『こまき食堂―カフェ風精進料理 (天然生活ブックス)』藤井 小牧 地球丸

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 精進料理というと、堅苦しくて、ストイックな印象をもっている人が多いかもしれません。もともと、殺生することを禁じていた仏門にある人が食べていたもので、肉、魚、卵、乳製品の類は使わず、出汁にも鰹節などの動物性の材料は使用しません。「追いかけて逃げるものは食べない」という言葉もあるそうです。

 でも、カレー、ライスコロッケ、シチュー、とんかつといったメニューが精進料理のレシピ本にあるのを見ると、今までもっていたイメージが覆されませんか? これらはどれも、精進料理研究家で秋葉原のカフェ「こまきしょくどう」の女将・藤井小牧さんが書いた本『こまき食堂―カフェ風精進料理』にある品々。もちろん同書で紹介されている料理はどれも肉、魚などは一切使っていません。見た目は完全に本物のとんかつと変わらない一品も、車麩で作った"もどき"料理なのです。

 藤井さんの父は、鎌倉・建長寺などで、寺の台所をつかさどる僧侶「典座(てんぞ)」だった藤井宗哲さん。母は、夫の影響を受けて精進料理研究家になり、現在世界を飛び回っている藤井まりさんです。いうなれば、精進料理界のサラブレッドですが、特別な人たちのための料理ではなく、誰もが気楽な雰囲気で楽しめる精進料理を提供したいと考えているとのこと。たしかに、宗教上の理由や、アレルギーなどの理由で食べるものが限られている人も、ほとんどの人が気兼ねなく食べられる料理は、ほかにないかもしれません。

 また、秋葉原という雑多な人々が行き交う街に、カフェを開いた理由を藤井さんはこう言います。

「世の中にはさまざまな、バックグラウンドを持った人がいる。そんな状況のなかでも、それぞれの事情を超えて、ともにひとつのテーブルを囲む。そのことで、解決したり、前進できたりすることは、意外に多くある気がします」(本書より)

 限られた人のものだと思っていたものが、視点を変えると万人向けだった――。さすが仏教にルーツを持つ料理は、私たちに新しい世界観まで教えてくれるのかもしれません。