本当に“業務妨害”?(YouTube「FNNnewsCH」より)

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 本サイトでは、官邸や長野県・善光寺などでドローンを飛ばした40歳男性と15歳少年がそれぞれ逮捕・起訴された事態に対し、"違法行為ではない""不当検挙"だと指摘してきた。

 なかでも着目しなければならないのは、彼らが犯したとされる"威力業務妨害"という罪状だ。これは「威力を用いて他人の業務を妨害する罪」であり、この業務とは営業妨害と同時に、経済活動だけでなく、広く人の社会活動一般を指すとされる。しかし今回、2人は一体誰の"業務"を妨げたのか。

 警視庁発表によれば、40歳男性に対しては「ドローンを発見した官邸職員の業務を」、そして15歳少年は「ドローンを飛ばすと予告し、祭りの主催者が張り紙作りや警備強化に追われた」ためだという。

 だが、官邸屋上にあったドローンは40歳男性が官邸近くから飛ばした後13日間も誰も気づくことさえなかったし、15歳少年の逮捕容疑となった浅草三社祭への妨害にしても「祭り行きますから」などと話したにすぎない。少年は「ドローンを飛ばす」とは一言も発していないし、もし「飛ばす」と言っても現行法では違反でも何でもない。

 そもそも今回の2人に対し"威力業務妨害罪"を適用するのは明らかな不当拡大解釈ではないかとの声が、法曹界の一部からも噴出しているのだ。

 例えば、日本弁護士連合会(日弁連)刑事法制委員会の幹事でもある高島章弁護士は「『三社祭でドローンを落とす』なら威力業務妨害だろうが、『飛ばす』だけなら現状は規制立法はないし、違法行為とはいえない。『ドローンをとばすな』という祭主催者のお願いはあくまでお願い・要請だろう」と自身のツイッターで指摘、さらに15歳少年逮捕についても「ドローン少年を逮捕するなら、『オスプレイ飛ばす』と訓練予告をする在日米軍司令官も逮捕しろよ」と当局の姿勢を批判した。

 また、龍谷大学法学部客員教授の宮武嶺弁護士も、15歳少年の逮捕を「治安維持目的」と指摘、「一罰百戒と言うようなやり方は許されません」「少年のやった行為は『威力』を用いて『妨害』には当たりませんので、威力業務妨害罪は成立しないのです」とブログで記している。

 宮武弁護士の言う「治安維持目的」は、今回の不当性を考える上で重要だ。というのも、ここ10年来、ネット上での犯行予告事件など、現行の刑法では取り締まりが難しい事案を、安易に威力業務妨害や偽計業務妨害で検挙するケースが増大しているからだ。

 最近でも秋篠宮家次女の佳子内親王に対し、危害を加えるなどの書き込みをネット上で行った43歳男性が、「皇宮警察に警戒を強化させた」として偽計業務妨害で逮捕されている。

 偽計業務妨害罪は「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害」した際に適用されるもので、威力業務妨害罪とともに3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられている。

「偽計」とは"他人を欺きまたは不知や錯誤を利用すること"で、「威力」とは"人の意思を制圧するような勢力"と解されているが、現状、両方ともに非常に幅広い解釈が可能となっている。これがドローン事件でも、佳子内親王脅迫事件でも、拡大解釈、いや、治安維持法もどきの運用をされたのだ。これについて、ベテラン公安担当記者がこう解説する。

「これまで当局にとって治安を維持するため、または権力に逆らう者への見せしめ的な罪として公務執行妨害がありました。60年代の学生運動やオウム事件の際にも、"転び公妨"といって公安警察がわざと対象者に接触し、突き飛ばされたように見せかけて逮捕するという批判の多い手法でした。しかし現在、身体的に直接接触のないネット犯罪のような"めいわく罪"が増大した。これでは公務執行妨害は適用できない。そのため代替案として威力業務妨害や偽計業務妨害罪を適用するようになったのです」

 いわば公務執行妨害という伝家の宝刀が通用しなくなった代わりとして、反権力や治安犯罪に対し威力・偽計業務妨害を乱発するようになったというわけだ。

 そのきっかけとなる事件も存在する。それが2004年に起こった都立板橋高校卒業式事件だった。

 東京都教育委員会はその前年の03年10月、入学式や卒業式での日の丸掲揚、君が代の起立・斉唱を義務化する通告を出した。しかし、これに疑問をもっていた同校元教師が、04年3月の卒業式会場で保護者らに国歌斉唱の際に着席を呼びかけ、また通達についての週刊誌記事を配布した。この行為が卒業式の運営を妨げたとして威力業務妨害容疑で起訴され、11年7月に有罪が確定した。

 この事件に対して、元日弁連事務次長を務めた加藤文也弁護士は「法学セミナー」(日本評論社)06年09月号で、「これが認められればどんな行為でも『威力』になる」「表現の自由の侵害」として、こう批判した。

「卒業式の開式の前で、保護者らも私語が自由になされる状況の中で(元教師の語りかけが)行われている。その語りかけの内容は、校長ら管理職に対しては好ましくないものであったが、保護者に対しては重要なメッセージを含んでいた。このような発言が憲法21条の表現の自由の保護の対象になるかが検討されなければならない」

 元教師への威力業務妨害罪適用は、国家主義的傾向を強める権力の意向に逆らったことで適用された不当ともいえるものだ。同様のケースとして、特定秘密保護法に反対する男性に対しても適用されている。それが13年12月6日夜、特定秘密保護法の強行採決に抗議して参議院本会議場に靴を投げ入れた男性が、威力業務妨害罪で起訴された一件だ。一審判決では「議事妨害の恐れがあれば威力妨害だ」と、強引ともいえる有罪判決が下されている(その後控訴)。

 もうひとつ重要な点がある。それが「偽計」や「威力」の対象が単なる民間や経済活動だけでなく、今回のように官邸や皇宮警察に対する「業務妨害」へと拡大されていることだ。

「官邸職員や皇宮警察はもちろん公務員です。公務員に対しては業務妨害罪とは別に刑法95条で公務執行妨害が定められている。これは簡単に言えば公務員の職務執行に対する暴行、脅迫に対応する法律です。しかしそれに加えて『業務妨害』まで裁判で認定される傾向が強くなっています。これでは権力が二重に、そして過当に保護されることにもなるので大きな疑問です」(法曹関係者)

 こうなればなんでもアリだ。例えばテロ防止やネット犯罪抑止などという建前で、何でもかんでも「業務妨害罪」を恣意的に乱用することが可能だからだ。さらにこれが進めば、権力にとって都合の悪いスキャンダルや政策批判をしただけで「政策遂行という業務を妨害した」などと恣意的に運用される可能性すらある。これは、言論にとっても重大な危機的状況といえるだろう。

 だが、こうした事態に司法関係者、学者、そしてメディアの動きは鈍い。ドローンと佳子内親王が浮かび上がらせてくれたこの問題を、軽視すべきではない。
(伊勢崎馨)