プロレスのギミックの中には、映画から着想を得たモノがあることは以前にも触れました。例えば90年代前半の日本では、著名ホラー映画のモンスターたちがどっさりパクられ、インディ界隈で跳梁跋扈。権利関係にうるさいアメリカでも、日米で活躍したロード・ウォリアーズ(WWFではリージョン・オブ・ドゥーム)が当時ヒットした『マッドマックス2』のヒャッハーな世界観と副題(The Road Warrior)を拝借したことで知られています。

 業界が訴訟リスクを意識し出した2000年以降も映画由来のギミックはちゃっかり存在。2007年にWWEに登場した「ジェシー&フェスタス」というコンビは、文豪スタインベックの短編小説を原作とする『二十日鼠と人間』(1992)をモデルにした、と言われます。

 舞台は1930年代のカリフォルニア。出稼ぎ農業労働者ジョージは、相棒レニーが問題を起こす度に働く場所を転々とする生活を続けていた。そんな生活でも2人は自分たちの農場を持つ夢を抱いていたが、新たな土地で出会った老農夫が出資金を申し出る好機が到来。だが、レニーが起こした事件を機に哀しい結末へと向かってしまうのだった......

 製作も務めたゲイリー・シニーズが演じるジョージは、知的でどこか達観した青年。怪優ジョン・マルコヴィッチ演じるレニーは、怪力の持ち主だが、おつむが弱い大男。しかも興奮すると制止が効かなくなり、物語中盤で農場の跡取り息子カーリー(クソ野郎)の右の拳を握り潰してしまいます。

 そんな怪物レニーに無謀にも近づいてしまったのが、旦那のカーリーと舅に自由を奪われ、暇と性欲を持て余し悶々としている若奥さま。(カーリーの命令で)ほかの農夫たちが話し相手になってくれないせいもあり、レニーにちょっかいを出して......てな流れ。
 この若奥さまが見事にビッチなので「お前のせいでレニーがアレしてもうたんやないかい!」としか言いようがありません。

 で、本作に対するWWEのジェシー&フェスタスですが、ジェシーがジョージ、フェスタスがレニーに相当する農夫ギミックです。
 本作のジョージは知的な青年でしたが、ジェシーはいかにも南部出身のお喋りな司令塔。
 フェスタスは本作のレニー同様、というかそれ以上に普段は呆け顔でヨダレを垂らすポンコツだけど、試合開始のゴングがなると大暴れ。終了のゴングがなると呆けモードに戻る、という狂人ギミックでした(※)。

 制止が効かなくなるレニーと違って、ゴングの音で凶暴モード/呆けモードに切り替わる便利な仕様でしたが、この仕様を逆手に取られ、抗争相手が勝手にゴングを鳴らして、オンオフオンオフみたいな感じで遊ばれてしまったことも。
 また、本作では、レニーの居ない生活を夢見ながらも見捨てられなかったジョージの心情が結末の余韻に大きく影響しますが、WWEのジェシーにはそういった悩みは皆無! 深みゼロ!

 とまあ全体的に軽めに書きましたが、観る者の心の曇らせる切ない作品なので、本作が気になった方はその辺りを覚悟してご覧下さい。

(文/シングウヤスアキ)

※ ジェシー(テリー・ゴディの息子レイ・ゴディ)はすでに引退し警官になっているそうですが、フェスタスは新日本プロレスの人気ヒールユニット「バレット・クラブ」のメンバー、ドク・ギャローズとして活躍中です。