攻殻機動隊 REALIZE PROJECTトークセッション:神山監督も登場、裏設定と現実化したもの

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6月12日に開催された「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT」イベント。その第二部として、『攻殻機動隊S.A.C(STAND ALONE COMPLX)』シリーズ監督、脚本を担当した映画監督の神山健治氏と『攻殻機動隊 新劇場版』『攻殻機動隊ARISE』シリーズの脚本などを担当した小説家、冲方丁氏。そしてプロジェクトに参加している研究者、慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、稲見昌彦氏と准教授である南澤孝太郎氏の4人によるREALIZE公開ブレストが行われました。

『攻殻機動隊』の世界を作り上げてきた「Mr.(ミスター)攻殻機動隊」のふたりと、『攻殻機動隊』に強い影響を受け研究を進める研究者「Dr.(ドクター)」のふたり。作品に違う立場で接している4人によるブレストは、『攻殻機動隊』ファンならずとも興味深い話ばかりでした。

SFとは違う!? 未来に起こり得る人間とロボットが対立する理由

「10年以上前の当時、現在ほど、ネットワークというものが広く知られていなかった時に、いかにわかりやすく説明するか」という点に気をつけて製作していたという神山監督。2000年初頭と舞台である30年後にどういった差異が生まれるか、地続き感があるように描いていったとのこと。

「作品の根幹にある義体は、自分の身体に、直接、物理的に繋がったもの。身体拡張を機械によって起こすもの」と神山監督は発言し、ロボットは身体は身体から離れた、遠隔操作する義体、自分の分身として描いていたといいいます。

稲見教授は神山監督の分類は非常に明確だと発言。「実際に研究者は、身体拡張という方法と、身体の代理を作っていくという方法のふたつで開発を進めている。どちらが難しいという話ではなく、難しさの方向が違う」とのことです。身体拡張には、いかに自分の身体に合わせていくか、直感的に操作できるか。身体の代理には、人と同じ形状にして同じ機能を持たせるのか、というポイントがあると稲見教授は語りました。「まだまだ人と同じように動かすのは難しい状態ですが、研究は進みつつある」ということです。

南澤准教授は、遠隔地にあるロボットに、ネットワーク経由で自分の意識をログインさせて操る技術「テレイグジスタンス」を研究している。自分はここにいるけれども、遠くに存在するものに触ることができる、研究では幽体離脱したかのような感覚を味わえるとのこと。「ゴーストと身体は分離できるか? エンジニアリングとして考えられるようになってきています。その時に問題になるのは、どこまでが身体なのか、どこまで認識できるのかということ」と南澤准教授は発言しました。

「僕は『攻殻機動隊S.A.C』の第1話で芸者の格好をしたロボットを描きました。昔はアンドロイドやロボットは人間に代わって肉体労働を行うイメージでしたが、製作の過程で高価なアンドロイドなどをブルトーザーの変わりに使うことはないと思うようになった。コストがかかる分、人間にはできないこと、例えば修業が必要な芸者をロボットにやらせるようになるんじゃないかと考えて。必要とされる高いスキルはプログラム化されて伝統的な仕事がなくなるんじゃないでしょうか」と神山監督。

「ロボットの恐ろしさってその姿、カタチではなくて年をとらないことだと思います。本物の『永遠のアイドル』を作られると仕事を奪われちゃう。工場などで労働用のロボットがずらりと並べられ、人間のように疲れたり、衰えたりしないという点がロボットの有用性であり、一部の人間がロボットに対して恐怖や嫌悪を抱くところではないでしょうか」と冲方氏は続けました。

さらに神山監督は「昔、学生に『日本舞踊のお師匠さんが弟子をとるなら、人間とロボット、どちらを選ぶのか?』という質問をされたことがあるのですが、ここにひとつの真理があると思います。おそらくお師匠さんは最初、人間の弟子をとろうと思うはずですが、人間の弟子はオリジナリティを獲得してお師匠さんを超える可能性がある。自分の完全なコピー、技術を伝承してもらいたいだけであれば、ロボットの弟子のほうが都合がよいはずです」「ロボットと義体を現代のテクノロジーで想像した時、これまでのSFとまったく違った『人間vsロボット』の対立が生まれるかもしれない、と書いていた時に感じました」と答えました。

『攻殻機動隊ARISE』の中で恋愛や結婚の話が描かれていたことに対して、「『ARISE』ではやらなければならないことが3つあった」と冲方氏は答えました。「ひとつは戦争以外の動機でサイボーグが普及する理由、老人たちが衰えた肉体を交換するといった理由を作らなければならなかったこと。『不気味の谷』という言葉が一般化する前後でその『不気味の谷』がなくなってきている傾向にあります。CGが発達したり、初音ミクがアイドルになったりしたことで、そこに存在するはずの人間とロボット、全身義体の間における違和感が少なくなりう、描き方が難しくなった。これがふたつ目」

『不気味の谷』とは、現実に存在する人間などの生物に存在するロボットや3D映像などに対して人間が受ける印象が深い関係があり、例えばロボットなどが人間に近づくほど人は好印象を受けるが、ほぼ人間にまで近づくと、人は途端にそのロボットに対して嫌悪感を抱くという現象のこと。

「そして3つ目が、身体拡張を外見ではなく、内側、臓器のほうに目を向けるということ。永遠の若さ、健康を保ち続けるための全身義体という描き方をしました」と冲方氏は続けました。

南澤准教授は「実際に食べたり、飲んだりという行為はサイボーグにとって役に立たないはずのもので。ではなぜ食べるのか? それは社会に義体である自分が溶け込むために必要なのではないでしょうか? 義体だけど自分が人間である、生き甲斐を持つために。この食べるという行為と結婚や恋愛は同じ義体化した人間にとって生きていく意義を見つけ出すために必要なものだと思います」と分析。稲見教授も「人とつながるための行為だ」と肯定しました。

ケータイがスマホになった時に、電脳化の第1弾は終了している!?

さらに冲方氏は『攻殻機動隊ARISE』を作っていく上に「草薙素子電脳空間に存在する時の描写として課題があった」と話しました。「ひとつは電脳空間と現実の空間をどこまで変えて描くかということ。これまでは、明確にいろいろなところに変化を加えて描くのが普通でしたが、ARISEでは空間ごとに素子の描き方を変えなくていい。そうしなくても視聴者もわかるだろう、という絵的な判断がありました」さらに「人工知能も同様で、人間なのか、人工知能なのかの区別もやめました。以前は音を変えたりしてあからさまに『AIです』という表現をしていたのですが、そんなことをしなくてもAIが何であるか、多くの視聴者はすでに知っています」

続けて南澤准教授は「AIもサイボーグと同じく世界とつながるためのインターフェイスとしての身体が必要です。作中初期のロジコマやタチコマは会話もあやしかったのですが、次第に会話できるようになりキャラクター性が出てきて、コミュニケーションも生まれる。その中でいろいろなことを経験、学習、成長していきます。個人的に身体を得ることで成長するという概念が好きです。IBMのWatsonなど、ネットワーク上のデータを集めた人工知能が実現していますが、次のステップでは身体を持たせるということが普通になるかもしれません」と解説しました。

また、ブレスト中は作中の映像が流されましたが、『攻殻機動隊S.A.C』を見ながら神山氏は「今でいうところのタイムライン、物理的に会っていない人たちと距離的なハンデを乗り越えた会話を可視化しました。当時まだ存在しなかったtwitterやfacebookに近いものを提示できていたなと思います」と解説。『攻殻機動隊』の世界に現実が近づいている「REALIZE」な部分を改めて発見する場面も。

監視カメラのハックなどIotホームの問題として、現在、叫ばれていますが、すでに作中で描かれているという点について神山監督は「いずれ技術的には、できるようになるだろうと考えて描いていた」と発言さらに、「携帯電話がスマホになったところで電動化の第一弾は完了していると思う」と続けましました。「電脳が直接、ネットワークにつながるというものが、電脳の概念だったわけですが、目の前にいる人と話しながらも、スマホでメッセージのやりとりをしている人はすでにいます」と説明。南澤准教授も「脳ではなく、経験値のレベルでは、すでに普通のことですよね」と話しました。

神山監督はさらに「そこにAIがどのように関係してくるか、その問題は継ぎの段階かなと思います。iPhoneのSiriなどで、音声認識以上のことをしてくれるといいんだけれども。自動車はまだスタンドアローンなものですが、AIが搭載されると、駐車場に停めていたクルマが勝手に迎えにきえくれるなんてことができるようになれば、作中で描かれるAIにたどり着けたと言えるでしょう」と意見を述べました。

自動車とAIについての発言が飛び交った後、稲見教授は「経験を共有できることが、AIの進化を加速させるかもしれない」と発言。「我々は自分ひとりでしか経験できないけれども、世界に何万とあるAIを搭載したクルマなどが勝手に動き、しかも経験を共有するなんてことは、今までの生命ではなかったことだ」とまとめました。神山監督は「一夜にして人間を超えてしまうかもしれない」と発言すると、さらに稲見教授は「Iot技術の本質はAIとつながった時に発揮されるかもしれません」とフィクションの側から考えられる未来について話しました。

「充電」がキーワードとなる未来の都市

そして話題は未来の都市、スマートシティに。

「インフラが整っていない旧市街と整っている新市街を分けて描いています。クリーンな新市街にはもはや表示灯も電灯もない。中央コントロールシステムが各クルマに干渉したりして、交通渋滞がないという設定にしています。何かSF的なものを付け加えるよりも『ない』ことのほうがリアルです」と『攻殻機動隊ARISE』を担当した冲方氏。

さらに「どう描くか、最も考えたのが義体はなぜ重いのか、という問題でした。重さはバッテリーに原因があると思うのですが、サイボーグと生身の人間、その生活感の違いはエレベータやエスカレータにあると考えました。重いサイボーグは専用のエスカレータでないと上がれないはずです。詳細にやればやるほど、映画的にはわずらわしくなるのでかなり割愛していますが、隠れテーマとしてあるこちで描写してまいます」と解説しました。

稲見氏は「コンピュータやハードディスクの容量は指数的に増えているのに、バッテリーは直線でしか増えていかない。そう簡単には進歩しないので、サイボーグが重いという設定は非常にリアリティがある」と述べました。「充電に関しては、いまなら磁気共鳴を利用した給電、義体の外部からのワイヤレス給電になるかもしれない。実はエレベータに乗っている時にチャージできるのかもしれない」とさらに話をしました。

「都市を離れて、ジャングルに入ると動かなくなるとか」という冲方氏の発言に、稲見教授は「電話が無線になったように、無線エネルギーが広まるとそのためのインフラが必要になるはず」と答え「その未来の都市に給電機能があるからこそ、キャラクターがあんなに激しく動けるかもしれない」と言及しました。神山氏は地面そのものが給電機能を持つ可能性に触れ、冲方氏は旧市街に長くいるとバッテリーが切れるという可能性にも触れました。南澤准教授は「今、EVは充電ステーションがないと使えません。未来の都市では、充電、給電機能がインフラとしての質を決めるかもしれない」と述べました。

ロジコマと同じく「並列化」しながら研究と製作を

最後に稲見教授が宣言。「研究のひとつに光学迷彩があるが、それはまさに『攻殻機動隊』からヒントをもらったもの。まさに夢と勇気をもらうことができました。今後『攻殻機動隊 REALIZE PROJECT』を通じて、ロジコマ、タチコマをいろんな方々と協力してカタチにしていきたい」