なんとか勝ち切った。なでしこジャパンが連覇を狙うFIFA女子ワールドカップの初戦は、グループC一番の難敵・スイスを1−0で破り、勝ち点3をもぎ取った。

 カナダ入りしてから、そのほとんどの練習を異例の非公開にしてきた佐々木則夫監督が、初戦にしてグループリーグ最大の山場となるこの試合を託した11人は、いつもの主軸に加え、注目のボランチに日本男女初となるAマッチ200試合出場の節目を迎えた澤穂希(INAC神戸)とケガから復調した阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)の鉄板コンビ、そして左サイドバックには宇津木瑠美(モンペリエHSC)が入り、右サイドには国内では控えに回っていた有吉佐織(日テレ・ベレーザ)がバックに、ハーフに大野忍(INAC神戸)がスタメンを勝ち取っていた。

『初戦は難しいもの』。慣れない世界大会での気負いや経験不足からいつもとは違う空気感に包まれる独特のピッチを知る選手たちは「慎重になりすぎず、いつものように」と平常心で臨んでいた。勝利への方程式は先手を打つこと――彼女たちが狙うのは先制点のみ。受け身にならず積極的に攻勢に出る。

 思いがけないそのシーンが訪れたのは29分、安藤梢(フランクフルト)が倒されて得たPKを宮間あや(湯郷ベル)がしっかりと落ち着いて沈め、ガッツポーズとともに先制点を手にした。結局はこのゴールを守りきり、日本は1−0で辛勝した。

 初戦のギリギリまでスタメンが決まらないほど拮抗していた選手たちの仕上がり。

 右サイドのスタメンを掴んだ大野と有吉はここぞとばかりに積極的に攻撃に打って出た。普段のトレーニングからコミュニケーションを取る姿が見られる二人だからこそ、有吉のビルドアップを大野が支え、大野が前線へ飛び出せば、すかさず有吉がサポートに入る。

 後半に入ると攻め込まれる時間帯が増え、有吉は守備に多くの時間を割かれたが、二人は前線への意識を緩めることはなかった。日本の命綱である宮間のいる左サイドを封じられると、大野はダイレクトパスで変化を生み出すなど工夫を凝らし始める。比較的受け身だった右サイドに活気が戻った時間だった。「緊張もあったけど楽しくできた」とは有吉。アルガルベカップではフランスを相手に「ビビッてしまったところもあった」と悔しさを隠し切れなかったが、ここ一番で高い位置を取りながらの強気なプレイを発揮した。

 ボランチはやはり3枚の起用となった。阪口のしなやかさと、澤のメリハリの効いたプレイで、前半の安定感はさすがのゴールデンコンビ。後半12分に澤は退いたが、本人も事前に了承済みだったこともあり、存分に存在感を発揮しての交代となった。

 代わって入ったのがワールドカップ初出場の川村優理(ベガルタ仙台)。緊張するのはもちろん、スイスが同点弾を狙ってギアを上げてきている最中に、そのど真ん中に放り込まれて、すぐに馴染むはずもない。しばらく続いた阪口の気配を常に意識しながらのポジショニングは、すべて中途半端になってしまった。ところがその数分後、川村は思い切ったスライディングで相手の進行を阻止しようとした。

「迷っててもしょうがない。思いっきりやるしかないと思った」

 川村は阪口のカバーを信じて自らができるプレイをぶつけた。結果、それが功を奏した形となる。昨年からセンターバックとしての能力を開花させ始めていた川村だったが、直前合宿から本格的に求められたのは、本来のポジションであるボランチだった。

 長丁場となる舞台では、ボランチのペアリングは複数必要だ。仮に澤、阪口、川村で組む場合、この試合のような交代は相手にも大きな影響を与える。ただし、自分たちの切り替えが何よりも重要だ。ボランチの迷いはピッチ全体に波及してしまうだけに、川村がいかに短時間で流れを掴むことができるかが今後カギとなっていきそうだ。

 そして今、なでしこジャパンにかつてない大きな試練が訪れている。日本の決勝点となったPKを生み出したのは安藤のプレイ。大儀見優季(ヴォルフスブルク)からの裏へのパスのタイミングはGKとの1対1の勝負につながる。そのとき、安藤は一切の迷いなく飛び込んだ。左足首を痛めたのはその着地時のことだった。激痛に表情がゆがむ。ただ事ではない症状であることは瞬時に見て取れた。

 一夜明け――安藤のチーム完全離脱が佐々木監督の口から明らかになった。今年に入ってから好調をキープしていた安藤は現在32歳。ベテランらしくないプレイをしたいと心に決めていた。数日前に交した彼女の言葉がよみがえる。

「キレイなゴールが欲しい訳じゃない。体ごと押し込む、そんな泥臭いゴールが欲しいんです」

 安藤が最後に見せてくれたものはまさしく、体ごと投げ出す彼女の求めたプレイそのものだった。また、彼女の存在で光を受けるはずだったのが大儀見だ。この試合でも前半の二人の動きはゴールへの可能性にあふれるものだっただけに、失ったものの大きさを痛感する。

 だからこそ、安藤が体を張って残したこの勝ち点3を無駄にすることなど、誰ができるのか。大きすぎる代償の代わりに持ち帰ることができるのは何か。安藤の想いをチームに残し、彼女に胸を張れるチームにしていくしかない。なでしこたちが本気で強くなるのは、今しかない。

早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko