■代表選手の「適性」と「適応」を考える(前編)

 6月1日、ヴァヒド・ハリルホジッチ監督が選んだサッカー日本代表メンバー25名が発表された。本田圭佑(ミラン)や香川真司(ドルトムント)らの常連組に加え、丹羽大輝(G大阪)、谷口彰悟(川崎)、原口元気(ヘルタ・ベルリン)らが新たにその名を連ねることになった。その一方、永井謙佑(名古屋)や今野泰幸(G大阪)ら、前回選ばれた選手数人がメンバーから漏れた。

 ハリルホジッチ監督は、これからも競争力を上げるためにカードのシャッフルを続けるだろう。日本サッカー界には、絶対的選手は数えるほどしかいない。今後は指揮官のスカウティングと選手たちのポジションの適性、適応が鍵となるだろう。

「帯に短し、たすきに長し」

 それが日本人選手に対するハリルホジッチの偽らざる心境なのかもしれないが、永井を例に取ると、選考基準の"難解さ"は浮き彫りになるだろう。

 永井の動物的な敏捷性とスプリントを繰り返せる持久力は、驚嘆に値する。運動競技者としての野性味は、十分に評価できる。しかし単純なキック精度や連係力は高いとは言えない。フットボールで原則的に問われるのは、「いかにボールを受け、渡し、再び受けるか」というコントロール&パスの繰り返しであって、そこに乱れが生じていたら、走力も宝の持ち腐れになってしまう――。

 なにをもって、選手を評価するべきか? その意見は大きく分かれる。今回の永井の落選は、「前者の理由で一度は選んだが、後者の理由で今は成長を促す」と言ったところだろうか。

 左サイドバック一つとっても、長友佑都(インテル)への突き上げが求められる。ブラジルW杯でコンディションを崩したとき、彼の代わりとなれる選手を欠いていた。その戦力の薄さは解消する必要があるだろう。太田宏介(FC東京)の選出意図は、"競争力の拡充"に他ならない。

 太田は長友とはまったくプレイの性質が異なる。なにより左サイドの左利きであり、クロスの精度を持ち味とする。そのキックの質は、多くのJリーガーが畏敬するほどだ。先日のウズベキスタン戦でも、FW岡崎慎司(マインツ)に完璧なクロスを送りゴールをアシストしている。その一方、本来の職務である守備には不安を抱える。アタッカーとの間合いが悪く、簡単に侵入を許しがちで、ディフェンダーとしては感心できない。今のままでは列強のアタッカーには"蹂躙(じゅうりん)"される可能性は高い。

「昔、ポルトガルリーグにいた相馬(崇人、現在はヴィッセル神戸)もそうだったが、ディフェンダーとしての基本能力が低い。欧州リーグでは左足クロスを生かし、サイドバックより一つ前のポジションで試される選手だね」

 ポルトガル人スカウトは太田のプレイを見て、そう分析していた。もっともな話なのだが、実はこのコンバートには難しさがある。相馬も太田も、サイドバックから持ち上がったところで上げるクロスに強みがあるが、スピードが必要条件となるサイドアタッカーは合わない(クロッサーの太田を一つ前のポジションに配置し、ストロングヘッダーの豊田陽平、川又堅碁をセットで使うのは一案だが)。

 ポジションの適性と適応は、プロサッカー選手の永遠のテーマである。

 前日本代表監督であるアルベルト・ザッケローニは、ボランチを務めることが多かった今野をセンターバックとして重用していた。チームの基本戦略として、「高い位置でボールをつなぎ、攻撃する時間をできるだけ多くする」という明確な理由があったからだ。センターバックには相手の攻撃を跳ね返すよりも、攻撃の一歩となることが求められ、最終ラインを高く保つために走力も不可欠だった。

 その点、今野はセンターバックとして機能しているように見えた。2011年アジアカップで優勝し、W杯アジア予選の主力を担った。アジアレベルではザックジャパンになくてはならない存在だったと言える。しかし世界を敵に回したW杯本戦では、チーム戦略における"代わり"だった事実をさらけ出した。

「センターバックは受け身のポジション。空中戦一つでも弱さがあると、チームの弱点としてつけ込まれる」

 これは欧州や南米のスカウティングの定石である。今野はトップレベルのセンターバックとしては高さもインテンシティも足りなかった。

 しかしザッケローニと今野を責めるのは的外れかもしれない。日本代表のセンターバックの人材難は、周知の事実。吉田麻也(サウサンプトン)はそのレベルに達しているものの、スピードのあるアタッカーに露骨な弱さを見せることがあり、パートナーを選ぶ。その点、森重真人(FC東京)が第一人者なのだろうが、ブラジルW杯ではその役目を果たせなかった。

 日本人センターバックの人材難の理由は、体格的問題がまず挙げられる。

 170cm台のセンターバックでは、単純に高さで勝てない。ブラジルW杯で上位に進出したチームを見ても、身長170cm台のセンターバックがレギュラーというケースは稀(たとえいても、チリ代表のガリー・メデルのように肉体が屈強で、3バックの一角)。攻撃の選手は自分の持ち味を出すことで活路を得られるが、守備の選手は宿命的に受け身に回ることを余儀なくされ、高さの欠如はチームの弱点となってしまう。

 また最近では、一流のセンターバックの資質に、高さだけでなくスピードも加えられつつある。日本人は身体的に背が大きくなると、ターン(反転)など細かいステップに難が出る場合が断然、多くなる。世界的なセンターバックのチアゴ・シウバ(ブラジル)、セルヒオ・ラモス(スペイン)、ボアテング(ドイツ)らは大きな体躯の持ち主だが、その動きは豹のように剽悍(ひょうかん)で俊敏である。

 現状、日本人センターバックの選考においては、高さ、強さ、速さ、うまさのうち、どれかを捨てざるを得ない。

 今野に関しては、ボランチに適性があったということか。彼は猟犬のような追い込みからボールを奪う技術に優れ、その間合いと素早さと連続性は瞠目(どうもく)に値する。所属するガンバでも、昨シーズンからはボランチとしてキーマンになっている。最終ラインの前で守備のフィルターになれる選手で、カバーできる領域も広い。センターバックを務めるときのように、動きすぎてゾーンを空け、入れ替わられる場面も少ない。

 しかし今野は今回落選しており、代表のボランチとして適応する必要があるのだろう。

 ハリルホジッチは今後、パズルの一つ一つのピースをはめ込んでいく。

 適性と適応の点で言えば、本田でさえ、シャッフルに懸けられるだろう。彼は名古屋時代は左ウィングバック、フェンロ時代はFW、CSKAモスクワ時代はボランチ、ミランでは右サイドアタッカー、そして日本代表では攻撃のポジションを複数担当してきた。至高のポリバレント性は彼のプレイセンスの証左。適性の幅が広く、適応する能力が高い。技術を持っているだけでなく、それを適切に出せる。

 では、本田が最も輝くポジションはどこなのか? それはロシアW杯を目指す日本代表にとっても課題になってくるに違いない。
(続く)

小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki