アメリカに本拠を置くジープは、第40回のラングラーの項でも紹介したように、今をときめくSUVの元祖ブランドである。そういうプライドもあってか、SUVにいろんなジャンルを融合したクロスオーバーが増えてきた昨今も、ジープはどちらかというと昔ながらのオフロード臭が強いモデルが多かった。そんななかで、昨年春に日本上陸した新型チェロキーは、なんというか「ついに!」というべき脱皮感が濃厚な新生ジープである。

 このチェロキーの基本骨格は、エンジンを横置きするFF乗用車そのもので、基本プロポーションはスポーティな最新乗用SUVのど真ん中。で、フェイスデザインはご覧のように、超アバンギャルド。あの7本のスリット(縦溝)というジープ伝統のグリルデザインを、こんな見事に処理するとは!? 自動車デザイン好きなら、ちょっとツボを突かれるであろう名デザインといっていい。

 ちなみに、最上段にあるまゆ毛のような切れ長ランプはスモールライトとウインカーで、メインのヘッドランプはそのひとつ下にある台形部分に埋め込まれている。まあ、自動車の安全基準をちょっと知っていれば「ランプ類の高さを考えれば、そりゃそうだわ」なのだが、最初に見ると、まさかの驚きに満ちる。

 さて、ジープを含む旧クライスラー社は、2009年からイタリアのフィアットグループの資本を受け入れはじめて、昨年にはフィアットグループと完全一体化して、今は"フィアットクライスラー・オートモビルズ"という世界7位の巨大メーカーとなっている。

 この新型チェロキーは、そんな伊米にわたる壮大な経済ドラマが産み落としたクルマである。じつはチェロキーの基本骨格設計やエンジンは、今や同じ屋根の下にいるアルファロメオ・ジュリエッタ(第27回参照)と共通。まあ、こういうクルマづくりは世界的にはめずらしくもなんともないが、以前のジープ(旧クライスラーには、ちょうどいいベースがなかった)なら、これを作るのはまず不可能だっただろう。

 というわけで、新生チェロキーはジープ社史としては歴史的な作品ではあるが、既存の乗用車をベースにした背高SUV......というのは、ある意味で"ありがち"な成り立ちでもある。では、なぜ『新車のツボ』でわざわざ取り上げるのかといえば、この見事なデザインもさることながら、その走りがとにかく素晴らしいツボに満たされているからだ。

 チェロキーにはパワフルなV6エンジンや4WDも用意されるが、ここで取り上げるのは、もっとも小排気量、かつ普通の前輪駆動で、もっとも安価な"ロンジチュード4×2"というグレード。そんでもって、このチェロキー・ロンジチュードの走りが、とにかくスンばらしい!

 世の中に走り自慢のSUVは数あれど、これほど、乗り手の魂動というか波長というか肌感覚というか......つまりは、人間のツボとこれほど自然にシンクロして走るクルマは、SUVという前提をはずしても、そうあるものではない。

 このチェロキーの乗り心地は、路面から浮いたように快適で安定、ステアリングを2本指でつまんでいるだけで矢のように直進する。動きは徹頭徹尾、おだやかでスローなのに、ステアリングはすこぶる正確で、山道や狭い路地ではタイヤが通るラインをセンチ単位でねらえる繊細さをあわせもつ。2.4リッターエンジンは十二分にパワフルだけど、なんとなく物足りないのは、それを支えるシャシーがあまりに優秀であるがゆえの錯覚だろう。

 なんだかんだいっても、長い伝統と秘伝のレシピをもっているジープのなかの人たちは「重くて背の高いクルマをどう走らせれば、人間は心地よいのか?」というツボが染みついているのだろう。そして、アルファロメオはスポーティカーづくりに関しては抑えるべきツボを知り尽くした一流の老舗。老舗のスポーティカーを、老舗のSUV名人が料理すると、こんなすごいものが......ってことである。

 この種の輸入SUVでも、日本ではやはりドイツ車が一番人気。で、国産車にもホメるべき力作はたくさんあるのだが、だまされたと思ってジープ・ロンジチュードに乗ってみるとよい。クルマに詳しい人、クルマ経験値の多い人ほど、このジープの名人芸にツボがやられてしまうはずである。

佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune