4-1-2-3の場合、香川はインサイドハーフでの起用が濃厚。アギーレ政権下ではあまり結果を出せなかったポジションで、存在感を示せるのだろうか。 写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 ロシア・ワールドカップへのチャレンジが、いよいよ6月16日から始まる。アジア2次予選の初戦──埼玉スタジアム2002で迎え撃つのは、FIFAランク154位のシンガポールである。
 
 同ランクで52位の日本から見れば、明らかな格下。20勝1分3敗という対戦成績(日本サッカー協会発表)も踏まえると、ホームで負ける確率は限りなく低いだろう。
 
 ただ、ハリルホジッチ監督はシンガポール戦に向けた前日会見で「罠が仕掛けられている」と警戒の色を示した。

「相手を過小評価してはいけない。何人かの選手にはバカンスのことは考えるなと言っています。普通に考えればポゼッションで我々のほうが上回るが、シンガポールには前線に速い選手が揃っている。カウンターには気をつけないといけない」
 
 そんなハリルホジッチ監督は、イラク戦の舞台だった横浜から埼玉に移動してから4-2-1-3より攻撃的な4-1-2-3システムもテスト。4-1-2-3の場合は、アンカーが長谷部、インサイドハーフが香川、柴崎という配置になりそうだが、中盤の形に関係なく、シンガポール戦でもこの3人がスタメンを張りそうだ。
 
 なかでも注目したいのは香川。ザッケローニ時代に本田と併せて“ダブルエース”と評されていたことがあった彼も、アギーレ前体制やハリルホジッチ政権下では「10番」に相応しい活躍を見せているとは言い難い。才能があるのに、なぜ代表では輝けないのかと、疑問を持つサポーターもいるはずだ。
 
 先のイラク戦でも、本田が1ゴールで、香川は無得点。確かにCKから1アシストをマークし、効果的なオフ・ザ・ボールの動きで宇佐美や岡崎に良いスペースを与えていたが、香川に求めたいのは黒子的な振る舞い以上に、エリア付近/中でのゴールに直結する仕事だ。
 
 それができなければ存在感という意味で本田との距離はさらに開き、目立たない10番のまま代表キャリアを終えてしまう可能性さえある。本人も小さくない危機感を持っているからこそ、試合前日のミックスゾーンで「(10番を背負ってきたこの4年間を振り返って)結果としては物足りない。厳しくやっていきたい」と話したのだろう。
 
 ベタ引きしてきそうなシンガポールとの一戦では、縦への速さに加えて“個の力”が勝利への鍵になるはずだ。つまり、狭いスペースをどう攻略するか──その点で、香川の「厳しくやっていきたい」という意気込みが試されるゲームでもある。
 
 シンガポール戦に限らず、今回のアジア2次予選を通して香川は「背番号10」の威厳を示せるか。「早熟の天才」で終わるのか、それとも本田から「エース」の称号を奪うのか、香川にとって今回のアジア予選は、そうしたジャッジが下される試練の場でもあるだろう。

 さすがに格下揃いの2次予選で、香川がそれなりに活躍するだろうことは容易に想像できる。だから、本田からエースの座を奪うためには極上のパフォーマンス、すなわち相手を完膚なきまでに打ちのめす、二度と対戦したくないと思わせるような圧倒的なパフォーマンスが必要になるはずだ。
 
 同じ中盤では柴崎のゲームメイクも見物だ。タイミングを心得た彼の縦パスは、ハリルホジッチ監督が標榜する素早い攻撃を繰り出すうえで不可欠。そんな柴崎が気持ち良くプレーできるかは、守備的な役割を担うだろう長谷部のパフォーマンスもひとつのキーになる。
 
 柴崎以外では、左ウイングの宇佐美とCBの槙野が国内組で先発しそうだ。おそらくシンガポール戦も、イラク戦と同じく“欧州組偏重”のオーダーになるだろう。
 
 ハリルホジッチ監督は「私にはベストメンバーはいません。どのポジションでも、どの選手でも自分の席を取るために戦わなければいけない」と話す一方で、こんなコメントもしている。

「(8月に)中国で東アジアカップがありますけども、もっと国内組を起用して確かな情報を得たいと思っています。今のところは海外組が(代表チームの)大半を占めています。確かに彼らは、国内組に比べて少しレベルが上かもしれません。タクティクス面、それから特にフィジカル面ですね」。
 
 指揮官の言葉からは、競争意識を煽りたいが、国内組にはまだ確固たる信頼を置いていないというニュアンスのメッセージも感じ取れる。イラク戦で出来がそこまで良くなかった右SBの酒井宏、GKの川島をシンガポール戦でも先発起用すれば、プライオリティを置いているのはやはり欧州組ということになる。
 
 だが逆に、長友を右SBに回して、左SBにFC東京で絶好調の太田を抜擢、もしくはスタンダールでサブに甘んじていた川島を外してJリーグ勢(権田、西川、東口)の誰かにチャンスを与えれば、「競争意識を煽る」がリップサービスではないことが証明される。
 
 なにより結果が求められるワールドカップ予選の舞台で、ハリルホジッチ監督はどんな回答(スターティングオーダー)を見せてくれるのだろうか。欧州組に頼って勝つのは当たり前。そうした状況下で宇佐美、柴崎、槙野以外の国内組をどう上手く使うか。シンガポール戦では、指揮官の工夫と勇気も試される。
 
取材・文:白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)