5月特集 いま見るなら、女子ゴルフ(5)

 昨季、「大型ルーキー」として注目を浴びた藤田光里。ツアー参戦2年目の春、彼女の最高の笑顔がようやく弾けた。今季8戦目のフジサンケイレディス(4月24日〜26日/静岡県)で、悲願のツアー初優勝を飾ったのだ。

 あれから、およそ1カ月。勝利の瞬間をもう一度振り返ってもらうと、藤田は落ち着いた表情でこう切り出した。

「最後まで諦めなければ、こういった結果が出るんだなって。最後まで自分を信じてみるもんだなって、思いました」

 藤田はこれまで、上位争いをしていてもスコアが伸びなかったりすると、途中で試合を諦めたり、投げ出してしまったりすることが、度々あったという。

「でも、フジサンケイレディスでは違ったんです。(トップとの差が3打差に開いた)13番くらいで、試合を投げ出しそうな気持ちになったんですが、大江順一キャディーに『最後まで我慢したら、なんとかなる!』とハッパをかけられて、踏みとどまったんです。『最後までどうなるかわからないし、最後にはいいことがあるから』って言われ続けて、その言葉を信じて最後まで諦めないでプレイしました。そうしたら本当に最後にいいことが待っていた。それで、最後まで信じてやってみるもんだなって、思いましたね」

 最後まで試合を諦めず、藤田が勝利への執念を見せるようになった要因は、他にもある。今季5戦目のヤマハレディース(4月2日〜5日/静岡県)でのことだ。

「2日目を終えて2位タイと、上位争いを演じていたのに、3日目に『83』をたたいて(優勝争いから)一気に脱落してしまった。それで、最終日は目標のない戦いになってしまったことがすごく悔しかった。あのとき、本当に『勝ちたい』という気持ちのスイッチが入りました」

 以来、不甲斐ない成績に終わった自身への戒めの意味もあって、藤田はそれまで以上に結果にこだわるようになったという。そうして、続くスタジオアリス女子オープン(4月10日〜12日/兵庫県)で2位、KKT杯バンテリンレディス(4月17日〜19日/熊本県)で4位タイと結果を残し、フジサンケイレディスでついに栄冠を手にした。

 最終18番ホールでは、藤田がバーディーパットを入れれば優勝、外せば6人によるプレーオフが濃厚だった。プレッシャーのかかる状況の中、藤田がエッジから打ったボールは、フックラインを描いて、5m先のカップに見事に吸い込まれた。

「最後(のパット)は、プレーオフでいい、と思って打った球でした。まさか入るとは思っていなかったんで、その瞬間は自分でも信じられず、本当に驚きましたよ」

 ツアー初優勝は誰にとってもうれしいものだが、藤田にとってその喜びは、人一倍大きかったのではないだろうか。昨季、周囲から「大物ルーキー」として注目される中、ゴルファーとしての"どん底"を味わってきたからだ。

 ツアー本格参戦1年目となった昨季、藤田は前半戦こそ、優勝争いにも何度か絡んで評判どおりの活躍を見せた。だが8月、本人が語るには、地元・北海道で開催されたmeijiカップ(32位タイ。8月8日〜10日/北海道)あたりから、歯車が狂い始めたという。実際、meijiカップ以降の13試合中、8試合で予選落ちを喫した。ドライバーがイップス(※)気味になって、そこからアイアン、パターまで「打つのが怖くなった」という。
※集中すべき局面で極度に緊張すること。神経に及ぼす心理的症状。ゴルフでは、腕が動かなくなったり、頭で考えていることができなくなったりして、思うようなスイングやパッティングができなくなること。

「前半戦は、調子がいいというよりも、"流れ"で上位にいられた、という感じでした。後半戦はいろいろあって、精神的にもつらい時期でした。それで、ショットもバラバラになって、クラブを握るのも嫌になっていました」

 そうした状況の中、一番近くで支えてくれたのが、大江キャディーだった。どん底の状況にあっても、辛抱強く見守って、藤田のプレイの後押しをした。そして藤田は、大江キャディーと相談して、練習方法の改善も行なった。

「練習方法については、キャディーさんといろいろと話をして、試行錯誤を繰り返してきました。その中で、最も大きく変えたのは、自分の一番の弱点だと思っているアプローチの練習です。今までは、これくらいの振り幅だったら何ヤードくらい、という漠然としたもので、すごく感覚的なものでしかなかった。それだと中途半端というか、球の出方がバラバラだったんです。

 それを、しっかりと距離を測って、その場所に落とす、という練習に変えました。今では、1ヤード刻みで距離感をつかむ練習を徹底的にやっています。例えば、残り69ヤードだったら、その(距離を打つ)番手でのスイングができるよう、その形を体にしみ込ませています」

 藤田はこれまで、自らのアイアンの番手でどれぐらいの距離が出るのか、明確に把握していなかったという。それは、プロゴルファーとしては致命的なことだが、ジュニア時代から活躍している女子プロゴルファーには、そうやって感覚的にプレイしている選手が少なくない。ゆえに、アマチュアとプロとのコースセッティングの違いなどにうまく対応できず、ジュニア時代には強かった選手が、プロではまったく勝てない、ということがよく見受けられる。

 藤田も、アマチュア時代は北海道アマ5連覇という実績を持ち、"スーパーアマチュア"のひとりである。だが、プロで結果を残していくためには、基本的なことから、やらなければいけないことがまだまだたくさんあったわけだ。それに気づいた藤田は、今までの自分の練習法やルーティーンも少しずつ変えてきた。きちんとアイアンの番手による距離をつかみ、アプローチにしても感覚的なプレイからの脱却を図った。そうして、プロとして一歩ずつ、前に進んでいる。

「アプローチの距離感は、昨年よりもかなりまとまってきたと思います。ミスしたときにも、どうしてミスしたのかわかるようになってきたので、そこは成長している部分だと自負できます。

 イップス気味だったショットやパッティングも、とにかく気持ちで乗り越えてきました。おかげで、何事も自信を持ってやればできるんだということを、身を持って実感しています。昨年の夏からおよそ10カ月、どん底も見たし、上も見られた。なんか、すごく忙しい期間でしたね(笑)」

 これまで味わったことのなかった苦労も、今では笑って受け流せるくらい、精神的な余裕も生まれた。そんな藤田が初優勝の次に目指す先は、どこにあるのだろうか。

「1勝を飾ったからには、がむしゃらに2勝目を目指したい。次、すぐにまた勝たないと、『(1勝目は)まぐれ』って(周囲から)言われるのもわかっているんで(笑)。それに、今ではいいスコアを出すことが強いんじゃなくて、気持ちで負けないことが強いんだって思うようになりました。強いゴルファーって、最後まで諦めずにプレイして、最終ホールで笑っている人だと思うんですね。自分も、そんなゴルファーを目指していきたい」

 ツアー初優勝が藤田に与えた自信は計り知れない。諦めないこと、そして最後には笑っていること。自ら誓ったその思いを忘れなければ、2勝目を挙げる日もそう遠くはないだろう。

text by Kim Myung-Wook