ソロアルバム『TU』をリリースしたばかりの堂本剛。先日放送の『ミュージックステーション』に出演した際に、鉱物を持って歌う姿が大きく話題となった。事前に詳しい説明がなされなかったこともあり、SNSなどでは様々な憶測を呼んだが、これには彼なりの理由があった。

『音楽と人』(2015年6月号)のインタビューの中にこんなコメントがあった。マスタリングの際にクリスタルを通すと音が変わると、実際に持ち込むエンジニアも多いそうだ。堂本も試したところ、驚くほど音が変わったという。少々誤解を生んだが、これも音を追求した結果だ。

    アイドルが本気で音楽活動に取り組む苦悩

堂本はKinKi Kidsと平行して、ソロで音楽活動を行っている。2002年のソロデビューからこれまでに、「ENDLICHERI☆ENDLICHERI(エンドリケリー・エンドリケリー)」、「剛紫(つよし)」などアーティストネームを立てて活動し、平安神宮などでライブを行ってきた。現在は「SHAMANIPPON (シャーマニッポン)」というプロジェクトを発足している。

音楽誌の『音楽と人』にたびたび登場している堂本だが、ここではアイドルとしてではなく、ひとりのミュージシャンとして表紙を飾り、自分の音楽そしてバンドメンバーについて語る。

「僕はホントに孤独だったから〈堂本剛なんて所詮アイドルで自分で曲を書いてないんでしょ?〉って言われることから始まった音楽人生なので」

これまで、芸能活動にストレスを感じていた時期のことや持病のことなどを素直に告白しているが、最も辛い時期を支えてくれたのが音楽だったと明かしている。事務所の許可を得て活動をしているが、はじめから自由奔放に作詞作曲をして歌っていたわけではなく、周囲から「ジャニーズと音楽をやるのか」と色眼鏡で見られた過去も語っている。

現在のバンドのメンバーは堂本についてこう語った。

「ENDLICHERI☆ENDLICHERIの頃の曲を聴いたら、居場所がなさそうだし、何も信じてないし期待もしてないんだな、と思ったけどそれが今は、すべてを受け止めてプラスに変えていこうとするポジティヴさがありますよね」(Drums:DUTTCH)

「曲の作りを含めて、ミュージシャンの型にハマってない感じがすごく面白いんだ」(Bass:KenKen)

アイドルに対する偏見を崩したのも音楽、周囲の理解を得たのも仲間を集めたのも音楽。多くを語るわけでもなく、音楽に関わる姿勢を通して全てを得てきた。アイドルとしての経歴があり、ミュージシャンとしての経歴を持つからこそ作れる音楽がこのSHAMANIPPONなのだろう。

    「現実を唄うアイドルがいてもいい」

インタビューでは「バンドは解放の場」という言葉が出てくる。それは堂本に限らず、他のメンバーにとっても当てはまるという。それぞれ別の現場でシステマチックに動いたり楽譜どおりに演奏したりという仕事の場があり、何にも縛られずに音楽が楽しめる解放の場がある。堂本のために人が集まっているのではなく、支え、支えられる関係があるからこそ仕事に没頭できるのではないだろうか。

Mステの直後にゲスト出演したラジオ番組では、「頭で考えられた、作り込まれた音楽で評価されても重圧を感じてしまい、素直に喜べなかった」と告白。売り上げランキングに左右されるビジネス音楽ではなく、自分がいいと思うもの、何より音楽を楽しんで作りたいという思いを語った。

別の番組で「人生を変えた一日」について聞かれた際には、事務所社長のジャニー喜多川氏に「作詞作曲をしてみれば」と言われた日のことを答えた。アイドルでは表現しきれないものを音楽にすることで、本当に伝えたいことを伝えられると、時間をかけて形にした。「現実を唄うアイドルがいてもいい」と語る自身の思いを実現させたのだ。

    ソロ活動で深みを増す30代のアイドル

SMAPを筆頭に、歴代グループをみていると、アイドルとしての活動を続けながらも30代からはよりソロ活動が色濃くなる時期だ。各々が得意とする分野で得たものをグループに還元することで、より深みが増していく。常にわかりやすく、目に見える進化が求められる職業だけに、必要不可欠な場所となっているのではないだろうか。

先のインタビューでは、アイドル堂本剛としての発言は一切なく、きっちりと分けている様子が読み取れた。数年、数十年後でもいいから、いつかアイドルとミュージシャンを分けない、堂本剛としての話を聞いてみたいと思う。「現実を唄うアイドル」は、今後どんな景色でどんな音楽を聴かせてくれるのか、とても興味深い。

(柚月裕実)