棒立ちのイラクを相手に、確かにパスは小気味よく回った。しかし、ワールドクラスの相手に同じことができるかが重要だ。(C) SOCCER DIGEST

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 日本代表は、大観衆の前で一方的に攻撃のトレーニングを行なった。

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「選手たちは、私の要求にしっかりと応えて、ハイレベルなアクションを起こしてくれた。速さ、3人目、4人目の動き、ワンタッチのパス回し……。私は日本代表が何年か前から取り組んで来たことを抜本的に変えたが、かなり向上した」
 
 確かにこうしたヴァイッド・ハリルホジッチ監督の評価に偽りはない。無駄に攻撃を停滞させるパスは確実に減り、棒立ちのイラクの選手たちの合間を縫って、ダイレクトのパスが小気味良く回った。
 
 象徴的だったのが3点目を生み出す展開である。長谷部誠が頭で競り落としたボールは、柴崎岳―本田圭佑―香川真司―柴崎―宇佐美貴史とダイレクトで繋がり、3人を引きつけた宇佐美がフリーの岡崎慎司に決めさせた。
 
「動きながらコンビを活かして1タッチ、2タッチでつなぐ要求をしてきた。攻撃には7〜8人が関わっていく。彼らがグラウンダーのボールを使えば、かなりハイレベルなプレーができる」
 
 指揮官の指示に、要望以上の出来栄えで応えようと全員が真剣に取り組む。それは日本の長所だ。その点で就任して3か月のハリルホジッチ監督は、予想以上の手応えを感じているだろうし、だからこそ今後の継続的な向上を想定して「まだまだ伸びしろがある」と強調する。
 
 ただしサッカーは、あくまで相対的な競技だ。高いテクニックやハイレベルなアクションも、相手の抵抗力が強まれば事は容易には進まない。
 
 ハリルホジッチ監督は言った。
「ワールドカップ予選に向けて素晴らしい準備ができて満足だ」
 
 なるほどワールドカップ2次予選で戦うのは、シリア、アフガニスタン、シンガポール、カンボジアという国々である。こうした相手を、いかに効率良く崩すかに焦点を絞れば、イラク戦は格好の予行演習になった。しかしこの試合の持つ意味は、それ以上でも以下でもない。
 
 例えば常に攻撃のスウィッチを入れていたのは柴崎で、日本の攻勢が保証された試合なら、ここでプレーする最適のキャストだ。だが前任のハビエル・アギーレ監督から継続された傾向を見ても、ワールドカップ本番を想定するような厳しい試合でもボランチを託せるのかは未知数だ。
 
 宇佐美も原口元気も軽やかなステップワークで密集を切り裂いたかに見える。しかし相手がコーンのように傍観するだけなら、それは彼らにとって心地良いウォームアップのようなものだ。指揮官は途中から「みんなが得点を狙うようになり過ぎた」と語ったが、まさにイラクは、そういう判断を誘発するような相手だった。
 ハリルホジッチ監督は、シンガポール戦以降の2次予選を睨んだメンバー、布陣で、イラク戦を戦った。だがひとつだけ疑問符がつくのは、GKの選択だ。
 
「もっと存在感を見せつけてほしい」
 それが守護神に対する要望だった。だが川島は、十分に応え続けているのだろうか。
 
 58〜59分は、日本が連続してピンチに遭遇した唯一の時間帯だった。特に59分には、川島が直接相手のFKをフィスティングをするが、十分に弾けずそのままフリーのサード・アブドゥルアミールにヘディングで叩かれている(槙野智章がクリア)。
 
 ほとんど守備機会がない試合なら、ビルドアップが得意な西川周作を試してもいいし、少なくとも所属クラブでプレーをしていない状況を考えても、もっと競わせておくべきポジションではないだろうか。
 
 ただそれ以上に気がかりなのは、根本的な日本代表の強化である。霜田正浩技術委員長は「最終予選でライバルになる相手を叩くという意味でも重要」とイラク戦を位置づけていた。
 
 しかし今後約1年間で、日本代表は明らかに格下との対戦に時間を割かれる。そのためにも準備が必要なら、2次予選の相手より若干格上のイラクは適度な刺激になるのだろうが、ホームの大観衆の前で、ほぼ無抵抗の相手を崩して「ブラボー」と繰り返していたのでは、肝心な大舞台で手痛いしっぺ返しを食う。それはジーコやザックが十分に学習させてくれたはずである。
 
 サッカーではなにが起こるか分からないし、ワールドカップ予選では失敗が許されないことも事実だ。だがそれでも2次予選は、誰が指揮を執ってもノーリスクだ。シンガポールやカンボジアを倒すために、欧州から大量に選手を呼び戻してベストメンバーを組むほど非効率なことはない。
 
 それなら欧州組は即席の選抜チームとして現地でアウェー戦に臨み、予選は国内組で戦うなど、地理的なハンディを克服するための独自なアイデアなしに世界との差が縮まるとは思えない。ピッチ上の戦い方に限らず、むしろそれ以上に、強化策には抜本的な発想の転換が必要だ。
 
取材・文:加部 究(スポーツライター)