これまでギックリ腰は「できるだけ動かずに安静に」が常識だったが...... shutterstock

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 腰痛で病院に行けば、まずはレントゲンを撮られて、これといった問題が見つからなければ「腰痛症」というあいまいな診断名がつけられることが多い。治療はせいぜい痛み止めを渡されるだけ。ほとんどの場合、「しばらく安静にしてください」と言われてきた。医師の中には、「いつまでも腰痛が治らないのは『仕事が忙しい』などと言い訳して、必要なときに安静にせずにいるせいだ」と言う者もいる。

 ところが、内臓の病気や感染症など一刻を争う病気がない、原因がはっきりしない「非特異的腰痛」、つまりおおかたの「腰痛持ち」の場合、「レントゲンやMRIなどの画像検査を行うこと」「安静にすること」、そのいずれも「腰痛を悪化させることはあっても、改善には役立たない」という衝撃的な事実が判明した。

 そんなことを聞いても、「わたしの腰痛は、そのような気のせいのレベルとはちがう。椎間板ヘルニア(あるいは椎間板変性)だから、腰痛症なんかと同じレベルでは話せない。手術しないと治らない」と思っている人もいるだろう。

 だが調査によれば、腰痛を感じていない人の76%に椎間板ヘルニアが、85%に椎間板変性があり、椎間板ヘルニアでも椎間板変性でも、それが腰痛につながるとは限らないという。つまり腰痛で苦しんでいても、それらの病気が原因の場合もあれば、そうではない場合もある。そして、病気が原因ではない場合は、手術をしてもなんの効果もない可能性が高い。そもそも手術をせずに経過観察だけの診療をしてみると、9割のケースで椎間板ヘルニアは自然に治る。

 従って、現在、腰痛の専門医は、腰椎間板ヘルニアでも手術をあまり勧めないようになっている。

 しかし、こういった衝撃の事実が判明したのは、ほんのここ数年のことであるため、腰痛を専門としない医師には、いまだに安静を絶対とする医師が少なからずいるし、専門書を読んでも安静をすすめるケースが多い。

安静よりも運動をしたほうが絶対に改善する

 ヨーロッパの多くの国の腰痛に関する治療ガイドライン、そして日本の最新の「腰痛診療ガイドライン2012」を見ると、腰痛になった際に「安静にしないこと」が勧められている。特にベッドで安静に横たわることを勧めず、患者を安心させて、できるだけ動くようにさせるよう指導されている。

 海外で以下のような調査が行われている。急性腰痛の患者を、「2日間、トイレ以外はベッド上で安静」にしているよう指示したグループ、理学療法士が指導して「身体を前・横・後ろの各方向に10回1セットで動かす運動」を行ったグループ、「なるべく普段の活動をする」よう指導したグループの3つに分けて追跡調査をした。その後、腰痛の持続期間や程度、欠勤日数、仕事への支障のていどなどを比較したところ、明らかに「なるべく普段の活動をする」グループが最も良く、次に理学療法士が指導したグループで、安静にしたグループが一番悪い結果だった。

 また、日本でぎっくり腰を起こした人に対して行われた調査では、「腰痛が治るまでできるだけ安静を保つように指導された人」と、「動ける範囲内で活動するよう助言された人」の、翌年の再発率を調べたところ、安静を指導された人のほうが、動ける範囲内で活動を指導された人の3倍も、ぎっくり腰を起こしていたのである。

 安静が腰痛によくない理由はいくつか考えられる。椎間板の中央にあって、ぎっくり腰の際にずれて神経に触ることが多い髄核(ずいかく)は、運動すれば自然に元の位置に戻るのに対して、安静にするとずれたままになりがちだ。また安静にする必要があると考えた人は、「安静にしないと悪化する」と、動くことへの恐怖を抱き、腰痛に対して過敏になってしまう。その結果、ストレス性腰痛を招く。

 現在はベッドでの安静は最大2日までで、動けるなら初日からどんどん動ける範囲で動いたほうがいいとされている。
画像検査が腰痛を悪化させる理由

 2009年に世界的な権威があるイギリスの医学誌「Lancet」に掲載された論文によれば「画像検査を行った場合と、行わなかった場合とを比較すると、どちらも治療結果は変わらない」という。

 椎間板ヘルニアや椎間板変性は痛みを引き起こすこともあるが、痛みを招かないケースも多いという事実が判明した現在、がんなどの重篤な病気が疑われるようなケース以外、つまり非特異的腰痛と考えられる場合には、画像診断をすべきではない、というのが現在の腰痛専門医の間の結論だ。

 「念のために画像検査をしたほうがより良いんじゃないの? 検査しただけで悪くはならないだろう?」と思うかもしれない。しかし画像検査をして、ヘルニアなどが発見され、それが実は痛みには関係ないかもしれないのに「ヘルニアがあります」とか「椎間板が減っていますね」などと画像を見ながら医師から聞いた患者はどうなるか? 当然、それが痛みの原因だと考える。椎間板に異常があるから「これからも痛みが続くだろう」とか「これ以上傷めないように安静にしなければ......」と考えてしまう。その結果、痛みをストレスに感じてストレス性腰痛を起こすし、安静にした結果、腰痛を悪化させてしまう。

腰痛は温める?それとも冷やす? 牽引やコルセットの効果は?

 腰痛になったときに温めるべきか、冷やすべきか、しばしば議論になる。炎症があり、じっとしていてもズキズキするような急性期は冷やし、炎症が引いたら温めるという説がこれまでは強かった。

 しかし、さまざまな試験では冷やしてよくなったと断言できる結果は出なかった。急性腰痛に関しては、温めるほうは良い結果が多く、さらに温めて運動も行うと、温めただけ、運動しただけよりもさらに良い効果が得られることが判明した。一方、慢性腰痛に関しては温めて良くなるかどうかははっきりしていない。

 牽引の効果に関してもいまひとつの結果だ。坐骨神経痛を伴う腰痛に関しては効果があるとする試験結果もあるが、それ以外に関しては効果がほぼないという結果に。

 コルセットは痛みを改善する効果はないが、急性期の機能改善には有用だ。慢性腰痛に関しては効果が見られず、コルセットは腰が不安定な状態のときには役立つが、長くつけたままにすると、筋肉を甘やかし、かえって腰痛を招く危険が高い。コルセットはあくまで、うかつな動きをすると強い痛みが走るような状態のときだけと考えたほうがいい。腰痛を恐れて年中コルセットをしているのは腰痛対策としてはむしろ悪いことである。

 マッサージ等の効果もはっきりと良いという結果は少なく、一方、悪化させるケースは多い。下手なマッサージは避けたほうが安全だ。

 次回は具体的にどのようにすれば腰痛を予防できるのか、どうすれば腰痛とお別れできるのかを紹介する。

森田慶子(もりた・けいこ)
経験20年の医療ライター。専門医に取材し、その分野を専門外とする一般医向けに発信する医師向けの医学情報を中心に執筆。患者向けの疾病解説の冊子や、一般人向けの健康記事も数多く手がける。これまでに数百人を超える医師、看護師などの医療従事者から、最新の医学情報、医療現場の生の声を聞いてきた。特に、腰痛をはじめとする関節のトラブル、糖尿病、高血圧などの生活習慣病、うつ病や認知症などの精神疾患、睡眠障害に関する記事を多く手がけてきた。