それまで4−3−3の右ウイングを務めていたメッシを、センターフォワードで起用したのはグアルディオラだ。

 08〜09シーズン決勝(@ローマ)対マンU戦。メッシは、キックオフ直後こそ右ウイングに位置したが、5分も経たぬうちに、センターフォワードのエトーと入れ替わった。そしてこのスタイルは、0トップ型として以降、バルサに定着することになった。

 エトーは奪われたら奪い返しにいく。グアルディオラは、そのメッシにはない習性を、マンUの左サイドバック、エブラにぶつけた。マッチアップさせることで、その攻撃参加を封じようとした。戦前、両者全くの互角と予想されたこの一戦が、バルサの完勝に終わった大きな理由の一つとして挙げられる。

 その3シーズン前(05〜06シーズン)にもエトーは、バルサのCL制覇に大きく貢献していた。まさに、陰になり日向になり。誰の陰になっていたのかと言えば、左ウイングのロナウジーニョだ。彼はポジションの概念が希薄で、本能の赴くままにプレイする傾向があった。気がつけば「俺が、俺が」と、持ち場である左ウイングの場所を離れ、真ん中に入り込んで行った。

 エトーはそこで、献身的なポジションワークを発揮した。すかさず左に開き、お互いが重ならないように、バランスを取ろうとした。相手ボールに転じた場合も、ロナウジーニョの分までボールを追いかけた。

 その姿が、なぜいま蘇るのかといえば、ルイス・スアレスにも全く同類の感想を抱くからだ。人は見かけによらずではないが、この選手、一目見ただけでは献身的な選手には見えない。ウルグアイ代表、リバプール、その前に所属したアヤックスでも、我が道を行くストライカーらしい振る舞いが目立った。バルサで上手くやっていけるのか。メッシ、ネイマールと調和できるのか。懐疑的になるのは自然な成り行きだった。

 ポジションはセンターフォワード。だがそこにはメッシがいた。バルサにはグアルディオラ時代からの流れが生きていた。「噛みつき事件」の出場停止処分が解けた10月、ルイス・エンリケ監督が、スアレスを起用したポジションは右ウイングだった。しかし、予想通り、スアレスはそこに馴染めなかった。本来の魅力を発揮することができなかった。

 するとルイス・エンリケは、スアレスを真ん中に持ってきた。メッシを右ウイングに据えた。グアルディオラ時代から続く流れにピリオドを打った。スアレスは、それを機に息を吹き返し、ゴールを量産していくわけだが、それ以上に驚かされたのは、その犠牲的な精神になる。

 メッシはかつてのロナウジーニョと同じように、ポジション移動を頓着なく行う。気がつけば、かつてのポジションである中央に入り込もうとするが、スアレスは、その動きを見ると、スッとサイドに開く。ストライカーであるにもかかわらず、最も得点が望めそうな自身の定位置をメッシに譲ろうとする。エトーと同じように、全体のバランスを維持しようと、奥ゆかしさに溢れたプレイをする。

 このポジションチェンジ。両者合意の上で行われているという感じではない。主導権を握っているのはメッシ。メッシの都合に合わせてスアレスが動く。メッシが作った穴を、スアレスが献身的に埋める。そうした構図になっている。

 スアレスは、まさにメッシにとって歓迎すべき選手。監督にとって使いやすい選手になっている。バルサにとって嬉しい誤算。チャンピオンズリーグ決勝進出に王手を掛けることができた大きな要因の一つと言っていい。

 右ウイングにボール奪取能力の低いメッシが回れば、対峙する相手の右サイドバックは、攻撃参加がしやすくなる。グアルディオラはそれを嫌い、メッシを真ん中で0トップとして起用した――とは、これまでにも述べたとおりだが、現在は、グアルディオラが心配したような姿にはなっていない。