20年くらい前までは、免許をとった若者はスポーツカーに憧れたものだ。景気が低迷してからというもの、日本ではスポーツカー人気が下火になったと言われているが、まだまだ週末の峠にはスピードに夢中なドライバーが集う。
 
 発売されたばかりの4代目となるロードスター(マツダ)と、2008年から6代目フェアレディZ(日産)の二つの人気スポーツカーについて、これまでにクルマを40台買ってきたフリーライター・清水草一氏(53)が評価した。

 * * *
 走らせると、涙が出てきた。これは青春の味だ!

 私が若かった頃に乗っていたクルマは、今考えると実に遅かった。5速マニュアルシフトを駆使し、練習中のヒール・アンド・トゥを必死こいて繰り出しても、現代のクルマで言えばプリウスより遅かった。遅かったからこそ飛ばせたのだ。今のスポーツカー、たとえば日産・フェアレディZあたりで飛ばしたら、速すぎてすぐ捕まってしまう。制限速度は昔と変わっていないのだから。

 新型ロードスターは、昔のスポーツカー同様、今の基準で言えば決して速くない。エンジンの排気量はたったの1500cc。先代ロードスターは2000ccだったから、ずいぶんと小ぶりになったが、これが実にちょうどよく感度良好で、ものすごく気持ちいい。やはり美女は少し小柄な方がいい。

 カーマニア的に言うと、カーブでの車体の傾き方ひとつ取っても、昔っぽいウブな感覚があって、女性と初めて手をつないだ時のようなトキメキがあり、それが懐かしくもエロいのである。新設計のマニュアルシフトも軽い力で操作でき、ただ普通に走っているだけで気持ちいい。五十路を過ぎて、ついに理想の女性に出会ってしまった気分だ。

 今、このクルマを買うとしよう。問題はカミさんだが、すでに子離れが済んでいれば可能性はある。「どうせ3人以上で乗ることなんて滅多にないんだから、いいじゃない?」と、説得できないことはなかろう。

 ロードスターの値段は249万円から。フェアレディZより100万円以上安く、プリウスと同じくらいだ。排気量が小さくなったぶん、自動車税もちょっと安い(年間3万4500円)。燃費も18.8km/リットル(JC08モード)と良好だ。「これで温泉にでも出かけようよ、オープンカーはきっと気持ちいいよ」と、フルムーンドライブを持ちかけてみる手もある。

 それでも嫌だと言われたら、この際離婚したらどうだろう? そうすれば誰はばかることなく、現役の美女と温泉ドライブを目指すこともできる。美女のようなクルマに乗ったバツ付きのオッサンという立場も悪くない。夢の実現可能性はグンと高まろう。

 とある美女に聞いたところ、「ドライブの時は、事前に車種を教えて欲しい」とのことである。クルマのタイプに合わせて、服や靴のコーディネートを考えるからだそうだ。なるほど、さすがに美女はいろいろなクルマに乗り慣れている。

「何乗ってくるの?」と聞かれたら、「オープンカーで迎えに行くよ」と、さりげなく言ってみたいものだ。美女も「こりゃあ食われるな」と覚悟を決めるに違いない。男のロマンの絶頂である。

 仮に「美女と温泉でしっぽり」が夢のまま終わっても、新型ロードスターという美女を手に入れれば安心だ。いつでもおひとりさまで温泉ドライブに出掛けられる。いや、美女に乗って行けるのだから手間が省けるというものだ。下世話でどうもすいません。

■清水草一:編集者を経て、フリーライターに。「自動車を明るく楽しく論じる」がモットーの53歳。現在、フェラーリ・458イタリア、BMW・335iカブリオレ、トヨタ・アクアを所有。日本文藝家協会会員。

※週刊ポスト2015年6月19日号