書籍は売れる、売れないの二極化の時代といわれている。売り上げランキング上位の本は注目され、さらに売れていく。「そんなに売れているなら読んでみようか」と感じて、本に手を伸ばす人も多いのではないだろうか。しかし、このベストセラーランキングは操作できる……という指摘もしばしばされる。今回はベストセラーの裏側や書籍ランキングの操作方法について、マスコミや出版業界関係者に訊いてみた。

なぜ書店の売り上げランキングに注目するのか

ランキングを参考にしているのはマスコミ関係者も同じだ。新聞でベストセラーを取り上げる欄を担当していた記者はいう。彼の元には「この本は売れているので取り上げてください」という売り込みが大量にきた。

「“発行部数30万部”、“Amazonの実用書ランキング1位”、と煽って売るのはもう通用しなくなってきています。発行部数はあくまでも“印刷した数”であって“売れた数”ではありません。

かつて大物芸能人の自伝本が100万部のヒットと報じられましたが、実売は30万部で大赤字だったとか。最近だと、故やしきたかじんさんを扱ったノンフィクション『殉愛』は初版25万部と伝えられ、書店にも大量に平積みしてありましたが、結局、大阪でしかあまり売れなかったそうです。

また、Amazonのランキングはリアルタイムで1時間ごとに更新しているので、著者がまとめて何十冊か買えばびっくりするぐらいランキングはあがります。あまりあてになりませんよ。これらのような曖昧な情報に比べて、大手書店さんの売り上げランキングはリアルな数字を元にしていますから、僕らみたいなベストセラーをチェックする側からすると参考になります」

2,000万円あれば誰でもベストセラー作家になれる時代

読者もマスコミも書店ランキングを注目している。それを知っているがゆえに、この書店のランキングも操作している人たちがいるのだという。資金力がある著者が自分の本を書店で買い漁るのだ。

中堅出版社の編集者はいう。

「“誰だよ、これ”っていう企業の社長が書いた本が書店の売り上げランキングで1位に君臨していることがしばしば見受けられます。次の週にはランキング圏外です。著者が自分の本を書店で買っているんですよ。ランキングで1位になれば話題のベストセラーとして注目されますから。

かつてだと、おじさん社長が自分の本を書店でまとめて100冊購入したりしていましたが、それだと“買い占め工作”がバレるじゃないですか。書店さんは気づきますしね。そのため、最近台頭している“意識高い系”著者……NHKの『日本のジレンマ』に出たいようなような人たちは、アルバイトを何人か雇って、書店で一冊ずつ買わせているそうですよ。しかもお店で『○○って本はありますか?』って尋ねさせるんだそうです。そうするとお店の人が『この本は話題なのかな』って記憶に残しますよね。そうやって彼らは自分の著作をベストセラーや話題の本にしていきます。

今、単行本は1万部売れたらベストセラーです。税込単価1,778円の本を1万冊買うと1,778万円。バイトに支払う経費を見繕っても2,000万円あれば十分にベストセラーは作り出せます。資金力がある人からしたら2,000万円なんてたいした額じゃないでしょう」

本を出すことがステイタスという日本独特の文化

なぜ、彼らは多額の資金を使ってまで、ベストセラーを出したいのだろうか。

「売れっ子のお笑い芸人さんが“日本は本を出さないと認められない文化”と嘆いていました。成功している芸能人ですら、本を出して、社会的に承認されたいんですよ。つまり、儲けは関係なく、本を出したい人はたくさんいますし、さらに欲張りだとベストセラー作家の肩書きが欲しいわけです。ベストセラーの著者になると、イメージアップになるんでしょう。

芸能界中から羨望の的は、小説『火花』(文藝春秋)がヒットしているピースの又吉直樹さんですが、今後は文化人としてのステイタスを得て、仕事の幅を広げていくのかもしれません。

企業経営者がベストセラー著者の肩書きが欲しいのは、注目されることがプロモーションになるからです。露骨に書店で買い占めをしている企業経営者を見て、『これって広報宣伝費で落とすんでしょうかね』なんて噂話をしたりしています。そういう評判が立つと、業界的にはスポイルされていきますから、僕個人はお勧めはしません」(前出の編集者)

結局、そうそう簡単に「ベストセラー作家」になることはできないようだ。

(木原友見)