『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦/集英社)

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『ジョジョ』は王道漫画か!?


『荒木飛呂彦の漫画術』は、読み終わったときに『ジョジョの奇妙な冒険』が異色作だという見方が変わる本だ。

単行本100巻超、発行部数9000万部超の超大冒険活劇マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ。
独特なスタイル、語り口、擬音表現、超絶展開。
漫画界の異色作であり、大ヒットシリーズ。
“『ジョジョの奇妙な冒険』が「王道漫画」だと言うと、「え!?『ジョジョ』は異作じゃないの?」と思う人が多いかもしれません”。
著者本人が「はじめに」で書いているように、ぼくもそう思っていた。
けれど荒木先生はこう宣言する。
“僕自身は「『ジョジョ』は王道漫画だ」という自信を持って描きつづけてきました。一見異色にも見える『ジョジョ』のどういうところが、なぜ王道なのか、これから具体例を挙げて解説していきたいと思います。”

おおおおお!
と期待が高まる。

漫画の基本四大構造


『荒木飛呂彦の漫画術』で解説される漫画の基本構造は以下の四つ。
「キャラクター」
「ストーリー」
「世界観」
「テーマ」
重要度も、この順。「キャラクター・ストーリー・世界観・テーマ」だ。
本書は、その四大構造について、ひとつひとつ丁寧に実践的な解説が語られる。

主人公は常にプラス!


その中で衝撃なのは「プラスとマイナスの法則」だ。
「第四章 ストーリーのつくりかた」に登場する。
“まずゼロの線があるとして、そこを基点に、主人公の気持ちや置かれている状況が上がっているか、下がっているかを考えてみます。”
そして、「主人公は常にプラス」でなければならない、と。
前章の“キャラクターは必ず成長するように描く”の教えと合致して、理解はできる。
バトル漫画も、戦いがどんどんパワーアップしていく。
スポーツ漫画は、地区大会→県大会→全国大会と対戦相手がどんどん強くなっていく。

ディオにいたぶられるジョナサンは?


いや、でも! 『ジョジョの奇妙な冒険』の「第一部」の最初は、マイナスでは!?
主人公ジョナサンはけっこうディオにいたぶられっぱなしでしたよ!
と思っていると、荒木先生はこちらの心を読んだように返事をしてくれる。
“連載開始後二、三週はジョナサンのマイナスが続くことになっていしまいました。ここが週刊漫画の辛いところで、案の定、読者の人気はなく、ディオにやられっぱなしのジョナサンが嫌がられてきたのを感じました。やはり負けムードでその週の回が終わると、読者の気持もマイナスになったままですから、アンケートでは人気が出ないのです。できれば、どの回も、「勝って終わる」というプラスで毎週締めくくることがベストなのです”。
おお、『ジョジョの奇妙な冒険』最初は人気が出なかったのか。
荒木先生は、このとき“「この後、プラスになるので待っていてください」と念じながら描いて”いたそうだ。

マイナスプラスゼロの罠


「壁にぶつかって一旦負ける」もやってはいけないと、荒木先生は厳しい。
『キック・アス』の続編が、その罠に陥っている。
結局マイナスプラスゼロになっていて観ていて感動できないと解説。
その後に、実は『ジョジョ』のゲームも! というエピソードを披露。
“以前『ジョジョ』のゲームでも、主人公が捕まってしまうけれども、逃げて助かるという、一見、前向きなようでいて、マイナスプラスゼロの典型のようなストーリーを提案されたことがありました。捕まって(マイナス)逃げる(プラス)のは、つまり、捕まる前の状態に戻った(ゼロ)だけです。”
結局、ゲームは荒木先生が違うアイデアを出して、プラスに向かうストーリーに修正した。

何故ジョナサンは死ななければならなかったのか?


第一部最後でジョナサンが死ぬのは「主人公は常にプラス」のルールから逸脱するのではないか、という読者の心の声にも応えてくれる。
“哲学次第では、そのルールを曲げることができるときもあります”。
それは『ジョジョ』に込められた哲学のためだ。
どんな哲学なのかは、『荒木飛呂彦の漫画術』を、いやいや『ジョジョの奇妙な冒険』を読めば伝わってくる。

他にも、実作者ならではの具体例が盛りだくさん。
・デビュー作『武装ポーカー』をどう考えて描いたのか。
・キャラクターを作るための身上調査書(約六〇項目!)の書き方。
・キャラクターを読者に伝える方法を第三部の空条承太郎を具体例に解説。
・第三部の第七話を具体例にサスペンス演出を解説。
・あのポージングはどうやって生まれたのか?
・『バオー来訪者』の失敗とは?
実践編として、「富豪村」(『岸辺露伴は動かない』)を具体例に短編の描き方も詳細に語られる。

『ジョジョ』は王道漫画である


『ジョジョの奇妙な冒険』が、どういう意味で「王道漫画」なのか。
王道とは何か。
“「黄金の道」とは、さらに発展して行くための道。今いるところから、先へ進むための道です。「自分はどこへ行くのか?」を探すための道とも言えます”。
『荒木飛呂彦の漫画術』は、荒木先生が全漫画ファンに大切なものを「受け継ぐ」ために書いた秘伝の書である必読。(米光一成)