『ヨルタモリ』即興セッションの味わいに比べ、音楽番組はなぜヒドイのか
 5月31日放送の『ヨルタモリ』(フジテレビ系列、日曜23:15〜23:45)を観て、音楽の素晴らしさを再認識したという人もいるかもしれません。ゲストの松本幸四郎が、沖仁、大友良英のギターをバックに『ラ・マンチャの男』から「見果てぬ夢」を歌ったのです。

 ほぼ即興なのに、歌い手の表情を見ながらテンポを探っていくうちに互いの意図が見えてくる。土台が出来上がったところで歌が落ち着いたのを確認すると、ギターのフレーズも彩りを増やしていく。近年まれに見る音楽的なワンシーンでしたが、一方で『ヨルタモリ』は“音楽番組”ではないことも押さえておかなければなりません。

 早い話、悲しいことに音楽を聴きたければ(観たければ)音楽番組以外を当たったほうがよいのかもしれない。今ほど痛切に感じるときはありませんが、最初に気付かされたのがかつて『ニュースJAPAN』(終了)の名物コーナーだった「神々の宴」。

 ドラマーの村上“PONTA”秀一率いるPONTA BOXが様々なジャンルからビッグネームを迎えセッションを繰り広げる。無駄話の類は一切なく、ひたすら演奏にフォーカスするのみ。またそれに耐え得るミュージシャンしか出演しなかったのもよかった。同時に、月に一度とはいえ、こうした企画を盛り込める報道番組の余力に心が安らいだのも大切なのだと思います。

 しかし残念ながら、これはもう過去の出来事です。毎日番組表を見ても、せせこましく憂鬱な気分になるのがオチ。とはいえ、動画配信の充実で海外の番組も手軽に楽しめるようになりました。そこで見えてくるのは、今でも音楽が暮らしの一部として根付いているしたたかな生命力でした。

 まずアメリカCBSの長寿番組『Late Show with David Letterman』から、矢野顕子との共演でも知られるベーシストのウィル・リーが熱唱した「MacArthur Park」。普段は番組のハウスバンドで演奏するベース奏者にスポットライトを用意する度量と、正面から応えるウィル・リーのショーマンシップに大人のための娯楽の底力を見た思いがします。

⇒【YouTube】David Letterman‐“MacArthur Park” http://youtu.be/RUPSilcJFrQ

 そして『ヨルタモリ』と似たパターンで音楽の楽しみを教えてくれたのが、『The Ellen DeGeneres Show』でのテイラー・スウィフトと俳優のザック・エフロン。ギター初心者のエフロンとテイラーが即興で見事なハーモニーを聴かせてくれます。

 かつて松本幸四郎は「役者は何でもできなきゃダメ」と言いました。不格好なコードの押さえ方でありながらストロークのタイミングを外さず、歌のハモリも決めて見せたザック・エフロンは見事な役者だと言えるでしょう。

⇒【YouTube】Taylor Swift and Zac Efron Sing a Duet! http://youtu.be/d8kCTPPwfpM

 この他にもラッパーからバラエティ番組のMCへと転身したクイーン・ラティファが時折披露する立派なボーカル。イギリスBBCでは朝っぱらからペンギン・カフェにハンク・マーヴィンと大盤振る舞い。さらにすっかりおなじみのジミー・ファロンの「教室の楽器でやってみよう」など、生き生きとした音楽に触れられる機会は枚挙にいとまがありません。

⇒【YouTube】Queen Latifah Performs‘Mercy,Mercy,Mercy’ http://youtu.be/_cG7dUy29Po

⇒【YouTube】Jimmy Fallon, Madonna & The Roots Sing “Holiday”(w/Classroom Instruments) http://youtu.be/as-SALpccd8

 かつては日本のテレビにもこういった楽しみが少なからずあったはず。なのになぜか近年めったに見かけなくなりました。そこで思い出すのが、昨年亡くなったプロデューサー・佐久間正英氏の言葉。

「 これだけ長い時間を真剣に音楽に掛けて『伝承しようの無い』様なことしか出来なかったのかと思うと甚だ情けないし残念だ。しかもこれは日本固有の状況に思える。」

 この「音楽家が音楽を諦める時」と題されたブログは、主にアルバム制作に関わる予算が大幅に削減されたことへ向けられたものですが、それはそのままテレビから音楽が消えかかっていることにもつながる問題提起なのではないでしょうか。

 アイドルだアニソンだとうつつを抜かしている間に失われたものは、決して小さくないような気がする今日この頃です。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>