またも敗れたオーウェン その心の内は(Photo by Sam Greenwood/Getty Images)

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 フェデックス・セントジュード・クラシックの最終日を眺めながら、グレッグ・オーウェンの勝利を秘かに祈った。別に、オーウェンと親しいわけではないのだが、首位で最終日を迎えることになったとき、彼が口にした「これが最初で最後のチャンスだ」という言葉が、妙に気になっていたからだ。
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 オーウェンは43歳の英国人。1992年にプロ転向し、2005年から米ツアーで戦い始めた。以来、すでに10年の歳月が流れ、今大会は214試合目。だが、いまなお優勝はなく、ベストフィニッシュは2006年アーノルド・パーマー招待で食い込んだ2位のみ。そして、彼が首位で最終日最終組を回るのは、214試合目にして、今回が初めてだった。
 「このところ、私は下降気味のスパイラルに陥っている。でも、明日、初優勝を挙げることができたら、長い間、何のためにゴルフをしてきたか、その答えがわかる。長い間の苦労が安堵に変わる。明日は、僕にとって、そのための最初で最後のチャンスだ」
 だが、オーウェンは勝てなかった。フェアウェイを外しては首を捻り、グリーンを外しては顔をしかめた。それでも、どうにか寄せてパーを拾うあたりは、米ツアーで10年超も生き残ってきたベテランぶりの表われだった。しかし、オーウェンのゴルフはスコアを落とさないゴルフに留まり、スコアを4つも伸ばす勢いのあるゴルフを展開した36歳のアルゼンチン人、ファビアン・ゴメスが勝利をさらっていった。
 勝ち負けだけのストーリーなら、話はここで終わりだ。が、勝敗が決した直後、勝ち負けではない別のストーリーが眼前に広がった。
 この大会には、近郊のセントジュード子供病院で入院したり治療を受けたりしている重い病気の子供たちが招かれ、数人の子供たちは18番グリーンのピンフラッグをカップにさす「ピンキャディ」の役割を担っていた。
 ウイニングパットを沈め、初優勝を飾ったゴメスは、自分の喜びはさておき、まずピンフラッグを差した男の子と握手を交わし、グローブやボールにサインして手渡し、男の子が着ているTシャツにも丁寧にサインし、そして優しく抱いて首筋にキス。アテストテントへ向かったのは、その後。人々は、勝者のそんな姿を、微笑みながら見守った。だからなのだろう。外国人のゴメスに贈られた拍手は、ひときわ大きく、温かかった。
 敗北したオーウェンの落胆ぶりは、がっくり落とした肩のシルエットから痛いほど伝わってきた。10年以上も勝利の味を味わえないまま、コツコツと頑張ってきた彼が、43歳にして迎えた214回に1回のチャンス。それをモノにできなかった悔しさは筆舌に尽くせない。負のスパイラルから抜け出したいと願い、もがく気持ちも想像はできる。
 けれど、「最初で最後」とは、どうか思わないでほしいのだ。10年は長いけれど、リミットではない。43歳は決して若くはないけれど、限界ではない。
 優勝したゴメスのサインをもらい、照れ臭そうに頬をほころばせた男の子は、数日後には、がんの化学療法の再開が待っているそうだ。この子にとって、チャンピオンからもらったサインボールやキスは、どれほどの勇気と希望になることか。
 ピンフラッグが上手にさせて、観衆から拍手をもらった女の子のうれしそうな笑顔。選手からハイタッチを求められ、背伸びしながら手を合わせた男の子の誇らしげな笑顔。そういう笑顔のため、人々に喜んでもらうため、夢や希望を膨らませてもらうため、そのためにゴルフをすることは、プロゴルファーだからこそ実現できる、いや、プロゴルファーにしか実現できない、プロゴルファーならではの“特権”なのだ。
 「長い間、何のためにゴルフをしてきたか」と、オーウェンは言ったけれど、彼自身、人々を笑顔にするためにゴルフクラブを振り続けてきたのではないのか。214分の1の確率に遭遇した彼は、小さな確率を勝利につなげることはできなかったけれど、最後まで必死に戦った姿は、たとえ敗北しても、子供たちや人々に何かを感じさせたのではないのか。
 人々を喜ばせるためのゴルフも、勝利を目指すためのゴルフも、今回が最初で最後なんかでは決してない。敗北の落胆と悔しさが少し癒えてきたころ、オーウェンは大事なことをきっと再び思い出し、また元気に戦い始める。私は、そう信じたい。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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