漢の夢、オーディオルームの工費は300万〜400万円だった!Acoustic Design Systemの防音室体験

■Introduction

漢の夢、それはマイホーム建築、そしてオーディオファイルの夢はリスニングルーム建築である。もしマイホームの目処が付いた、そして、部屋が確保できたと仮定して、まあ、これだけでもかなり無理があるが....... オーディオルームを作るにはいくらぐらいかかるのだろうか? JBL『エベレスト』を思い切り鳴らすのはやっぱり木造では無理なのか? 設計図引くだけで100万円という噂は真実なのか? PCAudioLabの研究員S氏が、苦難を乗り越え、新居&リスニングルームの建築に着手することになり、防音工事のプロを訪れるというので、私も後学のために同行した。

防音工事のプロと言えば、「日東紡音響エンジニアリング」、「日本硝子環境アメニティ」、「高橋建設」、「アコースティックデザインシステム」などが有名である。今回は個人のオーディオルームに積極的に取り組んでいるアコースティックデザインシステムが開催する「Acoustic Audio Forum」に参加、取材をさせてもらった。

■Concept&Design

一級建築士で、同社の代表取締役の鈴木泰之氏はレコーディングスタジオ、音楽レッスン室、バンドスタジオ、オーディオルーム、ホームシアターの設計施工など過去38年にわたり4000件に達する実績を持ち、音楽の制作現場を知り尽くしたプロである。第18回「Acoustic Audio Forum」は、鈴木氏が日本のハイエンドオーディオブランド、SFORZATOのために設計した製品開発用の試聴室でおこなわれた。SFORZATOは2009年に生まれたネットワークプレーヤーを中心としたデジタルオーディオ機器を開発している。DACにはESS9018Sを使い...... と話が長くなりそうなのでコンポの紹介は別の機会にすることにして、鈴木氏のオーディオルームに対する考え方を紹介しよう。

鈴木「楽器の演奏に比べるとオーディオが出す音は小さいんですよ。例えばドラム練習室だと110〜120dBを想定します。ピアノなら100dB、それに比べるとオーディオの場合は80〜95dBぐらいを確保すればいいので、我々からすると防音はさほど難しくありません」

我々が思っているよりも楽器の生音は大音量なのである。クラシックを大音量で鳴らしたい人以外は、オーディオルームの防音は楽器練習室や個人スタジオよりも敷居が低いようだ。しかし、木造でも大丈夫なのだろうか?

鈴木「SFORZATOは木造住宅ですが、2階の賃貸部分に関してはD-80、屋外に面した窓でもD-65、壁面ではD-70を実現しています。D値というのは日本建築学会でさだめる遮音等級のことで数値が高いほど高性能になります。低音から高音まで6種類の周波数で測定するので、高音だけ漏れるといった心配もありません。マンションならD-60以上あれば夜間でも音楽が楽しめます。戸建てならD-50で十分です。深夜でも大音量が出せるのがマンションはD-65、戸建てはD-55です」

確かに屋外に出るとD-65では全く何も聞こえない。ペアガラスになった窓に耳を押しつけると音楽がなっていることが分かる程度で、曲名までは分からないレベル。防音室と言えば窓がなくて壁は全部カーテンというイメージだったのだが。

鈴木「スタジオじゃないんですから、窓はあった方がいいですよ。それから内部がデッドすぎて会話が聞き取りにくくなるのもいただけません。私たちはほどよい響きのある部屋を良しとしています」

音がほとんど漏れないなら、当然、窓はあったほうがいい。それにしても今回の試聴室は天井高が4mと異常に高いのだが、これには何か理由があるのだろうか。

鈴木「オーディオルームの大敵は定在波です。スピーカーの箱が共振するように部屋全体が固有の周波数で共振して、ピークやディップができるとやっかいです。これを回避するためには部屋のタテヨコ高さの寸法比が重要です。部屋が大きくなると天井高が高くなります。この寸法比は専用ソフトを使って計算できるようになっています。

超低域の定在波は部屋ができた後では対策のしようがない。最近のAVアンプは位相を調整してスーパーウーハーのセッテイングを最適化する機能があるが、それはつまり物理的な対策が難しいということである。部屋の寸法比以外に重要な要素は何なのだろうか。

鈴木「それは高密度、高剛性の部屋を作ることですね。そして、理想は部屋の中にもう1つを作る浮き遮音工事です。特に浮き床工法を使って、スピーカーとアンプの間で縁を切って独立させるとスピーカーの振動がアンプに伝わらなくなります」

高密度高剛性で寸法比が大切とはまさにスピーカーのエンクロージャーと同じ原理である。これは分かりやすいコンセプトだ。それではいよいよSFORZATOの試聴室で実際に音楽を聴いてみよう!

漢の夢、オーディオルームの工費は300万〜400万円だった!Acoustic Design Systemの防音室体験

手前の一角がSFORZATOの試聴室となる。広さは15畳ぐらいだろうか。木造2×4工法建築の内側に作られ、外部に対してはD-70とコンクリートの建造物と同等の遮音性能を誇る。室内の暗騒音レベルはNC-18とレコーディングスタジオ並みに低い

漢の夢、オーディオルームの工費は300万〜400万円だった!Acoustic Design Systemの防音室体験

玄関ホールでD-60の遮音性能、二重になっている扉を閉めると音楽は全く聞こえなくなる。スタジオで見かける金属製のドア1枚より、木製ドアを2枚の方が遮音性は高い

漢の夢、オーディオルームの工費は300万〜400万円だった!Acoustic Design Systemの防音室体験

通常の建物の1.5倍はある天井高、これはなかなか真似ができない。正面のカーテンの奥は反射を調整するためにレンガが埋め込まれている。その上の2つのスリットが空調用のダクトで、これがまた高額設備なのだ

漢の夢、オーディオルームの工費は300万〜400万円だった!Acoustic Design Systemの防音室体験

天井裏に収納された空調用のダクト類。音は抜群に静かになるが、最終的には空調OFFにした方がいいので、私なら家庭用のエアコンで我慢する

漢の夢、オーディオルームの工費は300万〜400万円だった!Acoustic Design Systemの防音室体験

SFORZATOのリファレンスシステムで試聴をおこなった。右側の上がデジタルミュージックサーバーのDELA『N1Z』、その下はデュアルモノ構成のプリアンプMark Levinson『No.38L』、左側がSFORZATO『DSP-01』の試作品。そして右端に見切れているのがマスタークロックジェネレーターSFORZATO『PMC-01 BVA』である

漢の夢、オーディオルームの工費は300万〜400万円だった!Acoustic Design Systemの防音室体験

スピーカーはアクティブ型の3Wayコアキャシャルでmusikelectronic geithain『RL901K』というドイツ製のスタジオモニターである。スペックによれば低域再生限界は25Hz

漢の夢、オーディオルームの工費は300万〜400万円だった!Acoustic Design Systemの防音室体験

防音工事の重要性を語るアコーステックデザインシステムの鈴木泰之氏。参加者の質問に分かりやすい説明で詳細に答えてくれた

漢の夢、オーディオルームの工費は300万〜400万円だった!Acoustic Design Systemの防音室体験

最初の試聴は4種類の音源を1〜5段階の音量で再生して、自分にとって最適な音量をアンケートで答えるというもの。結果はすぐにノートPCで集計され発表された。2日間で合計4回おこなわれたForumで我々が最も大音量派であることが判明。ちなみ私は5段階を超えた「特大」という項目を追加して回答した

漢の夢、オーディオルームの工費は300万〜400万円だった!Acoustic Design Systemの防音室体験

窓ははめ殺しで二重になっている。外側の窓はペアガラス。この構造であれば、窓を開閉式にしても遮音性能を発揮できる

漢の夢、オーディオルームの工費は300万〜400万円だった!Acoustic Design Systemの防音室体験

外側にまわって音漏れをチェック。窓から少しでも離れると全く音は聞こえない。一般住宅なら庭や塀があり、他人がそこまで近付くことはないだろう。さすがD-65だ

漢の夢、オーディオルームの工費は300万〜400万円だった!Acoustic Design Systemの防音室体験

本日のサプライズゲスト、石井伸一郎氏。石井氏と言えば「リスニングルームの音響学」の著者であり、石井式リスニングルームの発案者であり、松下電器で『Technics1』、『Technics7』などの名機を独自理論から生み出した生粋のエンジニアである。松下電器の石井伸一郎氏、三菱電機の佐伯多門氏、パイオニアの木下正三氏の名刺を揃えた時、私はいっぱしのオーディオライターになったと思ったものだ

■研究結果

今回の収穫は、オーディオルームは木造でもできる。窓があってもいい、戸建ての遮音性能はD-50で十分なことを実感したこと。室内のNC値はNC-20を目指したい。ただし、空調は消した状態で。空調ONだとダクトタイプが必要になる。基本はD値を上げると工事費もアップするということ。そして浮き構造を採用すると部屋が狭くなる。これらの兼ね合いで工費が決まるのだ。過剰とも言える防音工事を施したSFORZATO試聴室レベルでコストは10〜15畳で300万〜400万円。戸建てでD-45以上、マンションでD-65以上を保証するベーシックバージョンで、12畳で280万〜325万円が目安となる。戸建てのマイホームを建てる総工費は2000万円以上になるはずなので、ローンを組むときに防音工事費をこっそり潜り込ませる。そんな夢が描けた1日であった。

●防音工事の基本は高密度、高剛性構造
●さらに追求すると浮き構造
●在来木造建築でもD-60は実現可能
●定在波を抑えるには部屋の寸法比が重要

(文/ゴン川野)

ゴン川野のPC Audio Labオーディオ生活40年、SONY『スカイセンサー5500』で音に目覚め、長岡式スピーカーの自作に励む。高校時代に150Lのバスレフスピーカーを自作。その後、「FMレコパル」と「サウンドレコパル」で執筆後、本誌ライターに。バブル期の収入は全てオーディオに注ぎ込んだ。PC Audio Labもよろしく!