東京・調布市に住む会社役員、小林芳光さん(仮名・60歳)が、急激なお腹の“膨張”に気付いたのは、1カ月前のこと。家にいる時はウエストがゴムのズボンを穿いているので気にならなかったが、出勤しようとスーツに着替えようとしたところ、ウエストが異様にきつい。
 食べ過ぎかと思ったが、周囲から「食が細くなっている」と指摘されたため、病院で診てもらった。すると、腹水とガスが溜まり、がん性腹膜炎の疑いもあると診断されたのだ。

 診察にあたった東京都多摩総合医療センター総合内科担当医はこう説明する。
 「お腹が急激に膨れてくるのは、食事中に空気を呑み込んでしまう呑気症のほかに、ストレスや手術の後遺症、老化などが原因で大腸の働きが悪くなり、ガスが溜まるケースがほとんどです。患者さんの場合も、過敏性腸症群といわれる、腸の運動機能や分泌機能が低下していることが原因の一つとなっています。いずれにせよ、この病態は、がんなどを含む重大な病気も隠れていることがあるので注意が必要なのです」

 中でも、がんは進行すると、お腹に癌細胞が散らばるように広がり、癌性腹膜炎を引き起こすことがあるという。とくに消化器系や婦人科系の末期がんに多く見られる症状では、がん性腹膜炎になると、お腹の臓器と臓器の間に腹水が溜まるという。その量は、数リットルから十数リットルに及ぶとされ、お腹が出て息苦しくなり、胃が圧迫されて食欲が落ちることもある。
 腹水とは、タンパク質を含む体液が腹腔に蓄積した状態をいう。一般的には肝硬変で起こることが多く、特にアルコール依存症による肝硬変患者に多く見られる。また、肝臓の病気でも、その他に肝硬変のないアルコール性肝炎や慢性肝炎、肝炎、肝静脈閉塞などにも見られる場合があるという。
 「がんが進行し末期の状態になっていても痛みなどの自覚症状が無く、腹水が溜まったことで初めてがんが発見されるケースもあります」(専門医)

 診察時に腹部を軽く叩いて打診を行うと、腹水があれば鈍い音がするという。また、過剰な体液が足のくるぶしに溜まり、むくみ(浮腫)を生じることもある。
 「腹水の有無は、超音波検査及びCT検査で確認しますが、処置としては腹壁を通して針を穿刺(せんし)して、痛みを和らげ腹水を抜いていきます。治療の基本は、ベッドで安静を保ち食事の塩分を制限すること。通常は利尿薬の服用も行い、腎臓に働きかけて尿による水分排泄を促す。また、腹水のために呼吸や食事が困難な場合、体の外から針を刺して腹水の吸引除去(=腹水穿刺)を行いますが、腹水を直接抜く方法は速効性があり効果が大きいものの、原因が取り除かれない限り腹水が再び増加してしまう。そのため、多量のアルブミン(血漿中の主要タンパク)が血液から失われて腹水に入ることから、アルブミンを静脈から投与し、抜いた腹水を濃縮して再び腹腔や静脈に戻すこともあります」(専門医)