松本氏は、日本の健康診断は“不健康になっているかもしれない”という不安感を煽っているという。
 「日本のメタボリック検診はどう考えてもおかしい。老若男女、体型も骨格も無視して腹囲だけ計り、メタボの危険域というのは乱暴です。ウエストが85センチという基準は、何ら科学的根拠がありません。むしろ、腹周りはそれぐらいが長生きできるというデータさえあるほどです。肺のレントゲンも、実施しない自治体が増えているが、それはとても正しい判断。肺癌の検診をしているのは日本とハンガリーだけですからね」

 胃がん検診についても、前出の田村氏が言う。
 「胃がん検診を行っているのも日本と韓国のみ。胃がんに関してはまず、呼気検査や血液検査でピロリ菌の有無を調べればいいことなのです。ない場合は、わざわざ行う必要はありません」

 一方、人間ドック学会は、昨年約150万人だった「健康人」から約34万人を選び出し、そのうち、検査値を元に1万〜1万5000人の「超健康人」に絞って「健康」と判断できる数値の範囲を決定した。
 男女差や年齢差によって数値も変わってくるため、性別に加えて年齢別の基準範囲では、「30〜44歳(壮年期)」、「45〜64歳(中年期)」、「65〜80歳(高齢者)」の3グループに分けて策定している。右ページの表(本誌参照)を見てもわかるように、中性脂肪など基準値を大幅変更したものもある。
 「統計的には、コレステロール値が240〜260の人が一番元気で長生きしているというデータがあります。しかし、私はいくら高くても構わないと思っている。300でも350でも心配する必要はありません。なぜなら、血圧と同様、体は命を保つために最良の方法を取っているからです。コレステロール値が高くなるのは、体内のバランス調整に懸命に努力している証。それを人工的に下げてしまえば、不具合が起こるのは目に見えているのです」(松本氏)

 サイエンスライターが言う。
 「悪玉コレステロールは有害なものではありません。死亡リスクを高めるということを裏付ける研究結果はないのです。むしろ、死亡率全体を見れば、問題がないことを示す調査が複数行われています。米国では、“食事によるコレステロールと血清コレステロールの間に明確な関連を示す証拠はない”と、コレステロールの上限が撤廃されそうな動きになっています」

 先にも触れたが、現在は食べ物が豊かになったため、脳溢血は減った。
 「それは、コレステロール値が上がり血管が丈夫になったということ。人間の体は何十兆個の細胞の集まりですが、細胞の一つ一つは細胞膜に包まれている。そして、細胞膜はコレステロールが材料でできているのです。そんな人間の体を作る材料なのに悪者扱いされる。すべて健康診断のせいです」(松本氏)

 また、健康であるかどうかの指標に、血液がドロドロかサラサラか、という目安がある。松本氏はこれもまやかしだと喝破するのだ。
 「ドロドロ、サラサラの医学的根拠はないに等しい。血液の状態は顕微鏡で見てもよくわからないのです。実は、あれにはカラクリがある。赤血球は血液の中にたくさんあるため、上から顕微鏡で覗けば重なって団子状に見えるのは当然です。また、赤血球は3分経つと自然にくっついてしまうのでドロドロに見えてしまう。一方、サラサラの血液を作ることも簡単です。スライドガラスにカバーガラスを強く押し付けると、赤血球は薄く広がりサラサラに見える。同じ血液でも、細工によってずいぶん見え方が変わるのです」

 医療費削減のため、いずれ集団検診は廃止されるだろう。しかし、人間ドック学会が示した新基準が、健康診断や人間ドックを受ける際に、異常があるかどうかの判断としてすぐに採用されることもなさそうだ。確実に言えるのは、検診の結果の判断を医者任せにしてしまうと、無理矢理“病人”にされてしまう可能性があるということ。
 個人それぞれが、健康の常識を疑ってかかった方がよさそうだ。