ヴァヒド・ハリルホジッチが日本代表監督に就任してから2カ月が過ぎた。代表としての活動は3月の親善試合(チュニジア戦/2−0、ウズベキスタン戦/5−0)を含めた1週間、そして5月12、13日に行なわれた国内合宿しかない。だが、監督自身の個性やチ−ムマネジメント、ル−ル、戦術について発信されるニュ−スは、これまでになく刺激的だ。ジーコ、イビツァ・オシム、岡田武史、アルベルト・ザッケローニという歴代の指揮官の指導を受けてきた今野泰幸(ガンバ大阪)は、新監督をどう見ているのだろうか――。

「3月の親善試合で初めて集まった時、まず感じたのは、これから日本代表を改革していくぞという強い決意ですね」

 新監督はどういう人間なのか。今野ら選手が緊張しながら集まるなか、最初に始まったのは長いミーティングだった。

「印象的だったのは、ミーティングの回数と長さ。これからどういうサッカーをしていくのかということを選手の意識に落とし込むために、何回もミーティングがありました。その最中、監督が強く言いたいことは何度も繰り返し言いましたね。たとえば、日本のスタンダードを変えていこうとか、縦に速いサッカーをやっていこうとか。具体的にアトレティコ・マドリードとか、ドルトムントなどのチーム名を挙げて、こういうサッカーをしたいという話をしていました。長いミーティングっていろんな話をしますけど、最終的に何をやりたいのか分からない時がある。でも、監督がやろうとしているサッカーは、すごく明確で分かりやすかった」

 今野は、直感的に「ついていける監督だ」と思ったという。

 日本は昨年のブラジルW杯で惨敗し、1月のアジアカップではベスト8で敗退。また、U-16やU-19などのカテゴリー別代表はアジアで勝ち抜けない状況が続き、U-17W杯とU-20W杯への出場を逃している。閉塞感がある日本サッカー界には、こうした明確なビジョンと厳しい規律を持つ監督が理想的だと今野は思っていたのだ。

「やっぱり、ブラジルW杯の惨敗ってすごく大きいんですよ。ザッケローニ監督のパスサッカーで世界と勝負しようと4年間やってきて、ある程度の手応えを感じて本大会に行ったら惨敗した。その時、選手はどうしたらいいんだろう、どうやったら世界と戦えるんだろうとすごく迷ってしまった。しかも、再スタ−トを切ったアジアカップも負けてしまったので、本当にどうしたらいいのか何も思いつかなくなってしまった。世界への道が閉ざされた感じがしたんです。

 そんな時、ハリルホジッチ監督がどうやったら世界と互角以上に戦えるのか、道を示してくれた。こういうサッカーをしていこうという信念を感じたし、『ここが日本の弱点だ』とハッキリ言ってくれたんです。個人的にも話をしてくれるし、ダメなものはダメと指摘してくれる。いい監督がいいタイミングで来てくれたなと思いましたね」

 ハリルホジッチは、チーム内に自分の哲学を浸透させていく手法も独特だった。3月の代表合宿の際、選手ひとりひとりと個人面談を行なった。それ自体異例なのだが、ミーティングをポジション別にして、細分化して必要なことを伝えるなど、そのやり方は過去の代表では見られないほどきめ細かいものだった。

「個人面談、僕はなかったですね。ウズベキスタン戦が終わって、『もっとこうしろ』と言われるのかなと思ったけど、『もうケガするなよ、いつも見ているからな』というぐらいで、ほかには何も言ってくれなかった(笑)。僕自身は言われると燃えるタイプなので、ガツンと言ってほしかったですけど。

 ポジション別ミーティングでは、ボランチの選手が集まって、相手はこうやってくるからそれにはこう対応しようとか話しました。それがけっこう長くて。最初、DFからスタートしたんですけど、最後のFWの時はかなり時間がおしていました。

 それに、試合後もすぐにミーティングがありました。ミスしたり、試合内容が悪い時の映像って見るのがイヤだったりするけど、『これをしちゃダメなんだ』『これを求めているんだ』というのを、試合に出ていない選手を含め、チ−ム全体で理解して共有できるので、そういう意味で試合後のミーティングはすごく大事だと思いましたね。これまでは、試合が終わるとそのまま解散してしまっていたので。

 一番驚いたのは、国内組と海外組に分けてミーティングしたことです。海外組には『試合に出てくれ。出られないならこちらでメニューを渡すのでそれをやってくれ』と要求していました。国内組は、みんなJリーグで試合に出ているけど『今までの考え方じゃダメだ。合宿で話したことを意識して変えていく必要があるし、トレーニングもこっちが要求するものをやってもらう』と言われました。今までそんなこと言われたことはなかったですし、体脂肪のことまで厳しく言われなかった。だから、これから先、何を言われるんだろうと、みんなピリピリしていましたね」

 多くを要求し、しかも妥協を許さない厳しい姿勢に選手が面食らった部分もあるが、今野がハリルホジッチに「凄味」を感じたのは、畳み掛けてくるさまざまな要求の量や質ではなかった。要求したことをできない選手は容赦なく外す。例外がまったくない"厳しさ"だった。

「この人、本気だな。言ったことは全部やるなと思いました。少しでも要求したことができなかったり、監督の趣旨に沿わないことがあると、すぐにふるい落とされる感じですからね。しかも『常に見ているぞ』とプレッシャーをかけてくる。

 実際、Jリ−グの試合はもちろん、練習への取り組み方も見ているし、普段の生活や食事もチェックしているので、気が抜けない。さらに『いい選手がいたらすぐに入れ替えるぞ』と言われる。そういうのを最初にガツンと言われたんで、そりゃ、やらなきゃと思いますよ。

 ザッケローニ監督の時はメンバーが固定されて、安心感みたいなものがありました。ハリルホジッチ監督の代表はサバイバル。生き残るのが本当に大変ですし、逆に選手は活躍すれば代表への道が開ける。厳しいけどフェアに見てくれるので、それは選手にとって大きなモチベーションになりますね」

 ハリルホジッチの初陣となったチュニジア戦は2−0、ウズベキスタン戦は5−0で快勝した。短期間の合宿で結果も出た。だが今野は、この勝利に浮かれてはいけないと警鐘を鳴らす。

「親善試合で大勝すると、もちろんうれしいし、ホッとしますよ。試合に出ている選手は、試合内容が良くて、点が取れて、失点ゼロで終わればより充実感があると思う。でも、最近思うのは、これで満足しちゃダメだってことです。

 代表で生き残っていくため、世界と互角以上に戦えるようになるためには、個人の反省点やチームの課題を探して、さらにプレーの幅を広げていかないといけない。ブラジルW杯であれだけやられたんだから、日本はそのくらいしないと世界に近付けないですよ。監督はそれを分かっている。だから、僕たちにいろんなことを要求してくる。めちゃくちゃ大変ですけど、逆に『やってやろう』と思っています」

 チームを強くするために選手に多くを要求し、実行することを求める。厳しい規律で全体を管理する。「ハリル軍曹と仲間たち」は世界基準を目指し、今、代表改革に取り組んでいる。
(つづく)

佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun