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プロやアマチュアの音楽家はもちろん、義務教育課程で誰もが音楽の授業で目にしたことのある“楽譜”。五線譜と呼ばれる、5本並んだ平行線に音符や記号が並べられ、楽器を演奏したり、歌をうたう際の音程や音階などをすべて示した、いわば音楽の“共通言語”と言ってもいい書面だ。

しかし、楽譜を見るのは学生時代以来という人はもちろん、ふだん音楽をやっている人にとっても、この楽譜がどのように作成されているかを改めて考えてみたことはあまりないのではないだろうか。現在は、通常の文字による印刷物であれば、“DTP(デスクトップ・パブリッシング)”と言って、コンピューター上で処理されて、“版下”と呼ばれる印刷物の大元になる原稿まで、すべてデータで作成される。

楽譜の場合も、やはり現在ではコンピューター上で作成されるのが主流だ。そこで今回は、全世界で250万人以上のプロの音楽家や教育関係者、出版社が使用しており、市場シェアトップという楽譜作成ソフト「Finale(フィナーレ)」の日本での販売元である、エムアイセブンジャパンの関口彰広氏に楽譜づくりについて話を伺った。

○1枚作るのに丸1日かかる楽譜制作

同社が販売する「Finale」は、“楽譜浄書”のプロ用ツールとして、1989年に生まれたソフト。ピアノからパーカッション、オーケストラ用や和楽器、現代音楽まであらゆる音楽の楽譜の作成に対応している。“楽譜浄書”というのは、手書きされた楽譜を出版物用に読みやすく、美しく仕上げる清書の作業のことで、楽譜のタイポグラフィのようなもの。15年ほど前までは専門の職人さんが手作業で一つひとつ仕上げていく労力の要る作業だったという。

「まずは五線を書くところからスタートして、音符の丸の部分(符頭)は一つひとつスタンプを押していき、棒の部分(符幹)は定規で書き足していきます。ト音記号などの記号はすべてレタリングで、1ページをつくるのに職人さんが丸1日かかるみたいな世界でした」と関口氏。しかし、その後にパソコンが普及したことにより、楽譜の世界もデジタル出版化が望まれるようになり、登場したソフトのひとつが「Finale」だ。とはいえ、完全にデジタル化されるようになったのは、1997〜1998年ごろ。それまでは音符とおおよそのレイアウトをコンピューター上で行い、連音符の斜め線などは印刷をするとジャギー(ギザギザな線)が出てしまうこともあり、手書きと併用していた時代もあったそうだ。

ちなみに、関口氏によると今でも楽譜浄書の職人さんは存在しているとのこと。「職人さんが手書きした楽譜のほうが味わいがあるので、今でもそちらを好む人もいます。特に、初期の頃はコンピューターで書いた譜面に抵抗感のある人も多かったですよ。コンピューター浄書の機械もプリンターも当時はまだ高価でしたしね。どれもが次第に安価になっていき、浸透していきました」と振り返る。

「Finale」による実際の楽譜浄書の作業工程は、まずは五線譜に音符を入力するところから始まる。そして、その方法は複数選択できるとのことだ。

「一番シンプルなのはマウスで1音ずつ入力していく方法。そのほかにも、MIDIキーボードをパソコンにつないで、弾いた音をそのまま読み取り楽譜化することも可能です。あとは、出来上がった紙の楽譜をスキャンして読み取って入力することもできます。シーケンスソフトで作曲したMIDIデータを出力して、Finaleで楽譜化するといったやり方もありますね」と関口氏。

○音楽業界に楽譜ソフトがもたらした"モノ"

楽譜を1枚作成するのにかかる時間は、もちろん楽曲の複雑さや種類によりさまざまだが、手書きにかかる時間に比べれば何倍もの速さだ。例えば、実際にキーボードで弾いた音を楽譜化するのは、ほぼリアルタイムで処理されるので、演奏時間に等しい。ただし、コンピューターによる機械的な作業なので、読み取りに間違いもあり、それらを確認し、エラーを修正していく必要はあるが、手作業でイチから細かく書いていく作業に比べれば、その作業は何十分の一以下の労力だ。音楽界におけるその変化を関口氏も次のように語る。 「コンピューター浄書が一般化したことにより、楽譜を販売する音楽出版社が増えましたね。それ以外にも、個人レベルで作曲とかアレンジをした曲の楽譜をオンライン上で配布したりという新しい形態の出版物も増えています。オーケストラの楽譜なんて、以前は莫大な労力が必要でしたが、Finaleを使えば、作曲と同時に楽譜化されてしまいます。手書きで作曲している人はもうほとんどいないと思いますよ」

○Finaleによって楽譜がより身近な存在に

ほか、関口氏は「これまで"楽譜"や"音楽"の印象は難しい、堅苦しいという人が多かったので、それがかなり変わってきた印象があります。今回紹介したように、パソコンを使えば、こうやってカンタンに楽譜を作ることができるわけですから」と楽譜に対する周囲の印象の変化を語る。続けて「楽譜に対して苦手意識を持っていた人こそ、こういったソフトを使うことで自然と"音楽"が身に馴染んでくるようになると思うんです」とコメントした。

最近ではFinaleを楽譜を浄書するためのツールとしてではなく、アマチュアの間で、演奏や作曲用に活用しているユーザーも増えているという。「趣味で楽譜をトレースして楽しんでいる人もいるみたいです。もともと楽譜の出版用で始まったFinaleですが、価格も安価になり、2000年代後半から“プレイバック”という演奏機能が充実してきました。趣味で交響曲の楽譜をFinaleで全部入力して演奏させて楽しんでいらっしゃるシニアの方とかもいます。あとは思いつくままに音符を入力したものをあとから修正して、専門的に音楽を勉強した人でなくても気軽に作曲に挑戦してみる人も増えてきています。そしてそれをCDにしたりして、楽譜作成ソフトとしてではなく、音楽ソフトとしても楽しんでいただいているようです」と紹介してくれた。

さらに、「Finaleは教育界への導入も目覚ましいです。例えば、“色音符”と呼ばれる、幼児期の初期の音楽教育で利用されているメソッドにも対応しているんです」とのこと。電子黒板を活用すれば、黒板上でなぞった場所がそのまま楽譜になっていくなど、音と楽譜との関係を視覚と聴覚で感覚的に捉えることができたり、楽器の演奏ができても楽譜が読めないという人の学習を効率的にアシストしたり、音楽を新しいかたちで理解したり楽しんだりするのに有効だ。

音楽家のための専門的なツールとしてだけでなく、学校を卒業して以来、音楽に触れてこなかった人や、子どもに音楽の楽しみを伝えたいという保護者なども、同ソフトのフリー版「Finale NotePad」で、まずは気軽に音楽に触れてみてはいかがだろうか。

(神野恵美)