■5月特集 いま見るなら、女子ゴルフ(10)

「日本女子ツアーでニュー・スター誕生の予感」――。

 韓国メディアがそうした見出しを掲げてピックアップするなど、日本女子ツアーで今、メキメキと頭角を現している韓国人プレイヤーがいる。イ・ボミ(26歳/韓国)、キム・ハヌル(26歳/韓国)に続く「第3の美人刺客」と言われる、ジョン・ジェウン(26歳)である。

 ジョン・ジェウンは昨年、日本ツアーのQT(※)に挑戦。ファイナルQTで18位という成績を残してレギュラーツアーの出場権を獲得し、今季からフル参戦を果たしている。
※クォリファイングトーナメント。ファースト、セカンド、サード、ファイナルという順に行なわれる、ツアーの出場資格を得るためのトーナメント。ファイナルQTで40位前後の成績を収めれば、翌年ツアーの大半は出場できる。

 そして、ここまで9試合に出場して、トップ10フィニッシュが4回。ほけんの窓口レディース(5位。5月15日〜17日/福岡県)や、中京テレビ・ブリヂストンレディス(2位。5月22日〜24日/愛知県)では優勝争いを演じて、日本でも一気に脚光を浴びるようになった。

 獲得賞金は2000万円を超えて、現在の賞金ランキングは15位(6月10日現在)。平均パット数2位、平均バーディー数1位と、部門別成績でも高い数字を残して、ツアー初優勝も間近と見られている。ジョン・ジェウン本人にここまでのプレイぶりについて聞いた。

「日本の環境に適応することについては、特に問題はありませんでした。日本と韓国は(距離が)近いですし、文化的な違いが少なからずあるとはいえ、その辺で苦労することはほとんどなかったですね。ここまでいい成績が残せているのは、何よりもショットやパッティングがいいからです。それで、スコアがまとまっているんですよ。技術的な部分がすごく安定しているから、結果が出ているんだと思います」

 スラッとした体型で、端整な顔立ちをしているジョン・ジェウン。ここ数試合の活躍ぶりから、日本での注目度も明らかに増している。ギャラリーの間からも、「あの子、誰だろ? なかなか可愛いね」という声があちらこちらから聞こえてくる。

「(イ・)ボミオンニ(オンニは韓国語で「お姉さん」の意)の日本での人気を目の当たりにして、すごくびっくりしました。それに比べたら、私なんてまだまだです(笑)。それでも最近は、少しずつですが、ギャラリーの方々が声をかけてくれたりする機会が増えました。自分のことを知ってもらえて、すごく感謝しています」

 強くて、美しい韓国人選手がまたひとり、日本ツアーに現れたと言えるが、意外なのは、ジョン・ジェウンは韓国ツアーでの実績がほとんどないことだ。ツアー優勝もなければ、年間の獲得賞金が1000万円を超えたシーズンも一度もない。ゆえに、地元・韓国でも彼女の活躍は驚きをもって報じられている。

 まさに、日本ツアーで突如登場した"ニュー・スター"ジョン・ジョウン。その経歴もまた、かなりベールに包まれている。一般的には、1989年生まれの26歳で、出身地はソウルということくらいしか知られていない。

 そこで、彼女に話を聞くと、小学生の頃はアイスリンクの上でショートトラック競技に励み、水泳も得意だったという。

「自分で言うのもなんですが、ショートトラックはかなりの実力でした。ゴルフを始めたのも、ちょうどその頃。父がゴルフをやっていたので、それがきっかけでいつの間にか始めていました。それから、少しずつ結果が出るようになっていって、だんだんとゴルフにのめり込んでいきました」

 ゴルフにはまったジョン・ジェウンは、すぐに頭角を現した。アマチュア大会で結果を出して、韓国代表(ナショナルチーム)に選出された。2006年アジア大会(ドーハ)では、2011年全米女子オープンの覇者ユ・ソヨン(24歳/韓国)とともに活躍。団体戦の金メダル獲得に貢献した。ジョン・ジェウンは、まさしく韓国ゴルフ界のエリートコースを歩み、「期待の新星」として将来を嘱望されていたのだ。

 そして、プロに転向し、2008年に韓国ツアーのデビューも果たした。当時も「美女ゴルファー」として注目を集めていたそうだ。が、プロになって同じ韓国代表の面々が結果を出していく一方で、ジョン・ジェウンだけはパッとしなかった。思うような結果を残せず、彼女の存在感はどんどん薄れていった。

「(韓国ツアーでは)結果ばかり気にして、徐々に自分のゴルフができなくなってしまったんです。少しずつ居場所がなくなって......、自信もなくしていました」

 そんなジョン・ジェウンに追い討ちをかけるような、ショッキングな出来事が起こったのは、2013年シーズンだった。韓国ツアーでついにシード落ちという屈辱を味わった。そのうえで、メインスポンサーだったKB国民銀行からも契約を解除されてしまったのだ。その際、ジョン・ジェウンは人目もはばからず号泣した。

「あのときばかりは、(私には)ゴルフの才能がない、と思いました。私にとって、ゴルフがすべてでしたが、正直、やめようと考えました」

 しかし、ジョン・ジェウンはゴルフをやめなかった。この屈辱をバネにして、翌年見事によみがえった。韓国の下部ツアーとなるドリームツアーに参戦。16試合に出場して、1勝、トップ10フィニッシュは11回を記録した。もともと実力のある選手である。下部ツアーでは力が違った。同ツアーの賞金ランキング1位となって、今季は韓国のレギュラーツアーに復活。日本ツアー参戦まで果たした。

「年齢的なものもあって、周囲からは『韓国ツアーだけで、余裕を持ってプレイしていればいいじゃないか』という助言もあったのですが、自分の中で"変化"が欲しかったんです。新たな挑戦もしてみたかった。だから、日本ツアーに出場できることが決まったときは、本当にうれしかった」

 ジョン・ジェンウンは今季、新たに韓国のBCカードとスポンサー契約を結んだ。その契約において、韓国ツアーに15試合ほど出場することが義務づけられているため、現在は日本と韓国を行き来して、それぞれのツアーで奮闘している。ちなみに、韓国ツアーでも今季は、4試合に出場してトップ10フィニッシュが3回、うち3位が1回と、これまでの成績が嘘のような活躍ぶりを披露。韓国ツアーでも、ツアー初優勝の期待が日に日に高まっている。

 そうした好調要因のひとつに、ジョン・ジェウンは「日本ツアー参戦が大きい」と語る。

「日本ツアーに挑戦できたことは、間違っていなかったな、と思っています。日本は、コースやゴルフをする環境がすごくいいので、着実に技術が伸びています。また、私は韓国ツアーでは結果を残せていないし、もはや中堅ということもあって、常にプレッシャーを抱えています。でも日本では、私はまだ新人ですから、のびのびと思い切ってプレイができています。それが、いいほうに出ているのかもしれませんね(笑)。そしてその効果が、韓国ツアーでの好調にもつながっているのかもしれません。

 優勝ですか? もちろん、早くしたいという思いはあります。今季はゴルフの調子がすごくいいですし、自分の中で勢いも感じています。そろそろ優勝できるのではないか、という手応えもあります。とにかく、日本ツアーで1勝したい。それが、当面の目標ですね」

 そう語って、満面の笑みを浮かべるジョン・ジェウン。彼女は、日本での試合を心から楽しんでいるようだった。

「日本は韓国よりも広いので、各トーナメント会場へ大きな荷物を持って移動するのが、結構大変ですよね。でも、そうしたことも苦にならないほど、すごく充実した日々を過ごしています。ホテルでの生活も問題ありません。好きな食べ物も多いんですよ。寿司、刺身、すき焼き、焼肉......あと納豆も(笑)。日本の食べ物は何でも美味しいです」

 意を決して臨んだ日本ツアー。その挑戦がジョン・ジェウンにもたらしたものは計り知れない。一度なくしてしまった"自信"も完全に取り戻した。彼女にとって"第2のゴルフ人生"が今、花開こうとしている。

text by Kim Myung-Wook