『土井善晴さんちの「名もないおかず」の手帖』(講談社+α文庫)

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よし、昼は生姜焼きにするか! そうだ、今晩はカレーを作ろう!

こんなふうに、食べたい料理が明確な時もあるが、日々の料理は冷蔵庫の中身との相談だったりする。メインにするには少なすぎる肉、1本だけ残ってしまったナス、あるいは使い切れないくらいの量のじゃがいも(貰いもの)……。こういったありものを組み合わせて、その日の献立をひねり出さなければならないことも少なくない。

そんな時の強い味方になってくれるのが、『土井善晴さんちの「名もないおかず」の手帖』(講談社+α文庫)だ。2010年に刊行された人気レシピ本の文庫化で、コンパクトなサイズは台所の棚の上に置いておくのに最適。献立に困った時などにさっと開けば、きっと何かしらのヒントを与えてくれるはずである。

「素材ありき」のレシピ本


まず、タイトルにある「名もないおかず」とは何か。『きょうの料理』(NHK)等のテレビ番組でおなじみ、料理研究家の土井善晴は、日本の家庭料理にはそもそも、西洋料理のメインディッシュに相当するような、名のある主役料理が存在しないことを指摘する。

むしろ、マーケットで見つけた旬のみずみずしい野菜を
油揚げやじゃこ、少量の肉などと一緒に調理した
おかずが“主役”になることが多いです。

主役料理の代わりに普段の食卓を彩るのが「名もないおかず」たちである。それらがちょこちょこと並び、1回の食事として完成する。

「名もないおかず」とは、
身近な材料で作る毎日のおかずのことです。
青菜を1わ買ってきたら、
さぁ、どうやっておいしく食べようか、ということ。
料理名ではなく、素材ありきです。

それこそ冷蔵庫の中身次第、というわけだ。こうしたコンセプトゆえに、使う材料はものすごくシンプル。調味料の類いを除けば、基本は野菜1つ、あるいは野菜1つ+少量のコク出し食材(肉、じゃこ、鰹節、油揚げ等)でオッケーなので、わざわざその料理を作るために買い物に行く必要はない。私は献立に困ってレシピ本に頼る時、よく「材料5つ中3つはあるのに……」となって断念することが少なくないのだが、本書に関してはそうした心配は無用だ。

作ってみた。「アボカド+しょうゆ+ワサビ」の進化系


『土井善晴さんちの「名もないおかず」の手帖』の魅力は、誰でも即実践できる簡単さにもある。しかし簡単ながらも、そこに料理を段違いに美味しくさせる技と工夫がさりげなく仕込まれていて、作りながら、あるいは食べた瞬間にハッとさせられることが多い。「トマトの卵炒め」「チリ卵」「大根と青じそのサラダ」などいくつか作ってみたのだが、その中でも特に唸らされたのが「アボカドの共あえ」だ。

「アボカド+しょうゆ+ワサビ」という組み合わせは、いまや特に珍しいものではない。しかし、この「アボカドの共あえ」は、その王道の味にちょっとした一手間を加えることで、アボカドの持ち味をより引き出し、新たな食感と味わいを生み出しているのだ。では、その一手間とは……

おわかりいただけただろうか? アボカドは一口大にカットするのだが、その一部を叩いてあえ衣に使用するのである。これによって一体感が増し、旨味がよりねっとりと舌に絡む。ただカットしたものを食べても、この濃厚さは味わえない。また叩くのが手間といっても、そこはアボカドである、柔らかいのでまったく苦にならない。

素材名の頭文字で50音順に並ぶ目次も便利。普段使いのレシピ本として、長く愛される1冊となるに違いない。
(辻本力)