G大阪で素晴らしい活躍を続ける宇佐美。進化の理由をフィジカル面から探る。 (C) SOCCER DIGEST

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 宇佐美貴史選手については、以前にもフィジカル分析をさせていただきました。「なぜ、ドリブルで抜き去ることができるのか」という観点からです。その頃に比べて、フィジカル的にさらに向上しているように思います。以下、具体的に見ていきましょう。
 

 身体のキレが増していることを象徴するようなゴールシーンがありました。5節の清水戦です。ペナルティエリア内で後方からのロングフィードを受ける際に、右足を高く上げてトラップしてボールを精緻にコントロール、そのままスムーズに反転してゴールを決めた一連のプレーです。
 
 通常、あそこまで足を高く上げると、ボールコントロールはもちろん、その後の反転をスムーズに行なうのも、着地してすぐにシュートに向かうのも難しいものです。
 
 宇佐美選手は極めて難易度の高いプレーを、なぜ、完遂させることができたのか。
 
 体幹のバランスを大きく崩すことなく、股関節の外旋をうまく使えているためでしょう。こうした股関節の柔軟性は、ホッフェンハイム時代(2012-13シーズン)と比べて明らかに変化が見られるところです。
 
 パスを受けてからゴールに至るまでの一連の流れを改めて確認すると、体幹は蹴りたい方向を向いたまま股関節が外旋していることが分かります。
 
 あれほど高く右足を上げながら、ボールを落としたい方向にコントロールし、なおかつ重心が支持基底面(※)内に保たれている――。これは『インナーユニット』と呼ばれる筋群がうまく使えているためだと考えられます。(※編集部・注/身体を支える基礎となる底面。いわゆる土台)
 
 インナーユニットとは、腹横筋・横隔膜・骨盤底筋群・多裂筋という筋肉を指します。なかでも多裂筋は、背骨を安定させる重要な筋肉です。
 
 脚が動く前にどの方向に背骨を動かすか、事前に働く部位となるのがインナーユニットで、宇佐美選手はそれらの筋肉の“協調的”な動きが非常にうまくできていると考えられます。つまり、動作の中で正しく使われるべき筋肉が、正しく働いているということです。
 
 これにより一定の部位に余計なストレスがかかることなく、関節が正しい方向に動き、必要な動作が効果的に行なわれるのです。神経・骨格筋系が、最も効率的かつ安全に機能を最大限発揮できる状態にあるわけです。
 
 これらの筋が動作の事前に準備されているからこそ、体幹軸が大きくブレることなく、ゴールまで決められたと言えるでしょう。清水戦の得点は決して偶然の産物ではなく、宇佐美選手だからこそ実現可能なプレーであり、彼の優れたフィジカルを証明するシーンと言えるでしょう。
 もう1点、宇佐美選手の成長が感じられる部分は、ミドルシュートです。以前に比べて、撃つ機会が多くなり、正確性も上がっているのではないでしょうか。
 
 前回の分析では、右足でシュートする際に強烈に体幹を回旋させる動きが見られ、そのためシュート後にバランスを崩すことが少なくありませんでした。
 
 それが最近では、シュートを撃つ際に右足の振りに伴い、体幹を「丸める・反る」という動きを加えているように見えます。シュートの威力そのものは、体幹を強烈に回旋させた時よりも低下しますが、その代わり体幹軸がブレにくくなり、正確性も向上します。
 
 ミドルシュートの精度が上がったように見えるのは、こうした要素が大きいのではないでしょうか。
 
 また、ハムストリングスをうまく使えていることも大きいです。ハムストリングスは膝下から坐骨に付いた太腿裏の筋肉で、仙骨(骨盤の中央にある骨)の靭帯とも連動しています。
 
 ハムストリングスをうまく使えているからこそ骨盤が安定し、なおかつ背骨を「丸める・反る」という、重心の低い位置から高い位置に素早く戻す動きが可能になっているのです。また、大腿四頭筋に余計な力が入らないことで膝が居着く状態を防止できます。
 
 このように、シュートの際、スムーズにボールに力を伝達できることで、正確性が向上したのではないでしょうか。
 
 ドリブルのキレに関しても、よく宇佐美選手は“足にボールが吸い付いている”と言われますが、それができるのも下部体幹や股関節の柔軟性があってこそ。
 
 柔らかくないと、あれだけ速いスピードで走りながらボールを繊細にコントロールすることは不可能です。この部分は、他の選手には真似できない領域に達しているのではないでしょうか。
 
 他に目についたところでは、ACL・広州富力戦でのアシストのシーン。左サイドからワンタッチで右アウトフロントにかけたクロスを供給し、パトリック選手の落としから阿部浩之選手のゴールをお膳立てしたプレーです。
 
 この試合では他にもリンス選手に正確な縦パスを通したりと、ワンタッチで精度の高いクロスやパスを供給するシーンが目立ちました。
 
 高い技術がベースにあるのはもちろんですが、フィジカル的にも体幹がブレなくなったことで精度が高まっているように思います。
 
分析:中根正登
取材・文:澤山大輔
 
【分析者プロフィール】
中根正登(なかね・まさと)
理学療法士。フィジカル・コンサルティングチーム『フィジカリズム』副代表。トリガーポイント療法・関節系テクニック・東洋医学などを組み合わせ、多角的な視点から関係性を捉え、治療効果の即時性&持続性向上に力を注ぐ。その社交性の高さから幅広い人脈を持ち、某超有名ミュージシャンなどをクライアントに持つ。