「世界ランキング4位と5位との差を見せつける」。ファイナルでの14点差というスコアには、そんな日本代表の強い思いが感じられた。

 22日から3日間にわたって千葉ポートアリーナで行なわれた『2015ジャパンパラ ウィルチェアーラグビー競技大会』。最終日の24日には決勝が行なわれ、世界ランキング4位の日本が同5位のイギリスを57−43で破って優勝。今シーズン初戦で結果を出し、10月に同会場で行なわれる2016年リオデジャネイロパラリンピックの出場権がかかる「アジア・オセアニアゾーン選手権」に向けて、好発進した。

 日本、イギリス、デンマーク(同6位)、ニュージーランド(同8位)の4カ国で行なわれた今大会、日本は予選を全勝して1位通過し、準決勝では予選4位のニュージーランドに51−41と快勝。順当に決勝進出を果たした。

 イギリスとの決勝、開始早々に観客を沸かせたのはエースの池崎大輔(37歳・北海道BigDippers)だ。相手のポイントゲッターをラインの外に押し出す力技でターンオーバーをとると、自らディフェンダーにタックルしながら、かわしてゴールラインを通過。エースらしいキレのあるプレーで、先取点を挙げた。その後も日本は池崎を中心にゴールを決め、着実に得点を重ねていった。一方、守備では相手にプレッシャーを与えてミスを誘い、攻撃につなげる場面も多く見られた。

 第1ピリオドで17−11と大差をつけた日本は、第2ピリオド以降も手を緩めることなく、イギリスを引き離した。圧巻だったのは、第4ピリオドでのワンシーン。池崎が目の覚めるようなビッグタックルで相手選手を転倒させたのだ。正当なタックルによる転倒は、転倒した側のファウルとなる。これでターンオーバーで日本ボールとなり、連続得点を生み出した。日本は攻守ともに相手を終始圧倒し、その結果、57−43でイギリスを破り、金メダルを獲得した。

 試合後、池崎はこう語った。

「日本が今、世界のどのレベルにいるのか、そのひとつとして4位(日本)と5位(イギリス)との差がどのくらいなのかを図るために大事な試合だった。結果、その差は大きいと感じている。(オーストラリア、カナダ、アメリカの)トップ3に入るために、(今年においては)まずまずのスタートを切れたと思う」

 さらなる上を目指す日本にとって、今大会の優勝は通過点に過ぎない。

 決勝の朝、今シーズンから指揮官に就任した荻野晃一ヘッドコーチ(HC)は、選手たちにこう語ったという。

「一番重要なのは、目標を達成させられるかどうか。各ラインの課題、個人の課題が何なのかを、もう一度確認をして決勝に臨もう」

 この言葉からも、日本が目指している目標の高さがうかがい知れる。

 今大会のイギリスは、体調不良でエースが不在だった。戦力が落ちることは明らかで、日本としては勝って当然と言っても過言ではなかった。しかし、ただ勝てばいいわけではなかった。なぜなら、日本が目指しているのは、オーストラリア、カナダ、米国の"トップ3"の中に割って入ることで、そのためにはクリアしなければいけない課題にチャレンジする必要があったからだ。その課題とは「ラインナップの充実」である。

 ウィルチェアーラグビーでは、障害の度合いによって、各選手に0.5〜3.5のポイントがつけられており、コート上の4人の合計が8点以内というルールがある。残存機能が多くありポイントが高い選手を「ハイポインター」と言い、反対に重度の障がいをもちポイントが低い選手を「ローポインター」と言う。主にポイントゲッターを務めるハイポインターに対して、ローポインターは相手ディフェンスを止めてハイポインターのためにコースをあけたりするなど、それぞれの役割がある。そのため、どの4人を組み合わせるかによって、戦術も異なるというわけだ。

 現在、日本の最強ラインナップ「ファーストライン」は池崎(3.0)・池透暢(3.0/34歳/Freedom)・若山英史(1.0/30歳/横濱義塾)・今井友明(1.0/32歳/RIZE)の4人。今大会でも、安定した強さを見せ、荻野HCも「他のラインでミスがあっても、ファーストラインで流れを取り戻すことができる」と自信を見せている。

 しかし、このファーストラインだけで勝てるほど、世界は甘くない。ファーストラインの4人をいかに休ませることができるかが日本の課題となっている。そのため、ファーストラインだけでなく、セカンドライン、サードラインといった、さまざまな4人の組み合わせにチャレンジすることが、今大会の最大のミッションとされていた。

 決勝で見せた日本のラインナップは5種類。前述したファーストラインのほか、池崎・島川慎一(3.0/40歳/BLITZ)・若山・今井のライン、池・佐藤佳人(2.0/34歳/BLAST)・庄子健(2.0/35歳/RIZE)、山口貴久(1.0/33歳/横濱義塾)のライン、池崎・仲里進(2.5/38歳/Okinawa Huricanes)・羽賀理之(2.0/30歳/AXE)・岸光太郎(0.5/43歳/AXE)のライン、池崎・仲里・乗松聖矢(1.5/25歳/Okinawa Hurricanes)・若山のラインだ。

「優勝はファーストラインだけでなく、セカンド、サードラインにもチャレンジしたうえでの勝利。そういう点で大きな価値がある」

 荻野HCはそう手応えを口にした。

 とはいえ、課題をすべてクリアしたわけではない。セカンド、サードラインの完成度は50〜60%だという。そのため「現状として、来年のリオデジャネイロパラリンピックでメダルに届くかどうかと言われると、届くと言えるところまでは来ていない」と、HCの評価は厳しい。

 10月にはパラリンピックの出場権がかかる大一番を控えている。リオへの切符はわずか1枚。世界ランキング1位のオーストラリアを除く最上位国のみがその切符を手に入れることができる。日本はそこで出場権を得ることはもちろん、オーストラリアとも互角の戦いをしたいと考えている。そしてその先に見据えるのは、1年後のリオでの表彰台だ。

 果たして、今大会の優勝は日本にどんな成長をもたらすのか。最終目標へはまだ道半ばである。

取材・文●斎藤寿子 text by Saito Hisako