“壁ドン”“ゆとり”の本来の意味って? 時代によって意味が変わったネット用語を集めてみた

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壁を背にした女性へ覆いかぶさるように手を伸ばし、顔を近づける……女性がドキドキするシチュエーションとして注目を浴びる「壁ドン」。

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昨年から急速にメディアで取り上げられブレイクした言葉だが、実は当初、ネットユーザーからは「壁ドンってそんな意味じゃないでしょ」と戸惑いの声が多くあがっていた。ネット用語としての歴史が長い「壁ドン」はまったく別の使われ方をしてきたからだ。

今回はこのように“本来とは別の意味で広がったネット用語”を調べてみた。ネット用語は定義や発祥があいまいな場合もあるため、筆者の主観が入っている点はあらかじめご了承願いたい。

壁ドン、床ドン

恋愛用語してではなくネット用語としての「壁ドン」は本来、文字通り大きな音をたてて壁を叩くことを指す言葉だった。「隣室のカップルが深夜までうるさいから壁ドンしてやったぜ」など抗議を表明したり、単に壁を殴ることでストレス発散したりする行為のことだったのだ。

別名を「壁殴り」とも言い、ネタ的に作られたアスキーアート(文字だけで表現されたイラスト)も多数にのぼる。

また、女性を寝かせて上から男性が覆いかぶさる恋愛用語として「床ドン」があるが、これもネットでは床をドンと踏みつける行為を指す、別の意味だった。

アパートなどで階下の住人がうるさい時の抗議、自宅の1階にいる親に対し(部屋から出ない引きこもりが)食事などを要求する意思表示として使われている。このように「壁ドン」「床ドン」ともネガティブな言葉だっただけに、まったく対極の恋愛用語としてテレビや雑誌で紹介された際、ネットユーザーたちが違和感をおぼえたわけだ。

中二病

「くっ…みんな離れろ!俺の右手に住む悪魔が暴れだしそうだ……!」とクラスメートに叫ぶなど、恥ずかしいファンタジー妄想・言動を揶揄するのにもっぱら使われるネット用語。「厨二病」と書かれることもあるが意味は同じだ。中学二年生くらいの思春期に特徴的な現象だが、成人後もこの中二病を抜け出せない人は多い。

本来の意味は「思春期にちょっと背伸びした大人っぽい行動をしたがること」を主に指す言葉で、発祥もネット上ではない。急にブラックコーヒーを飲みだしたり、母親に必要以上に反抗してみたり、聞きかじった知識だけで権力批判したり、そうしたリスナーからの投稿がラジオ番組『伊集院光 深夜の馬鹿力』で紹介され広まったと言われている。

では、俺の右手に悪魔が…系統の極端な妄想はどこから来たかと言えば、「邪気眼」のようだ。こちらは2ちゃんねるの書き込みが元になった純正のネット用語。過去の恥ずかしい行為を告白するスレッドにおける書き込みの1つがあまりに秀逸だったため、そこに出てきた造語「邪気眼」がそのまま「現実離れした痛々しい妄想」の代名詞として広まったものらしい。

『深夜の馬鹿力』で紹介された中二病の症状にも似たような妄想事例があったためか、現在はその究極系である「邪気眼」がめでたく「中二病」に統合され、本来の意味と特に区別なくネット上で使われている。

ゆとり

「これだからゆとりは話が通じないんだ」など、知識が乏しい、理解力がない人間を批判する時に使われるネット用語。語源は、従来よりも学習時間を大幅に減らした「ゆとり教育」、またはその教育を受けてきた「ゆとり世代」。

本来は1987年〜1996年(広義では2004年)生まれがゆとり世代に該当する。しかし相手の素性がわからないネット上では、世代に関係なく使われている。

意味もネット用語の「ゆとり」には変化が見られる。ビジネス書などではゆとり世代の特徴として自分本位・打たれ弱い・知識偏重といった例を挙げているが、ネット用語ではそこから逸脱して頭が悪い・性格が悪いなど根本的な人格否定にまで意味が広がった。

こうした背景があるため、ネット以外の場所、特にフォーマルな会話で軽々しく「ゆとり」の言葉を使うのは避けたほうが無難だろう。

ブラクラ

ネットサーフィンしていて、怪しげなリンクをクリックしてみたら画面いっぱいに広がるショッキングな画像(ホラー映画の殺人鬼など)、スピーカーから大音量で響き渡る悲鳴……こんなワナに引っかかってしまった際、「ブラクラを踏んじゃった」と言われることが多い。語源は「ブラウザクラッシャー」だ。

しかし本来のブラクラは名前の通り、ブラウザ自体を不調に陥れる仕掛けのことを指していた。たとえば怪しいリンクをクリックした途端に無数のウィンドウが出てきたり、パソコンが強制停止させられたり、人間でなくコンピュータ側にダメージを与えるものなのだ。

では、現在ネット用語として広まっているブラクラは何かと言えば「精神的ブラクラ」「マインドクラッシャー」と呼ばれるのが正しい。いわばブラクラの亜種だ。

最近はセキュリティ向上のためか本物のブラクラに出会うことが減った代わりに、うかつにショッキング画像などを開いてしまうネットユーザーが増えた。そんな経緯によって、ネット用語としての「ブラクラ」は意味が差し替えられたのかもしれない。後から派生した意味が本家をなかば乗っ取ってしまったという点で「中二病/邪気眼」の関係に似ていると言える。