「他のスポーツをやらせても一流になれる」高い身体能力の持ち主

 故郷に錦を飾る活躍だった。豊橋市民球場で行われた20日の広島戦。中日・藤井淳志外野手は3点を追う6回に代打で登場すると、2死二塁でライト前にタイムリーを運んだ。さらに、1点ビハインドの7回。2打席目は2死二、三塁から左中間に1号逆転3ランを放り込んで見せた。

 愛知県豊橋市出身。年に1度の地元開催で主役となったばかりか、この日が34歳の誕生日だった。

 昨年8月5日の豊橋での広島戦では、プロ入り初のサヨナラ本塁打を放った。この日は、2年連続で上がった地元でのお立ち台で「豊橋が大好きです!」と絶叫。大きな歓声を浴びた。盆と正月が一度に来たような、忘れられない1日になったに違いない。

 藤井の最大の魅力は、その身体能力の高さだろう。50メートル5秒8の俊足。遠投は120メートルを超え、試合前の守備練習では鋭い返球が捕手のミットに突き刺さる。全身バネのような軽やかな身のこなしに、他球団のスコアラーからは「他のスポーツをやらせても一流になれる」と羨む声も聞かれる。

レギュラー定着に至らないのはなぜ? 今年はひと味違う姿を見せられるか

 しかし、恵まれた素質を持ちながら、ベテランの域に差し掛かった現在でも、レギュラー定着には至っていない。調子の波、時折見られる集中力を欠いたプレー、勝負所でのケガなど、さまざまな要因で飛躍の機会を失ってきた。

 晴れ舞台となった豊橋の夜の次の試合。22日の巨人戦で背番号4はベンチを温め、最後まで出場機会がなかった。首脳陣からの信頼を勝ち得ていない現実を表していた。

 明るい性格に加え、ある時はシーズン中に自ら球団事務所に突撃して幹部に起用法への疑問をぶつけ、指摘された足りない部分に真剣に向き合おうとする熱いハートも持ち合わせている男だ。

 34歳は素質や身体能力で勝負し、評価を受けるには厳しい年齢といえるが、今回に続いてドラマのような活躍を見せる可能性も秘めた選手であることは間違いない。

 プロ10年目。今年こそ、ひと味違う姿を見せられるか。大好きな地元での試合を終え、ここからの一戦一戦で、底力が試される。