アメリカ海軍の哨戒機、P-8A「ポセイドン」(画像出典:U.S. Navy photo by Greg L. Davis/Released)。

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近年、南シナ海南沙諸島中国が人工島を造成。接近したアメリカ軍機に対し警告するなど、緊張が高まっています。しかしそもそも、中国が領土と主張する人工島「ファイアリークロスリーフ」は国際法上、認められるものなのでしょうか。また中国が「島」と認めない日本の沖ノ鳥島とは、何が違うのでしょうか。中国の不思議な言い分が見えてきました。

アメリカは認めない

 近年、南シナ海に面する周辺国が領有権を主張し対立する、南沙諸島(スプラトリー諸島)や西沙諸島(パラセル諸島)における衝突が世界中の注目を集めています。

 特に中国は圧倒的な資金と軍事力を背景に岩礁を埋め立て軍用飛行場を建設しており、その力をもって自国の影響力を高めようとするやり方は、周辺国にとって大きな懸念となっています。

 2015年5月20日(水)にはアメリカ海軍のP-8A「ポセイドン」哨戒機が、飛行場が造成されつつある南沙諸島の人工島「ファイアリークロスリーフ」に接近し、監視飛行を実施。その際、中国海軍が「ポセイドン」に対し、「即時退去せよ」と8回の無線警告を行うという事件が発生しました。

「ポセイドン」は公海上を飛行中であったため中国海軍の警告には従わず、中国海軍側もそれ以上の対処を行いませんでしたが、後日アメリカ政府は「次は人工島(ファイアリークロスリーフ)の12海里(22km)以内に艦船や航空機を進入させる」と明言。中国は反発を強めています。

 国家は「領土」となる島から12海里以内の海域には「領海」を設定することができ、また領土と領海の上空を「領空」とすることができます。そしてこの領土、領海、領空の範囲内を、自国の主権が及ぶ範囲として領有しています。つまり「ファイアリークロスリーフの12海里以内に進入する」と明言したアメリカ政府は、中国の領海・領空を認めないという強いメッセージを送ったのです。

中国の行為は国際法上、許されるのか?

 ファイアリークロスリーフは複数の国が領有権を争っていますが、それはとりあえず置いておくとして、アメリカ機が中国が実効支配する島の12海里以内に進入するという行為は、国際法的には許されることなのでしょうか。

 その答えは「海洋法に関する国際連合条約」にあります。

第121条 島の制度
1項 島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、満潮時においても水面上にあるものをいう。

第60条 排他的経済水域における人工島、施設及び構築物
8項 人工島、施設及び構築物は、島の地位を有しない。これらのものは、それ自体の領海を有せず(以下略)

 ファイアリークロスリーフは元々、干潮時のみ水面上に陸地が露出する環礁でした。それを中国が人為的な埋め立てによって人工島としたものであり、海洋法に関する国際連合条約に従えば、島とみなすことはできません。領土は島ないし大陸のみに設定が可能であり、従ってファイアリークロスリーフの周囲12海里に対して中国は、領空・領海を主張することはできないのです。

東京都沖ノ鳥島との決定的な違い

 中国は日本最南端の「沖ノ鳥島(東京都小笠原村)」を島ではないと主張しています。しかし沖ノ鳥島は自然に形成された陸地であると同時に、満潮時において海面に露出しており、ファイアリークロスリーフとは事情が異なります。沖ノ鳥島はその周囲を護岸工事によって埋め立てていますが、これは侵食を防ぐためのもの。日本政府は沖ノ鳥島を領土としてみなし、その周囲12海里に領海と領空、そして周囲200海里に排他的経済水域を設定しています。

 ただし、海洋法に関する国際連合条約では、

第121条
3項 人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。

 とあるため、その周囲に設定された排他的経済水域について、議論があることは確かです。日本政府は沖ノ鳥島に灯台を建設するなどして、経済的生活が成立しているとの立場をとっています。

 いずれにせよ、中国はファイアリークロスリーフなどの人工島に対し合法的に領空・領海を設定できないため、実行支配するには戦闘機や艦船を配備し実力をもって干渉を排除するしかありません。人工島の飛行場が完成後、戦闘機などの基地とする可能性は十分に考えられます。

 そしてP-8A「ポセイドン」などの哨戒飛行に対し攻撃には至らなくとも、今回のようにただ無線で退去を警告する場合と、戦闘機によって監視の上で警告する場合とでは、明らかに違う意味をもちます。