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米航空宇宙局(NASA)は米国時間2015年6月8日、将来の火星探査機の着陸技術の試験機「LDSD」の、2回目となる飛行試験を実施した。

これまでより大型の探査機を火星に着陸させるには、今までよりも大型のパラシュートや、まったく新しい減速装置が必要となる。LDSDはそうした技術の実証試験を行うために開発された。

LDSDは約1年前の2014年6月28日に初の試験を行ったが、パラシュートの展開に失敗し、完璧とはいえない結果に終わっていた。今回はその雪辱戦となったが、今回もパラシュートの展開に失敗し、残念な結果となってしまった。

第1回ではLDSDの概要について紹介した。今回は、2015年6月8日に実施された第2回の試験の顛末を見ていきたい。

○雪辱に向けて

2014年の試験はやや残念な結果に終わったが、米航空宇宙局(NASA)は2回目の試験に向けて、LDSDにいくつかの改良を加えた。

まず、機体の側面から膨らむように展開される減速装置の「SIAD-R」(Supersonic Inflatable Aerodynamic Decelerator)は、2014年の試験で成功したことから、今回は新たに一回り大きな「SIAD-E」が搭載された。SIAD-Rの展開時の大きさは直径6mだったが、SIAD-Eは8mとなっており、より大きな減速効果が期待された。また展開方法も、SIAD-Rはガスを注入して膨らませる方式だったが、SIAD-Eはラム圧(空気抵抗の力を利用した圧力)を使って膨らませる方法を採用している。

そして最大の違いは、2014年の試験で展開直後に破れてしまったマンモス・パラシュートだ。2014年の試験で使われたものは、パラシュートの頂点から布が放射状に広がる「ディスクセイル」と呼ばれる構造をしていたが、2015年の試験では「リングセイル」と呼ばれる、直径の異なるドーナツ状の布が同心円状に広がる構造に改良された。また強靭な繊維としておなじみのケヴラーもより多くパラシュートに編み込まれ、強度も増している。

○Oh, Chute!

第2回試験の実施日は2015年6月2日から12日の間に設定された。場所は前回と同じ、ハワイのカウアイ島にある米海軍が保有する太平洋ミサイル試射場が選ばれた。着水海域の天候不良で延期を繰り返したが、現地時間2015年6月8日7時45分(日本時間2015年6月9日2時45分)、ついにLDSDを積んだ気球が上空に向けて放たれた。

気球は約2時間20分をかけて、高度約36kmまで上昇し、LDSDを分離した。直後、LDSDは機体を安定させるため、側面に装備された小さなロケット・モーターが噴射され回転をはじめた。さらにその直後、機体の下部に装備されたロケット・モーターに点火され、約1分をかけて高度約55kmまで一気に上昇した。最大速度はマッハ4にも達した。

ロケット・モーターの燃焼が終わり、弾道軌道の頂点に差し掛かったところでSIAD-Eの展開が行われた。展開は成功し、降下する過程でマッハ2.4まで機体を減速させることに成功した。

そして機体の上部から、折り畳まれた状態のパラシュートが、機体の進行方向の反対側へと引き出された。試験飛行にかかわる科学者や技術者をはじめ、NASA TVを通じて世界中の人々が見守る中、巨大パラシュートが開いた。しかし、パラシュートは一瞬で破れた。それはまるで2014年の試験の再現のようだった。

映像を観察していた科学者のひとりが「Oh, Chute!」と思わず声を上げた。

LDSDはそのまま高速で降下を続け、太平洋上に落下した。

○実験は成功、2016年夏に再々挑戦

試験から1日が経った米国時間6月10日午後(日本時間11日未明)、NASAは記者会見を開いた。NASAは、パラシュートの失敗にもかかわらず、実験としては成功と発表した。

LDSD計画のプロジェクト・マネージャーを務めるマーク・アドラー(Mark Adler)氏は「実験としては成功だったといえる。ただ、パラシュートが過大な膨脹に耐えることができなかったことは明らかだ」と語った。「どのような科学実験でもそうだが、実験を行うことができ、データが得られ、またそこから何らかの結論が得られるのであれば、それは成功である」。

またNASAの宇宙技術ミッション局の責任者を務めるスティーヴ・ジョージック(Steve Jurczyk)氏も「私たちがレコーダーやメモリーからデータを取り出すことができれば、実験チームとしては今回の飛行における成功基準を満たしたと考える」と語った。

また記者会見では、海上に落下したLDSDの機体が回収でき、高解像度の映像データを含む、多くの重要なデータが取り出せたことが明らかにされ、これによりパラシュートのより一層の改良に役立つと明言された。

パラシュートの失敗原因については、現段階ではまだ調査中のため多くが語られることはなかったが、今回の実験の主任研究員を務めるイアン・クラーク(Ian Clark)氏は「暫定的なデータを見る限りでは、パラシュートは全開か、あるいはほぼ全開まで開いたことを示している。そこで抗力が大きくなった結果、破れたようだ」と語っている。「昨年は展開が始まってすぐに破れてしまったが、今年は完全に開くまで、パラシュートはほぼ無傷だったように見える。またより大きな抗力が生成されたことも確認できた。この2点はプラスの成果だ」。

また会見では、将来の火星探査にとって、この新技術は必ず必要なものであるとも語られた。

ジョージック氏によると「この新技術は、5t級の探査機を火星表面に降ろすことが可能だ」という。これまで火星に着陸した最も大きな探査機は「キュリオシティ」で、質量は約1tだった。つまりその5倍の質量の探査機を着陸させることが可能になるわけだ。

さらにこの新技術を使うことで着陸精度も上げられるため、火星の山岳地帯など、これまでは探査機の着陸が困難だった地域にも降ろすことも可能になるという。

また、有人火星探査では、着陸船はおよそ20tにもなることが予想されている。ジョージック氏は「有人着陸では、たとえばSIADのような膨張式の減速装置や、パラシュート、ロケットによる逆噴射といった、さまざまな技術の組み合わせが使われることになるだろう」と語った。

なお、2016年の夏には、3回目となる試験飛行の実施が予定されている。これは今回の試験の結果にかかわらず、あらかじめ計画されていたことだ。

アドラー氏によると「NASAとしては、それぞれの減速技術(SIADやパラシュートなど)について、実際の火星探査機に採用する前に、最低2回は試験に成功しなければならないとしている。SIADについてはそのハードルをクリアした。パラシュートについては、NASAは4回目の試験までにクリアすることを見込んでいる」と述べた。

はたして3度目の正直となるか、来年の試験飛行に期待したい。

(鳥嶋真也)