人に寄り添うための手段が「音楽」だっただけ



――今でもファンの方からは、歌い手時代の「Tくん」って名前で呼ばれていますが、当時と今とで、音楽の向き合い方って変わりましたか?

あのときは、歌うことがただただ楽しかったんですよね。言ってしまえば「自己満足」というか。今は、誰かのために歌うことが楽しいし、自分の曲で何かを感じてくれる人がいることがうれしくて。自分のために歌っていた曲が、誰かのために歌う曲になりました。

――意識が変わったのは、いつごろからですか?

「少年T」から「佐香智久」へ名前を変えるときですね。メジャーデビューするにあたり自分の名前を出すことになって…自己満足しているだけじゃダメだ、自分の歌を聴いてくれる人たちに寄り添いたいって思ったんですよ。

――なるほど。ただ歌えればいいんじゃなくて、「誰かのために」ってところが重要なんですね。

なんなら僕は、「音楽」じゃなくてもいいと思ってて。たとえばスポーツ選手が活躍する姿を見て、ファンの人が勇気をもらうことってあると思うんですけど、僕はたまたま、誰かの背中を押せる手段が「音楽」だっただけ。そう思うと、自分は歌を歌えてよかったなと思うし、僕の歌を聴いてくれる人がいることは本当に幸せだなって思います。

――その年齢で、自分のことよりも「誰か」を優先できることがスゴいなぁと感心してしまうわけですが。

いえいえ(照)。昔から「誰かの役に立ちたい」って思いが強くて、小学6年生くらいから、将来の夢は「看護師」か「保育士」って決めていたんですよ。今はそのどちらでもないけど、その思いは変わらないです。

――では、デビューから今までのあいだに変わったことはありますか?

肩がこるようになりました!(笑) ふとした瞬間に、鎖骨らへんにピキッて電流が走るんです。昨日は、麦茶を飲んでたらいきなりピキッてなったし(笑)。歳なんでしょうか。

――(笑)。デビュー前と後では、仕事でスケジュールが埋まったりして、生活パターンがガラッと変わったのでは?

確かに変わったけど、それにストレスを感じることはないですね。ただ、東京に拠点を移して暮らすとなると、疲れちゃうんじゃないかなっていう不安もあって、デビュー時からずっと、実家のある北海道から通ってます。曲を作るのも、札幌のほうが落ち着いて取り組める気がするんです。

――東京でのホテル生活や、飛行機での北海道⇔東京の移動は慣れました?

はい。飛行機には月に10回くらい乗るんですけど、最近では自分の体が気圧に順応していくのが分かるようになりました(笑)。

――周囲の環境が変わっていくなかで、変えたくないことはありますか?

“僕対大勢の人”ではなく、“僕対ひとり”というイメージで歌うことを心がけています。レコーディングするときも、曲を作るときも、大きな会場でライブするようになっても、ひとりの人と向き合っているイメージを大切にしたいです。



「ポケモン」のおかげで友達と仲良くなれた



――シングル「ゲッタバンバン」は、アニメ「ポケットモンスター」シリーズのオープニングに選ばれました。決まったときの率直な感想を聞かせてください。

もう最高でした!! 実家で曲を作ってるときに電話で聞いたんですけど、思わず「ふーん」って落ち着いた素振りを見せちゃったりして。もちろん照れ隠しですよ(笑)。で、電話を切った後に、「マジかー!」「やったー!」ってうれしさが爆発しました。

――佐香さんと言えば、原作ゲームを1作目から完全網羅し、夢はポケモンマスターと公言するほどのポケモンガチ勢ですからね。

はいっ! ゲームが発売された直後からずーっとやってますし、アニメももちろん見てます。実は最初、オープニングテーマを歌う人を探しているって聞いて。それで僕は、ポケモンさんに手紙を書いて、ポケモンへの愛を一生懸命伝えてみたんです(笑)。

――それはスゴい! 佐香さんの愛が伝わったんですね。ところで、ポケモンにそこまで夢中になったのはどうしてでしょう?

ゲームが面白いっていうのはもちろんあるんですけど、僕の場合、ポケモンを通じて友達と仲良くなったり、兄弟との距離が近くなったりしたなぁって…。コミュニケーションツールとして自分を助けてくれたのが、ポケモンにハマった一番の理由かもしれません。

――ヒトカゲ、ゼニガメ、フシギダネ、初回プレイでどのポケモンを選んでました?

兄がゼニガメ(水タイプ)を選んでいたので、僕は兄ちゃんに勝てるフシギダネ(草タイプ)。兄を超えたいなといつも思っていたので。

――好きなポケモンはたくさんいると思うんですけど、一匹選ぶとしたら?

チルタリスっていう、ドラゴンひこうタイプのポケモン。見た目がモコモコしていてかわいいんです。




――タイトルにもなっているサビのフレーズ「ゲッタバンバン」ですが、中毒性がありますね(笑)。頭から離れなくなります。

ありがとうございます(照)。歌詞を書くにあたって、小さい子たちに覚えてもらえるフレーズにしたい、だけど意味のない言葉は使いたくないって思ってて…。サトシの「ポケモンゲットだぜ!」っていう象徴的なフレーズがありますよね。その「ゲット」と、サトシや子どもたちに、明るい未来をバンバンゲットしてほしいなっていう思いを込めました。