いよいよワールドカップの開幕が目前に迫ってきた。初めて世界の頂点に立ち、"なでしこジャパン"の名を日本のみならず世界中に知らしめたあのドイツ大会から4年。再びなでしこたちがあの大舞台に戻ってくる。

 ドイツワールドカップ優勝から1年後の、ロンドンオリンピックでは銀メダル。女子サッカー界では、オリンピックを一区切りとするため、世界各国で指導者や選手の入れ替わりがあった。

 注目された日本の動向は――佐々木則夫監督続投。2008年の就任から、日本女子サッカー界初の長期体制で臨むことになった。無論、選手選考はゼロからのスタート。これまで佐々木監督はユース年代の指導にあたっていたこともあり、次期なでしこジャパン候補が集う、なでしこチャレンジプロジェクトなどをはじめ、国際大会でもベテラン勢を招集せず、多くの若手選手がアピールのチャンスを与えられた。

 そして流れた月日は2年。昨年10月、ベスト布陣で臨んだカナダ遠征のメンバーはドイツワールドカップ・ロンドンオリンピック経験者が多くを占めた。そして、それはカナダでワールドカップ連覇を目指すメンバーへとつながっていった。

 "変わり映えのないメンバー"――そう捉えられることも多いが、それは少し違う。確かに顔ぶれこそ4年前と変わらないかもしれないが、ここ数年は海外へ挑戦の場を広げたり、国内組もそれぞれに個を伸ばしてきた。

 しかし、それらをすり合わせる時間を選手たちは、ほとんど与えられてこなかった。どれだけ伸びしろを広げてきたのか、スピードは、高さは、ボールコントロールの技術は......?

 互いの限界や成長を見極める時間はワールドカップ直前の合宿から本格的に始まったと言っていい。5月末に香川県で行なわれた合宿では守備を中心に、鉄板の4バックはもちろん、5バックも試した。また4バックでも、4−1−4−1や、宮間あや(湯郷)をトップにあげる4−4−2など、布陣のバリエーションに取り組んだ。

 W杯前の親善試合では、ニュージーランドを1−0(5月)、イタリアを1−0(5月28日)と辛勝に終わったが、選手たちにとっては数少ない実戦。この2試合で数限りないトライと調整を必死にこなしたとあって、選手たちの表情は硬くはなかった。

 他国と比べれば、正直遅すぎる調整であることは否めない。けれど、それが及ぼす影響は悪いものばかりではない。

「今、日本の映像は一番手に入りやすい」と佐々木監督も言うように、なでしこの親善試合の様子は簡単に手に入る。分析材料を提供しやすい環境で、チーム自体が固まっていないということは、ポジティブに考えれば、相手にも情報が入ることはない。その分、一気にチーム構成を進めなければならない。

 もともと、佐々木監督のチーム作りは直前急ピッチ型。大会を通して成長を促していくのが佐々木流だ。その証拠に、今回もカナダ入りしてから練習が公開されたのはわずか1日のみ。簡単なウォーミングアップかダウンのみ公開と、徹底して外部の目をシャットアウトしてきた。

 それだけ選手たちの集中力も高まる訳で、遠く離れた場所にいる報道陣のところまで、活気ある掛け声が届いてくる。4日には、大会で使用される人工芝と同じタイプの練習場に入り、その感触を確かめた。パスサッカーを身上とする日本にとって、常に安定したピッチはありがたい。試合会場であるBCプレイススタジアムも、昨年のカナダ遠征のときから芝が張り替えられており、この練習場のピッチで初めて感触を味わうことができた。

「バウンドするとスピード感が変わる」(川澄奈穂美)、「ボールが転がりにくい」(岩清水梓)と、一様に日本の人工芝との違いを口にしたが、注意すれば問題はないと自信をのぞかせた。初戦(スイス戦)のメンバーを決める紅白戦などを重ね、メンバーの絞り込みは最終段階に入っている。

 日本が属するグループCは、スイス、カメルーン、エクアドルといずれもワールドカップ初出場組。それだけに情報は少ない。スイスは今年3月のアルガルベカップで別グループながら試合を行なっているため、日本は分析用の映像はもちろん、佐々木監督を始め首脳陣も偵察に出かけていた。

 カメルーン、エクアドルに関しては極端に情報が少ないが、要はそれまでに日本側の今大会用の戦い方が確立されているかどうかがカギとなる。

 そう考えると、やはり最大の山場はスイス戦だ。アルガルベカップではアメリカ相手に前半は互角の戦いを見せた。守備もしっかりと球際をツメる強さを持ち、攻撃への切り替えも速い。注意を払いたいのは、サイドチェンジを狙うロングボールでの展開だ。プレスがかかるとトップへボールが収まりにくい傾向はあるが、それは日本も同じ課題を持つ。どちらが先にバイタルエリアを攻略するかがポイントになりそうだ。

「初戦から100%で臨めればいいけど、そういうチーム作りは難しい。もちろん全力で臨みますが、大会を通じて成長していくチームになりたい」とは川澄。まだまだ手応えを掴むまでには至っていないが、宮間も「やるべきことを固めている。相手は立ち上がりに勢いがあるが、(日本の)連動で抑えられると思う」と調整は進んでいる。

 2強の様相を呈しているグループC。初戦を制することができれば、首位突破がグッと現実味を帯びてくる。皮算用ではあるが、決勝トーナメント以降の戦いを考えれば、対戦相手だけではなく、移動距離を含め、有利な条件で戦うことができる首位突破を狙うのはスイスも同じ。

 カナダ入りしてから改善が進んでいる"シュート力"を最大限に発揮し、勢いをつけたいところだ。今大会の行方を左右する初戦。日本だけが許された大会連覇への道は6月9日(日本時間)、決勝の地でもあるバンクーバーで幕を開ける。

早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko