トップ下で輝けなかった香川だが、プレー精度がそこまで悪くなかったのは数字からも分かる。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

写真拡大 (全2枚)

 またしても、輝けなかった。トップ下という本職で出番を与えられながら、シンガポール相手にゴールもアシストも挙げられなかった。そして、背番号10は最初の選手交代でピッチを後にした。

【PHOTOギャラリー】日本 0-0 シンガポール
 
「結果に関してはすごく悔しいです」
 
 ミックスゾーンでの香川は、当然ながら苦い表情を浮かべる。「結果がすべてです」と一切の言い訳をせず、ゴールに絡めていない現状に焦りがないかと問われれば、「これが自分の現状、自分の実力なんで。(得点を)取れていないことが結果ですから。結果を残せていないと、それが実力なので。やるしかない、練習していくしかない」と振り返る。
 
 反省してしかるべきパフォーマンス。確かにそう断言すべき印象だ。中央に陣取るばかりでパスがもらえず、縦に抜け出してもシュートは枠を捉えられない。「チャンスはあったけど決め切れなかった」と本人が言うとおり、個のクオリティは不足していた。
 
 しかし、香川のプレーを詳細に追ってみれば、意外な数字に気が付く。前半のプレー回数はCKを含めて28回。そのうち、自らのミスでボールを失ったのは、3つの枠外シュートを除けば2回しかない。プレー成功率は約89.3パーセントである。
 
 そう考えると、「(感覚的に)そんなに悪くなかったです」という香川の言葉もうなずける。つまり、問題はプレーの精度ではなく、プレーに関与できなかったこと。端的に言えば、縦パスがもらえなかったことにある。
 
 シンガポール戦に臨むにあたり、香川はバイタルエリアでボールを受けることにこだわっていた。試合前の会見では「中央でくさびやボランチの間で受けるのは自分の良さでもあるし、それはこのチームの良さにもつながってくると思う」と話している。
 
 実際にこの日のプレーを見ても、その狙いは明らかだった。相手のインサイドハーフとアンカーの3枚がスペースを消しているにもかかわらず、狭いエリアでボールを受けようと何度も声を出す。しかし、ほとんどのケースでパスが出ず、苛立つ香川の姿が目に付いた。
 
 ではなぜ、もっと動いてボールを呼び込まないのか。そう批判するのは容易い。しかし、香川には別の景色が見えていたように思えてならない。パスコースは、“あった”のではないか。
「中央は堅かったですけど、片方のボランチはあまり守備が上手くなかった。その裏でボールを受けたかったけど、あそこでボールが入ればもう少し展開は違ったかもしれない」
 
 受け手になる香川には、スペースが見えていた。一方、出し手にはパスコースが見えなかった。そうとも捉えられるだろう。もちろん、明確にマークをはずしてパスを呼び込むプレーも必要で、それができなかった香川には注文が付く。
 
 しかし、香川は感覚でパスが通ると踏んでいたはずだ。そして同時に、たとえ狭い局面でも、自分なら打開できるとも。
 
 世界的なドリブルの名手は、ドリブルを始める前に“進むべきコース”が光って見えるという。それに近い感覚を、日本の背番号10が持っていても不思議ではない。相手に囲まれながらワンタッチでボールを捌き、再び顔を出してもっと良い状態でリターンを受ける。動きながらの連続したプレー、それこそ香川の真骨頂だ。
 
 しかし、パスは来なかった。ひょっとしたら、ドルトムントではボールが出るのかもしれない。ただ、一概にパスの出し手を否定はできない。瞬間的に縦パスを通すには、個人スキルのほかに出し手と受け手の意思疎通も必要になる。
 
 率直に言って、縦パスのチャレンジ不足が日本の停滞、そして香川の停滞を招いていると感じる。ハリルホジッチ監督は「縦に速いサッカー」を志向するが、それは主に両サイドの展開を指しており、中央に限ってはそれほど言及していない。むしろ、中央には縦パスを通さず、サイドへ開いてから前を狙う、そんなスタイルにも映る。
 
 中央に縦パスが入らなければ、結局はザッケローニ監督時代に問題視された「横パスの多用」が再び顔を出す。シンガポール戦はまさに、そんな展開だったのではないか。そうなればトップ下・香川は、日本にとって無用の長物になってしまう。
 
「もっとボールを引き出したいし、もっとボールを受けたい」
「周囲と流動的にやっていくには、意思統一やお互いの良さを引き出すことが必要」
「バイタル(エリア)に入った時にもっと落ち着いて、クロスだけじゃなく、ワンツーだったりを上手く使えれば」
「すべて前のスピードだったり、クロスに頼るのは違うと思う」
 
試合後の香川の言葉には、自身への反省が多分に含まれていた。しかし、それだけではなく、チームとしての問題点も指摘しているはずだ。
 
取材・文●増山直樹(サッカーダイジェスト)