「母性については、答えが出せないまま描いています」

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「生」の現場で働く看護師から、風俗嬢という「性」の現場へ。インタビューの後編では、さまざまな職を経て、『透明なゆりかご』を描くに至った経緯、思いについてうかがっていく。
(前編はこちら)


「産んだら幸せ」「母性はあって当然」


──今までの沖田さんの作品はご自身の発達障害や家族のことを描いたものが多かったと思います。なぜこの漫画を描こうと思ったのでしょうか?
沖田 もともとは医療モノが好きだったのですが、ずっと違和感がありました。特に出産・妊娠に関するお話は、「色々な困難があったけれど、産んだら皆幸せ」というオチになるものが多いんですよね。でも現実は産んだら終わりじゃない。赤ちゃんが無事に生まれたら家族の人生は幸せなまま終わるのかといったら、そういうケースばかりではありません。わたしがいた病院では普通に結婚して子供を産む人が半分、そうじゃない人が半分。もちろん産まなかった人もいて、全然少数ではありませんでした。
──この漫画で沖田さんが「これだけは描かない」と考えていることはありますか?
沖田 バイトをしている時、妊娠した女性が男にも親にも責められて、誰も味方がいない状況になっているのがとても不思議でした。子供をつくるのは一人じゃできないのに、どうして責任は女性だけが負っているのかと。産まないという選択肢は良いイメージのことではありませんが、考えた末の結論であり、結果です。妊娠・中絶という結果にスポットを当てるのではなく、それぞれの事情や背景をしっかり描こうと思っています。産まない選択をした人が悪、という簡単な図式にするつもりはありません。
──中絶以外に作中では「母性」もあつかっています。ネグレクトや子供へのDVを繰り返す母親が登場しますが、母性についてどのようのお考えですか?
沖田 わたしが目にした母性は、ゆらいでいてとても不安定な印象です。アップダウンがあって、強まったりと弱まったりするもの。子供を産んだ瞬間から右肩上がりになるものでもなければ、子供の成長とともに弱まるものでもないという感じです。作中に登場する、不妊治療の末に授かった子供を他の子と取り替えようとした母親も、赤ちゃんが生まれてくるのを楽しみにしていました。服をつくってあげたりしてとても幸せそうにしていたんです。けれど我が子を見て、彼女は「ハズレだ」と口にしました。「もっとかわいい子が生まれるはずだった」「この子は将来何もかもうまくいかない」と。わたしにはこの方を「ひどい人だ」と決めつけることはできませんでした。ただ、母性が暴走してしまったんだと。
──「母性とは不思議なものだ」と描いていますよね。
沖田 そもそも母性が良いものだという考えには疑問を抱いていました。悪くはたらいてしまうこともあるのではないかと。たとえば子供への過度の期待や愛情も元をたどれば母性なのではないでしょうか。わたし自身手探りで描いているので、答えには至っていません。個人差が大きいですし、ひとまとめにするのは乱暴な気がしています。また、自分にはそもそも「母性がない」と感じている女性もいます。産んだはいいけど子供がかわいくない。それがネグレクトになったりする場合もあるのですが、大体のお母さんは口にしません。「あって当然のものがない。母親失格だ」と思っているのではないでしょうか。


「透明」はクリアーという意味じゃない


──逆に「これは描こう」と思っていることはありますか?
沖田 産婦人科は命が生まれるだけの場所じゃない、ということですね。これは働く前と後でわたし自身の考えが180度変わったことでした。DVや性虐待、中絶とかそういうものは見なくていいじゃないですか。見たくないし。でも、赤ちゃんが生まれて幸せそうな人々の裏側で、こっそりと正反対のことが行われている。それも特別なことではなく、日常的にです。産婦人科の明暗はテーマの1つですね。
──タイトルの『透明なゆりかご』というのは沖田さんがつけたのですか?
沖田 実は正式決定までの仮タイトルでした。『透明なゆりかご』というのは、連載当初のメインテーマだった「中絶」からイメージしました。存在していたのに認識されることなく“ないことにされた”中絶胎児たちの命。存在が透けているような不安定感、不透明感を出したくて。“透明”はクリアーなものという意味ではなくて、ぼんやりした存在感のことなんです。
──最後に読者の方へ、メッセージをお願いします。
沖田 産婦人科の入院生活は1週間くらいで、病院ができることは限られています。そんな中でも、一見幸せそうに見えた家族の色んな問題を目にしました。見習いのわたしは見ているだけで、お手伝いさえできないことがたくさんありました。けれど、その中で感じたもの、頭に残っているエピソードをこれからも描いていきたいと思っています。

『透明なゆりかご』
は、月刊誌「ハツキス」で連載中。試し読みはこちら。


沖田×華(おきた・ばっか)
富山県魚津市出身。看護師、風俗嬢、AV出演を経て漫画家に。著作には「毎日やらかしてます」シリーズ、『ギリギリムスメ』などがある。幻冬舎コミックplusにて『蜃気楼家族』を連載中。

(松澤夏織)