JBを知らなくても音楽好きならシビれる傑作映画『ジェームス・ブラウン』
 5月30日より公開された『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』は、新たな音楽映画の傑作でした。2時間強の中に、ミュージシャンの概要がテンポよく過不足なく収められている。加えて万人にアピールする娯楽の王道に仕上がっていることが素晴らしい。

 音楽に偏ることもなければ、キャラクターだけにフォーカスが当てられることもない。その二つが切り離せないものと示唆している点が実に稀有です。

⇒【YouTube】映画『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』予告編 http://youtu.be/_QjK09ZYNH8

<音楽史上の至宝、ジェームス・ブラウン(1933〜2006年、通称JB)が、極貧の幼少時代から”ファンクの帝王”となるまでを描く伝記映画。JB役のチャドウィック・ボーズマンによるキレキレのライブシーンは圧巻だ。プロデューサーの一人はミック・ジャガー>

◆「お前の持っている楽器は何だ?」

 浮き彫りになるのは、JBの特異な立ち位置。クラシックの指揮者ほどには責任の所在が明らかでないポピュラー音楽の中で、そのあり方はまさに異色です。フロントマン、リードボーカリスト、バンドマスター。そのすべてを引き受け矢面に立つ代わりに、全権を掌握します。

 やり方は、あくまでも即物的。呼びかけるときには必ず「ミスター」を付けさせ、バンド練習への遅刻や勝手な私語に対しては漏れなく罰金を科す。無駄な厳しさがない分、冷たさが際立つ措置です。背景にはジョージア州の山奥での幼少時代の過酷な体験がありそうです。

 もちろん音楽においてもJBは全てを決定します。バンド練習のシーンで、ギタリストに対して「お前の持っている楽器は何だ?」とたずねる。当然「ギターだ」という答えが返ってくるのですが、即座に否定される。ではギタリストがぶら下げているものは一体何なのでしょう。こちらは映画を観てのお楽しみ。ファンクの誕生をささやかに祝う、忘れがたいシーンでした。

 こちら(http://youtu.be/pz1yF5LYaOk)はリアルJames Brown‐Cold Sweat(Live at Chastain Park,Atlanta 1985)。

◆場面によって音の響き方が違う芸の細かさ

 しかし映画はそこから“王朝”が崩壊していく過程を見事に捉えていきます。ゴスペル風味のリズム&ブルースからスタートした音楽が、マイルス・デイヴィスの「So What」をも取り込んだクールなファンクへと変わり、その一つ一つのフレージングが研ぎ澄まされていくのに比例して、JBの人格もどんどんシビアになっていく。

 バンドメンバーはギャラの未払いと日常的な締め付けにとうとう去っていく。残されたのは無二の親友ボビー・バードのみ。それでも「前進することがファンク」だと、新たなメンバーを集めて再始動するのですが……。

 この描き方にいやらしい作家性が微塵もないところにテイト・テイラー監督の手腕が光っています。劇中のどのような出来事も平等に扱っているから、ドラマチックな重大さという足かせをはめられずに済む。ドキュメンタリータッチの学びと、ダイナミックなエンターテイメントの両方からよどみなく楽しめる作りになっているのですね。

 さらに録音の芸も細かい。レコーディングセッション、テレビの収録、教会でのゴスペル、そしてライブステージ。その全てで響き方の違いが分かるように音が鳴っているのです。こういった細かな気遣いが、映画全体のダイナミズムを支えているのだと感動してしまいました。

 こちら(http://youtu.be/c5BL4RNFr58)もリアルJames Brown‐Living in America

◆映画の最後に訪れる静けさ

 ラストシーンの前、幼少時代のJBが現われこう言います。

 “I paid the cost to be the boss”(ボスをやるのも楽じゃない)

 向かうステージには、もうかつての友もいません。それでもファンクをやり続ける。と思った矢先に演奏を止め、アカペラで歌いだすJB。「耳を澄ませ。奴は天才だぞ」と言い切った客席のバードに捧げるために。信頼や絆はぼろきれのようになりながらも、まだそこにある。その証として選んだ曲は何だったでしょうか。

 一節を歌い終えて息を吸い込む間に、お互いの面持ちが交錯する。かつて熱っぽいコール&レスポンスを聴かせていたコンビが、ここでは音もないままに掛け合う。本作が屈指の音楽映画であるゆえんは、この静寂にこそあるのではないでしょうか。

●『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』全国公開中
監督:テイト・テイラー 主演:チャドウィック・ボーズマン ユニバーサル映画 (C)Universal Pictures
http://jamesbrown-movie.jp/

※文中で触れたマイルス・デイヴィスの「So What」

⇒【YouTube】Miles Davis‐So What http://youtu.be/zqNTltOGh5c

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>