激しく変動するPGAツアーの勢力図の中で…松山英樹はマイペースに(撮影:上山敬太)

写真拡大

 「十年一昔」と言うけれど、昨年のメモリアル・トーナメントを思い出しながら今年のメモリアル・トーナメントを眺めていたら、10年どころか、わずか1年前が「一昔」前に感じられた。
打球事故で流血…不安げな表情を浮かべる松山英樹
 昨年大会で松山英樹と勝利を競い合い、最終日の後半に崩れて敗北したのは、バッバ・ワトソンやアダム・スコットだった。だが、今年のミュアフィールドビレッジに彼らの姿はなく、見慣れない名前ばかりが続々とリーダーボードに浮上し、勝利を掴んだのは、無名のスウェーデン人、デビッド・リングマースだった。
 注目選手の顔ぶれも様変わりした。「次なるジョーダン・スピース」と呼ばれ、注目を集めていたのは22歳のパトリック・ロジャース。2年前のジョーダン・スピース同様、米ツアーに出場できる保証も資格も何一つないままプロ転向。推薦頼みの綱渡りで今年から米ツアーに挑み始め、先月のウエルズ・ファーゴ選手権2位タイ、そして今大会では40位に食い込み、出場わずか9試合でスペシャルテンポラリーメンバーになった。
 今季ルーキー、24歳のザック・ブレアは、子供のころからの夢だったタイガー・ウッズとの同組ラウンドが今大会3日目についに実現し、子供のような笑顔をたたえながら18ホールを回った。
 その日、憧れのウッズは絶不調のどん底で、自己ワーストの「85」を叩き、最下位に転落。しかし、ブレアは「それでもタイガーはナイスだった」「それでもタイガーと一緒にプレーできて夢のようだった」とホールアウト後も興奮していた。
 最終日を最下位で迎えたウッズはトップスタートの“一人旅”。そんな屈辱的なラウンドにウッズは拒否反応を示し、棄権するのではないか。周囲ではそう予想する声が聞かれたが、ウッズはきっちり72ホールを回った。
 「朝早くから大勢のファンが来て応援してくれた。アンダーパーを目指してプレーした」。
 かつて、このミュアフィールドビレッジで3連覇を含む5勝を挙げた王者が、最終日に健気に“一人旅”をする厳しい現実は、新旧交代の象徴。わずか1年のうちに起こった注目選手の顔ぶれの目覚ましい変化は、米ツアーの勢力図が猛スピードで変貌していることを示していた。
 そんな中、初日を首位で発進し、優勝争いに絡んだ末、5位になった松山英樹は、昨年も今年も好成績を維持した数少ない選手の一人となった。
 昨年の松山と今年の松山を比べると、いろいろな変化が見て取れる。昨年はパットの不調に対するイライラを開幕前からあからさまに見せていたけれど、今年はショットの不調を嘆きながらも、その不安を胸の中で上手に噛み砕き、初日には完璧に近いショットを披露した。
 「試合が始まってからは(開幕前にショットが)悪かったことを1回忘れて、いい状態だと思ってやっていた。(2日目以降は)なかなか初日のようないいフィーリングは戻らなかったけど、ここまで優勝争いができたのは良かった」
 心の成長が松山に冷静な対応力や忍耐力をもたらし、だからこそ、彼は今年も好位置でフィニッシュできた。
 課題もはっきり見えてきた。連覇を逃した直接の原因になったのは、最終日、池に落とした16番のティショット、そしてグリーンを大オーバーさせた17番の第2打。
 「自分の距離感を信頼できていない。まだ練習が足りない。ここで勝つためには自分を信じられるものを持っていないといけない。ちょっと足りなかった」
 不足と感じたものを1年後の来年、きっちり携えて、このミュアフィールドビレッジに再び戻ってくればいい。米ツアーは、わずか1年が「一昔」と感じるスピード社会。けれど、松山は周囲の喧騒に翻弄されることなく、マイペースで、きっちりと成長を遂げているのだから――。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>