日本創成会議ホームページより

写真拡大

 「高齢者、41地域に移住を 医療・介護で東京圏は限界 日本創成会議」といったニュースが話題になっている。

 いくつかの記事をまとめると、次のような内容だ。有識者らで構成する「日本創成会議」(座長=増田寛也元総務相)は4日、東京圏の75歳以上の高齢者が今後10年間で急増し、深刻な医療・介護サービス不足に陥るとして高齢者の地方移住を促すよう政府や自治体に求める提言「東京圏高齢化危機回避戦略」を発表した。移住先として、施設や人材に余裕がある北海道函館市や福岡県北九州市、大分県別府市など26道府県の41地域を挙げている。

 日本創成会議といえば、「地方創生」をテーマにした提言を続ける民間シンクタンクで、2014年5月には、同会議の人口減少問題検討分科会が、2040年には若年女性の流出により全国で896の市区町村が人口減少による消滅の可能性がある「消滅可能性都市」になると発表し、名指しされた地方自治体を中心に「増田ショック」といわれる物議をかもし、安倍政権の「地方創生」の動きを加速させたこともある。

 今回は、東京が高齢化し、医療・介護サービス不足になってしまうことを避けるため、75歳以上の高齢者を全国に分散させようというわけだ。「高齢者が移住した地方で、健康でアクティブな生活を送り、医療介護が必要となった時には継続的なケアサービスが受けられるようなコミュニティづくりを進める」(提言より)という政府による「日本版CCRC構想」(コンティニューイング・ケア・リタイアメント・コミュニティの頭文字での略語。米国で普及している高齢者コミュニティ)につながるものだ。

 4日に会見した増田氏は今回の提言を「安倍晋三首相や地方創生に関係している大臣にもお話しした」と述べたが、政府の「日本版CCRC構想有識者会議」も7〜8月に構想の中間報告を行い、年内に最終報告をまとめる予定だが、その座長も日本創成会議の座長と同じ増田氏であることから、「高齢者を地方に」という動きが加速しそうだ。

 しかし、「高齢者の生活環境の大きな変化は、精神的な負担が大きくなり、認知症がはっきりしてくるケースもある」と主張するのは、老人医療、認知症問題にも取り組む医学博士の米山公啓氏だ。氏の『腹7分目は病気にならない 長生き遺伝子のスイッチの入れ方』(PHP新書)によれば、地方移住は認知症の発症リスクを高めるというのだ。

 この場合の生活環境とは、「友人が周囲にいるとか、手伝ってくれる隣の人がいるということや、何十年も住んでいる家」のこと。「その空間的な記憶が、老人にとっては非常に重要なものだ。どこに何があるのかしっかりと記憶されていて、周辺のお店などにどう行けばいちばん近いかなど、しっかり脳の中に地図ができ上がっている」のだ。

 この記憶のなかで生活することが高齢者にとってはのぞましく、こうした生活環境から離れることは大きなダメージになる、と米山氏は述べるが、もうひとつ、老人の特徴である適応性が弱くなりがちという要因も問題としてある。

「子どもが同居しようと呼び寄せたり、施設などに移った際に急に認知症が発症する『呼び寄せボケ』はまさにこのケースだ」(同書より)

 移住した高齢者は認知症になりやすいというのは、実際の数字としてはあらわれてはいないが、多くの研究者の間ではよく知られたケースだという。つまり、深刻な医療・介護サービス不足に陥るとして高齢者の地方移住を進めれば進めるほど、認知症を発症する高齢者が増えてしまうということになりかねないのだ。

 安倍政権の別働隊のような提言を続ける「日本創成会議」だが、効率性だけを重視し高齢リスクの地方分散を唱える提言は、あまりにも人間味を欠いた発想ではないか。
(小石川シンイチ)