名指しであげつらうことさえあったトルシエに比べれば、表現はマイルドだが、激しい口調と併せてトルシエを想起させた。

 ハリルホジッチに"トルシエ・テイスト"を感じたのは、シンガポール戦後が初めてではない。

 それまでの記者会見でも、「選手はワールドカップとアジアカップの結果がトラウマになっている」としたうえで、「勇気づけたい」や「これまでにチームがやっていたことを抜本的に変えたい」と発言するなど、選手との主従関係を明確にしようとする自己主張は強い。

 アルベルト・ザッケローニを筆頭に、このところの日本代表監督がよくも悪くも"いい人"だったのに対し、ハリルホジッチは"毒"があるという点でトルシエとよく似ている。

 たとえば、来年の日本代表のスケジュールについては、「監督としてアイデアを出したい。日本代表に関してもう少し野心を持ってもらい、私に時間をいただきたい」と、日本サッカー協会をけん制するような発言までしている。

 さて、こうしてハリルホジッチとトルシエの共通点をいくつか挙げてくると、どこかネガティブな印象を与えてしまうかもしれない。だが、ここで言いたいのはそういうことではない。むしろ逆だ。

 最近の日本代表監督は"雇い主"である日本サッカー協会との間に波風を立てることはなかったが、ハリルホジッチは違う。トルシエは1999年ワールドユースでナイジェリアへ渡航するにあたり、選手の予防接種が必要か否かでもめたのを手始めに、しばしば日本サッカー協会と意見がぶつかっていた。それと同様に、ハリルホジッチもまた、自らの理想を追求するためなら強硬姿勢も辞さない。日本代表監督がそんな気構えでいてくれるなら、それは歓迎すべきことだ。

 このところの日本代表のマッチメイクには"緩さ"が感じられるだけに、国内組だけで行なうキャンプやテストマッチの実施なども含め、ハリルホジッチ監督にはどんどん日本協会の尻を叩いてもらいたい。

 現在チリで行なわれているコパ・アメリカ(南米選手権)にしても、1年ほど前に時計の針を戻せば、日本代表はこの大会に招待されていたのである。しかし、日本サッカー協会は(理由はともあれ)自らの意思で出場のチャンスを放棄した。もし、その当時からハリルホジッチが監督だったら、多少メンバー選考に制限があったとしても出場を熱望したのではないか。

 そして何より、ハリルホジッチの姿勢で好感が持てるのは、あくまでも3年後のワールドカップ本番を見据え、若手の起用に積極的なことである。それこそが、経験のある選手を中心にメンバーを固定したザッケローニ元監督、アジアカップでその顔ぶれを引き継いだハビエル・アギーレ前監督との決定的な違いだ。

 ハリルホジッチが今回招集したメンバーを見ると、全26名(途中離脱した川又堅碁、清武弘嗣を含む)のうち、実に半数以上の14名がロンドン五輪世代(1989年以降生まれ)。初の公式戦となったシンガポール戦でピッチに立った14名に絞っても、半数の7名がこれに該当する。ここまでロンドン五輪世代が日本代表で勢力を拡大するのは初めてのことだ。

 しかも、ロンドン五輪世代のなかでも最年少年代にあたる23歳の宇佐美貴史、柴崎岳を主力に据えた。

 まだ守備面に不安のある宇佐美、柴崎を起用することにはリスクもある。だからこそ、歴代監督は彼らを重用しなかった。宇佐美に関して言えば、日本人離れした得点能力を有しながら、これまでの監督には見向きもされなかったと言っていい。

 だが、ハリルホジッチは彼らの短所より長所に目を向けて起用を続ける。何かにつけて宇佐美の名前を挙げて引き合いに出すのも、期待の表れと見て間違いない。早くから若手の才能に目をつけ、中田英寿を筆頭に、小野伸二、稲本潤一ら、シドニー世代(1977年以降生まれ)を重用したトルシエとの最大の共通点である。

 率直に言って、シンガポールを相手に、しかもホームでの引き分けは明らかな失態だ。相も変わらず攻撃が中央に偏る悪癖には、あきれるしかない。

 とはいえ、ハリルホジッチが監督になったことで、当然行なわれるべきことがようやく行なわれ始めた。それこそがハリルホジッチに期待する最大の理由である。

浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki