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「美しいものでなければ、人の心を打つことはできない。情熱を込めてつくったものでなければ、感動を呼ぶことはできない」。4月、ミラノサローネが行われた彼の地においてマツダが世界に向けて発信した「魂動」デザインの神髄を、現地への取材でとらえた。

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2/13パーツ点数を極力抑えたシンプルな造形。

3/13「ロードスター」のスタイリングに通じる躍動感を表現している。

4/13サドルの赤いステッチは「ロードスター」と同じ意匠。

5/13「CX-3」と「Sofa by KODO concept」。

6/13美しく流れるラインは、魂動デザインの象徴である。

7/13鮮やかな赤の差し色が日本独特の艶を表現している。

8/13マツダ車の「シグネチャーウイング」を思わせるユニークなデザインのテーブル。

9/13鎚起銅器の老舗「玉川堂」の手による「魂銅器」。

10/13金城一国斎の手による卵殻彫漆箱「白糸」。

11/13「魂動」を表現したオブジェも展示。

12/13展示会場はアートギャラリーなどが多く立ち並ぶブレラ地区。

13/13ミラノサローネへの出展は2年ぶり2回目となる。

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「ロードスター」と「Bike by KODO concept」。

パーツ点数を極力抑えたシンプルな造形。

「ロードスター」のスタイリングに通じる躍動感を表現している。

サドルの赤いステッチは「ロードスター」と同じ意匠。

「CX-3」と「Sofa by KODO concept」。

美しく流れるラインは、魂動デザインの象徴である。

鮮やかな赤の差し色が日本独特の艶を表現している。

マツダ車の「シグネチャーウイング」を思わせるユニークなデザインのテーブル。

鎚起銅器の老舗「玉川堂」の手による「魂銅器」。

金城一国斎の手による卵殻彫漆箱「白糸」。

「魂動」を表現したオブジェも展示。

展示会場はアートギャラリーなどが多く立ち並ぶブレラ地区。

ミラノサローネへの出展は2年ぶり2回目となる。

イタリアのミラノで毎年4月に開かれる世界最大級の国際家具見本市、「ミラノサローネ(ミラノサローネ国際家具見本市)」。54回目を迎えた今年は世界各国からのべ1500社以上が参加し、本会場となるフィエラを中心に市内の至るところでさまざまな展示が行われた。

近年は家具メーカーだけでなく、ファッションや自動車、エレクトロニクスなど、異業種からの参加も増え、その影響力と関心の高さから単なるデザインエキシビジョンの枠を超えて、ブランドのアイデンティティを発信する場としても注目を集めている。

日本の美意識に根差した感性をどう表現していくか

ミラノサローネを中心に、ミラノ市内のさまざまな場所でエキシビションが行われるミラノデザインウィークに今年、マツダが出展した。2年ぶり2回目となる今回は、ミラノ市内のブレラ地区に会場を構え、『Mazda Design クルマはアート』というタイトルのもと、最新モデルの「CX-3」と「ロードスター」の展示に加えて、マツダのデザインテーマである「魂動−Soul of Motion−」をイメージしてつくられたソファと自転車、さらには「魂動」の世界観に共感する伝統工芸作家の手による作品を発表した。

2010年に誕生した「魂動」以降、マツダのデザインは劇的に変わった。クルマを単なる鉄の塊ではなく、乗り手と心を通わすことのできる生命感にあふれた存在にしたい。「魂動」が掲げるデザインテーマに従って、一目見ただけで生き物を感じさせる力強くも美しい動きをクルマのデザインで表現しようと取り組んできた結果、いずれのモデルもヒット作となる大成功を収めた。いまやマツダを語るうえで、デザインは切っても切り離せないものとなっている。

マツダの優れたデザイン性を支えているのは、例えば「侘び・寂びの精神」に代表されるような日本独特の精神文化だという。古来より日本のものづくりを突き詰めていくと、無駄な要素をできる限り削ぎ落とした、シンプルでミニマルな造形へとたどり着く。かつてスティーブ・ジョブズは「シンプルであることは、複雑であることよりも難しい」と語ったが、無駄を削ぎ落としたシンプルな造形は、凛とした品格がありながら、不思議と艶っぽい色気も備え、それは欧米の文化とは異なる日本ならではの美意識の表れといえる。魂動デザインをリードしたデザイン本部長の前田育男は、まさにそうした日本の美からインスピレーションを得て、クルマをデザインしていったと話す。

「メイド・イン・ジャパンでありたいという思いがぼくのなかにはあって、特にグローバルで世界のトップランクのデザインカンパニーになろうと思ったら、どうしても背景に国というか、固有の文化が必要になってきます。イタリアならイタリアの、ドイツならドイツのデザインのイメージがあるじゃないですか。でも、日本のデザインってイメージがあまりない気がする。だから、大きいことを言うようだけど、日本ならではのデザインというものをつくっていきたいし、それをリードできる会社になりたいというのがぼくらの目標です。ただ、日本的だからといって、わかりやすく和の意匠にするということではなくて、あくまでも日本の美意識に根差した感性をどう表現していくかが重要なのです」

前田育男|IKUO MAEDA
マツダ 執行役員 デザイン本部長
1959年広島県生まれ。京都工芸繊維大学意匠工芸学科卒業後、82年にマツダに入社。チーフデザイナーとしてRX-8、デミオ(先代モデル)などを手がけ、2009年から現職。デザイン本部長としてCX-5、アテンザ、アクセラなどの商品デザイン開発、モーターショー、販社店舗デザインの監修など、「魂動」デザインの具現化、コミュニケーションデザインを牽引する。

マツダの欧州拠点であるマツダモーターヨーロッパでデザインディレクターを務めるケヴィン・ライスは、グローバルな視点から見た魂動デザインのメリットについてこう語る。

「かつてマツダは、国ごとに違うクルマを販売していたこともありました。当然、同じプランであってもそこに統一感はないから、マツダらしさというものが伝わりにくかったと思います。しかし、魂動デザインができてからはマツダデザインのフィーリングをよりプレミアムな形で、世界各国に共通で発信することができるようになりました。しかも、日本人の繊細な美意識は世界中が認めるところです。現行モデルのアテンザが発売されたときの話ですが、当時はBMWやメルセデスなどのメーカーに比べると、マツダのヨーロッパにおける知名度はまだまだ低かった。でも、アテンザが走っているのを見て、あのかっこいいクルマはどこのだと評判になりました。純粋にデザインが評価されたのです」



普遍的ともいえる美をつくっていきたい

現時点におけるマツダデザインの到達点、それが「CX-3」と「ロードスター」である。前者は知的で凛とした品格を、後者は思わず触れたくなる艶っぽさを特徴的に表現しながら、いずれもメイド・イン・ジャパンならではのエレガンスが感じられる。

「やはり美しいものでなければ、人の心を打つことはできないと思います。情熱を込めてつくったものでなければ、感動を呼ぶことはできません。そのためにわれわれは、人の手の温もりが感じられるデザインにこだわってきました。人の手が生み出す繊細な造形によってつくられたクルマは、単なる道具であることを超えて、見る人や乗る人の気持ちを強く揺り動かすと思うのです。そうやって人の心を動かすクルマのデザインに挑むなかで、モノに魂を吹き込むための技術や表現力に磨きをかけるために、ときにはクルマ以外の作品をつくったりすることもあります。

クルマのデザインを考えたとき、いまは新しいものをつくり出していくのが相当難しい時代になっています。安全性が何よりも求められるクルマにはご存知のようにいろいろな縛りがあって、そのなかで飛び抜けたデザインをやっていこうとすると、いままでどおりの発想をしていてもまず出てこない。だから、あえてクルマ以外のことを考えて、そこからデザインのヒントを得るようにしています。あと、クルマのデザインが評価されることがわれわれのいちばんの願いですが、どうしてもクルマだけでは表現しきれないマツダデザインの真髄みたいな部分もあって、そこを補完する意味もある。今回のミラノサローネで発表したソファと自転車は、まさにそうしたもののひとつです」(前田)

「Sofa by KODO concept」は、マツダのデザイナーと、ミラノ在住の日本人デザイナー伊藤節+伊藤志信、そしてイタリアの家具職人とのコラボレーションによって生まれた。美しく磨き上げられたアルミのフレームがつくり出すソリッドな造形は、「CX-3」を特徴づける凛としたスタイリングを意識したという。一方の「Bike by KODO concept」は、自転車本来の美しさを追求したトラックレーサーを目指してつくられた。フレームはマツダの職人が1枚の鉄板から丹念に叩き出して成形し、手縫いの革を使ったサドルにはロードスターと同じ意匠のステッチを採用。いまにも動き出しそうな躍動感と美しくて無駄のないラインは、ロードスターのスタイリングと見事に響き合うデザインとなっている。

ケヴィン・ライス|Kevin Rice
マツダモーターヨーロッパ デザインディレクター
1964年英国生まれ。コベントリー大学卒業。95年から2000年までマツダモーターヨーロッパにシニアデザイナーとして在籍。その後、BMWでデザインマネジャーとして働き、13年に再びマツダモーターヨーロッパに復帰し、14年より現職。欧州デザイン部門のトップとして、「魂動」デザインのさらなる強化と進化を指揮する。

「自転車のフレームはマツダのデザイン本部の職人がつくったんですけど、1枚の鉄板を叩いたり、伸ばしたりして、あの形にしたという話をイタリア人の設営スタッフにしたら、みんな感動していました。美しいものを見て感動するマインドって、おそらく人間の本質なんですよね。言語や時代が違っても、人間という動物に組み込まれたひとつのファンクションなんだろうなと思います。そうした普遍的ともいえる美を、われわれはつくっていきたいんです」(前田)

また、今回の展示では、魂動デザインに共感する日本の伝統工芸作家たちの卓越した手わざによるアートワークも注目を集めた。江戸後期から200年の歴史をもつ、新潟県燕市の鎚起銅器の老舗「玉川堂」は、本来鉄の塊であるクルマに生き生きとした美しいフォルムを与え、命を宿らせる「魂動」の哲学に共鳴し、かつて銅の板材がなかった時代の技術を再現させ、銅の塊を数人がかりで叩きに叩いて分厚い銅板に打ち延ばすところから制作を始め、「魂銅器」をつくり上げた。

そして、広島の地で、堆彩漆と呼ばれる独特の漆芸技法を受け継ぐ「金城一国斎」は卵殻彫漆箱「白糸」を制作。深い青地の箱の側面に描かれた水の流れは、幾重にも塗り重ねた漆の上に細かく砕いた卵の殻を一つひとつ貼り込むという緻密な作業を何度も繰り返してつくられたものである。

「例えば今回つくった自転車も、コンピューターでプログラムしてミリングしたら同じ形はできると思います。でも、出来上がったフィーリングは絶対に同じにはなりません。実際にあれを見たとき、わたしはとても興奮しました。なぜなら人の手によってつくられているからです。人の手の温もりが言葉にせずとも瞬時に伝わってくるんです。これは銅器や漆箱も同じで、つくり手が自らの手で精魂込めてつくったものには、間違いなく心に響く何かがあります。いいデザインには、国や言葉を超えて届く力がある。とても難しいことですけど、魂動デザインが目指しているのは、まさにそこなのです」(ケヴィン)

デザインは何も目に見える表層だけを指すのではない。その根底にはヴィジョンがあり、コンセプトがある。メイド・イン・ジャパン、そして人の手の温もりにこだわったマツダのデザイン哲学は、文化や言語の違いを軽々と超えて、見る者に感動を与えてくれる。今回のミラノサローネでの展示は、そのことを証明するまたとない機会となった。

「マツダデザイン」躍進の秘密〜3回連載

NOSIGNER・太刀川英輔が探る「デザインが生む変革」建築家・豊田啓介が探る「美を生むデザインプロセス」ホワイトマウンテニアリング・相澤陽介が探る「色と素材へのこだわり」

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