「一国の宰相となるよりも、ダービー馬のオーナーになるほうが難しい」とは、英国のチャーチル元首相の言葉だ。さらに競馬ブームを作るほどの名馬ともなれば、10年に1頭出るかどうか。スターホースの不在は、競馬場の命運をも左右する。


笠松競馬場でのレース。(資料写真)
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 「負け組」への応援か、ネバーギブアップの精神が人々の共感を呼んだのか、高知競馬(高知県高知市)を救った“ジャンヌ・ダルク”は、強さでなく、デビューから113の連敗記録を誇る9歳の牝馬ハルウララだった。だがウララは人間なら50歳近い。昨年9月から栃木県黒磯市の牧場で放牧されており、3月の引退レースも延期された。

 高知競馬はウララブームのおかげで、03年度収支が12年ぶりに約9200万円の黒字となった。しかし同馬の休養以降は売り上げが伸び悩み、04年度第3四半期は約3600万円の赤字に、累積赤字は約1億600万円にまで膨らんだ。ウララ人気で昨年度に作った約1億2100万円の貯金は、すでにほとんどを使い果たしたという。

 高知県はレースの賞金や県競馬組合の職員報酬、従事員賃金を5−16%カット。主催者は「ウララも戻ってくるほか、馬券販売などでのライブドアとの業務提携もある。収支計画を立て直せる要素はある」と話し、厩舎関係者も「馬がいる限り、競馬を続けたい」と再興に向け奮起する。

 芦(あし)毛の怪物といわれた名馬オグリキャップを生んだ笠松競馬場(岐阜県笠松町)でも、バブル経済崩壊後の1993年度から単年度赤字が続いている。58億6900万円あった基金も取り崩され、昨年度末には5億5500万円にまで減った。本年度の馬券発売金額も対前年度比73・2%と落ち込み、基金も近く底をつきそうだ。即時廃止も検討されたが、1月に県と地元自治体の首長による協議が開かれ、来年度1年間の期限付きで存続が決まった。高知競馬と同じく馬券のネット販売でライブドアと提携する方針で、北海道の競争馬生産者団体も経営参入に前向きな姿勢を示している。

 しかしあくまでも“執行猶予”であり、背水の陣であることに変わりはない。騎手や調教師、競馬場の地権者らは再興の夢と引き替えに、賞金の減額やレース開催と出走頭数の縮小、賃金の大幅カットなどによる総額約7億円の経営の合理化案を受け入れた。現場からは「この1年が正念場。頑張るしかない」「つらいことも多いだろうが、楽しさに変えてみせる」と覚悟の声が挙がる。

 県地方競馬組合は、増収に向けての具体的な取り組み案「笠松競馬再興計画(アクションプラン)」をまとめ、出走馬をファン投票で選ぶ「ファン投票レース」や、優勝馬の馬主に種付権を与える「スタリオン競走」などを企画。スターホースに頼らず、競馬場そのものの魅力の掘り起こしに懸命だ。

 群馬県の高崎競馬など、すでに閉鎖した競馬場の関係者も、高知や笠松への移籍を考えて熱い視線を注いでいる。「夢よ、もう一度」。地方競馬の存廃を賭けた熱い1年が、これから始まろうとしている。【了】


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