上昇気流にのるラグビー日本代表はアジアチャンピオンシップを戦い、最終戦の香港戦(5月23日・香港仔運動場)が雷雨打ち切りの引き分け扱いとなったため、3勝1分けで全日程を終えた。

 すべては秋のワールドカップ(W杯)イングランド大会(現地9月18日開幕)の準備である。このシリーズでW杯代表候補の選手たちの力量をチェックし、選考の材料にしていく予定だった。だが香港戦はめずらしい試合打ち切りに。

「これまで試合が中止になった経験がない」と言いながら、日本代表のエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)は言葉を足した。「6月の合宿メンバーは、これまでのメンバーから3、4人減らすことを考えていたが、改めて検討しなければいけない」と。

 ジョーンズHCという指導者は独自の"勝つチームづくり"を確立している。宮崎合宿中に敢行したインタビュー続編では、世界的名将のチーム作りの一端に触れる。

 まずは明確な目標を設定する。「ターゲットはW杯の準々決勝進出」と公言するのである。

*   *   *

―― たしかエディーさんはHC就任当初、目標は「世界トップ10入り」と言っていました。いつ「ベスト8」に修正したのですか。

「世界ランキングで9位になった時(2014年11月)です。トップ10入りを実現できたので、ワールドカップに向けて、より具体的な目標を定めたかった。ターゲットは1次リーグを突破し、準々決勝に進むことです」

―― エディーさんは過去のW杯で、オーストラリア代表を率いて準優勝(2003年)、南アフリカ代表のコーチとして優勝(2007年)を果たしました。強豪国で優勝のプレッシャーと戦ってきた。でも今回の日本代表は違います。これまでと違うモチベーションはありますか?

「やはり個人的に私は日本に近いところにあります。(故郷の)オーストラリア以外で、一番愛着が湧くのは日本です。
 1995年に初めて日本に来ました。その後、オーストラリアに帰国し、2009年にサントリーにフルタイムのコーチで戻ってきました。その時、日本のラグビーが非常に弱体化している姿にショックを受けました。本当にショックだったのです」

―― 弱体化。具体的に言うと......

「サントリーに戻った時、選手は怠けていて、チームミーティングでは居眠りする選手もいました。トレーニングを50%の力でやる選手もいた。大学のラグビーを見ると、また同じく怠けていて、モチベーションに欠けていた。でも、大きなポテンシャル(可能性)はあったのです。日本ラグビーの構造を変えることはできないけれど、周りのチームに変わるきっかけを与えるため、お手本のチームを作ろうと思いました」

―― 日本ラグビーを変えたいと。

「そうなってしまった責任を誰にも押しつけることができません。なぜかというと、日本ラグビーはほとんど国内にしか目を向けていなかったのでしょう。大学ラグビーといっても、日本国内で戦える選手を作っているだけで、本当に世界に通用するプレーヤーを育てていませんでした」

―― ということは、世界に挑む日本ラグビーを作りたいと思ったわけですね。エディーさんの挑戦は日本ラグビーにとってはラッキーだったというわけです。

「ははは。自分にとってもラッキーです。自分はコーチのキャリアの最終章に向かっています。そこで、こんなに楽しいことができるというのは、とても光栄です」

―― ターゲットがワールドカップのベスト8ですね。実現すると、世界のラグビー界はビックリするでしょうね。

「日本のラグビーのワールドカップの歴史で3つのティア1(世界の上位10カ国・地域)との試合を振り返ってみると、2011年大会でニュージーランドに80点(7−83)、2007年大会ではオーストラリアに90点(●3−91)をそれぞれ取られました。1995年大会ではニュージーランドに145点(●17−145)です。これは屈辱です。今年のW杯の初戦の南アフリカ戦で歴史を塗り替えるのです。目標はもちろん、試合に勝つことです。そして、世界のラグビーファンに、ジャパンは惰性で試合をするチームじゃないということをはっきりアピールしたいのです」

―― 日本のラグビースタイルを世界に示すのですね。

「そうです。日本のラグビーはどういうものかという大きなステートメント(メッセージ)を示すことができるのです。そうすることで、選手に自信が生まれます。南ア戦で目標を達成することができれば、次のスコットランド戦の勝利が見えてきます。スコットランドに勝てれば、サモアと米国には勝つことになるでしょう」

―― ベスト8進出の"方程式"ができているのですね。チーム作りの一環として、エディーさんは"リーダーズグループ"を作っています。その狙いは?

「ワールドカップでは、自分たちで自分たちをマネジメントすることが必要です。もしも南アフリカ戦で最初の20分間、試合展開が思うようにいかなかった時、私がフィールドに降りていってあれこれ言うことはできません。メッセージを伝えるにしても最小限です。フィールドの選手たちが自分たちで問題解決にあたらないといけません」

―― それは結構、難儀なことですよね。

「その通りです。2011年大会のトンガ戦(●18−31)で私は衝撃を受けました。戦前は日本が勝つと予想されていた。でも、試合の頭からトンガはフィジカルで思い切ってジャパンにぶつかってきました。ジャパンは混乱し、何の対応もできませんでした。その試合では、誰一人、リーダーシップを発揮できませんでした。今年の大会ではそれを選手がやらないといけません」

―― だから、トレーニングの段階からリーダーズグループを作っているのですか。

「日本人の選手を見ていると、リーダー気質は自然には生まれないと思うのです。伝統的な日本のチーム作りを見ると、監督が選手1人ひとりに何をするのかを指示しています。それは大舞台では通用しないのです」

―― 宮崎合宿ではハードワークが続いています。選手に休養はいらないのですか。コンディションの心配は?

「まだコンディションを考える時期ではありません。今はハードワーク、ハードワークです。7月になれば、コンディションに配慮していきます。それまではチームの基礎作りです」

―― 具体的な指示は出してあるのでしょうか。

「7月までに、タイト5(FWのフロントローとロック陣)には3kgの筋量アップを実現してほしい。バックスにはそれぞれスピードアップを指示してあります。今はかなり、体は悲鳴をあげているでしょう。それでいいんです。それ以外に体を強化する方法はありません」

―― 選手のケガは怖くないですか。

「ノーチョイスです。それができなければ、ワールドカップで戦うことはできないのです。でも、7月からはコンディショニングも大事になります。パシフィックネーションズ杯(7月18日〜8月3日 アメリカ/カナダ)は厳しい相手と戦っていくので(※)、選手たちの体調管理を重視していきます」
※日本、アメリカ、カナダ、サモサ、トンガ、フィジーの6カ国が参加。日本はカナダ(世界ランク17位)、アメリカ(同16位)、フィジー(同12位)と対戦し、その後順位決定戦に進む

―― エディーさんは以前、W杯初戦の南アフリカ戦(9月19日)にチームのコンディションのピークを持っていくと言いました。その後(スコットランド戦やサモア戦など)ではダメなのですか。

「ダメです。フィジカル、メンタルとも、9月19日です。(2003年W杯大会の)オーストラリア代表の監督の時、準決勝でピークを迎えることをターゲットにしました。だから、準々決勝の前もハードワークをやりました。選手たちは疲労がたまり、もう非難轟々(ごうごう)でした。でも準決勝の前に練習量を落として、思い切って戦ったのです」

―― それで準決勝でニュージーランドを下し、決勝に進出したのですね。

「そうです。だから、ターゲットをどこに定めて、ピークをどこに持っていくのかはとても重要なことです。今の時期はトレーニング・ランみたいなものです。現在、チームにいるのは、スターティングメンバーになる選手の半分くらいしかいません。そのメンバーで戦うことで選手層を厚くしているのです」

―― 7月になれば、南半球のスーパーラグビーに挑戦している選手たちが戻ってきます。スタメン候補がたくさんいますよね。

「スーパーラグビー組が日本に戻ってきた時、"なんてこった!"と驚いてほしいのです。今いるジャパンのメンバーが、スーパーラグビー組より上の体力を備えてほしい。で、スーパーラグビー組が慌てて、その差を埋めるように努力すれば、チーム全体のレベルはアップします」

―― このハードワークをしていれば、スーパーラグビー組が戻った時、"なんてこった!"と驚きそうですね。

「そう。それが必勝プランのひとつです」


【プロフィール】
※エディー・ジョーンズ
1960年、オーストラリア・タスマニア州生まれ。
現役時代のポジションはフッカー。1995年初来日。翌年、東海大学ラグビー部のコーチとなり、日本代表のフォワードコーチも兼任。その後帰国し、1999年オーストラリア代表チームのコーチに就任。2001年に同代表チームのヘッドコーチに。20003年ワールドカップではチームを準優勝に導く。2007年に南アフリカ共和国代表チームのアドバイザーに就任。同年のワールドカップで、チームの優勝に貢献した。2009年にトップリーグ、サントリーのヘッドコーチとなり、好成績を挙げ、2011年12月、日本代表ヘッドコーチに就任。世界ランキング最高9位までチームを引き上げた。

松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu